2023年のプラチナ相場、価格反発を予想
前々回の農産物、前回の金(ゴールド)に続き、今回は「プラチナ」の見通しについて書きます。以下のグラフのとおり、2023年のプラチナ相場は反発すると考えています。
図:プラチナ価格の推移(ドル建てスポット 月間平均) 単位:ドル/トロイオンス
足元、プラチナ相場(ドル建てスポット)は、1トロイオンス(およそ31グラム)あたり1,000ドル前後で推移しています。筆者が想定する2023年のレンジは、下限が800ドル、上限が1,200ドルです。
前回の「2023年の金(ゴールド)相場を予想 最高値更新はある!?」で述べたとおり、現時点で、筆者は2023年の金(ゴールド)相場は年末に上昇しやすくなるとみています。貴金属というグループの中で、最も人気がある金(ゴールド)が上昇すると、その他の貴金属もそれに追随する傾向があります(多少の濃淡はある)。
そのため、プラチナについても、2023年の後半に、金(ゴールド)と同様、上昇しやすくなると考えています。次は、金(ゴールド)との関連を含んだ、筆者がイメージする2023年のプラチナ相場の全体像を、確認します。
「まし」な利上げが複数経路で上昇圧力をかける
2023年については、以下のようなサイクルが発生する可能性があると、考えています。最悪よりも「まし」な状況が、複数経路でプラチナ相場を支える展開です。
図:2023年のプラチナ市場を取り巻く環境(筆者予想)
市場は「事前予想よりも弱い」米国のCPI(消費者物価指数)と、「3倍速(0.75%)よりも小さい」利上げを、「まし」(最悪を回避できた)と受け止め、好材料と解釈する節があります。このため、こうした「まし」は、「緩やかな」需要増加期待を膨らませる一因になり得ます。
「まし」な利上げが引き起こす「ドル安」は、貴金属のリーダー格である金(ゴールド)相場を上昇させて、プラチナなどの他の貴金属銘柄の価格をけん引したり、他通貨建て商品に対するドル建て商品の割安感を醸成したりすることに、つながります。
「緩やかな需要増加期待」は、株価を上昇させたりリスクオンのムードを醸成したりして、産業用や宝飾用の貴金属需要を回復させる要因になり得ます。
また、前回のレポートの「図:2023年12月13日のFOMCを想定した先物市場のFF金利見通し(2022年12月9日時点)」で示したように、2023年末に利上げの温度感の低下が目立つ展開になれば、上図のサイクルが加速する可能性もあります。
フォルクスワーゲン問題の意味を改めて考える
2015年9月、米国の環境保護局の指摘により、ドイツの自動車大手「フォルクスワーゲン」社が、違法な装置を使い、排ガス浄化装置のテストを潜り抜けていたことが発覚しました。このことは「フォルクスワーゲン問題」として、今でも語り継がれています。
図:主要PGM、プラチナの需要内訳(2021年)
当時、市場関係者の多くは「これでプラチナの需要は激減して、価格が急落する」と考えました。上図のとおり、プラチナの需要の多くが、同問題で注目が集まった「ディーゼル車」の「排ガス浄化装置」に使われているためです。
プラチナを含む主要なPGM(プラチナ・グループ・メタルズ、詳細はこちら)の合計を見ても(グラフ左)、自動車排ガス浄化装置向け需要の割合が大きいことがわかります(ディーゼル車だけでなくガソリン車にもPGMが使われている)。
同問題の発覚は、「ディーゼル車の信用失墜」→「同車向けのプラチナ需要激減」→「プラチナの相場はもう上昇しない」というイメージを醸成しました。
長期視点で(短期ではない)、プラチナと金(ゴールド)の価格が離れたのが、ちょうど同問題発覚から間もないタイミングだったことを考えれば、上記の「イメージ」がプラチナ相場を長期低迷に追いやったと言えるでしょう(短期視点では、金(ゴールド)がプラチナのけん引役となる傾向は生きているが)。
図:プラチナ、金の価格推移(ドル建てスポット 月間平均) 単位:ドル/トロイオンス
同問題発覚を機に発生した「イメージ」が、長期視点で、プラチナと金(ゴールド)が袂(たもと)を分かつきっかけになったわけですが、そのことによって、プラチナは、長期視点(短期ではなく)で、プラチナ独自の材料で動けるようになったと、考えられます。
自動車排ガス浄化装置向け需要は回復傾向にある
フォルクスワーゲン問題が発覚したことで急減すると目された、プラチナの自動車排ガス浄化装置向けの需要ですが、実際のところ、以下のグラフのとおり、急減はしていません(青線参照)。
コロナショックの際はやや大きめに減少したものの、2021年は回復。2022年も回復傾向が続くことが見通されています。それにより、2022年の同需要は、フォルクスワーゲン問題発覚時点(2015年)の水準とほとんど同じになります。
図:自動車排ガス浄化装置向け主要PGM需要 単位:トン
このグラフより、データが示す実態よりも、わかりやすい「イメージ」が優先されたかが、うかがえます。
同問題発覚以降、ディーゼル車の生産台数が減少しているデータが散見されていたのも事実ですが、こうした環境の中でなぜ、プラチナの同需要は目立った減少を演じなかったのでしょうか。
排ガス規制強化が単位あたりの同需要増加要因
筆者はそのヒントを、「自動車1台あたりの同需要」に見いだしました。以下は、主要PGMの同需要の合計を、その年に生産された自動車の台数で割った、自動車1台あたりの自動車排ガス浄化装置向け主要PGM(プラチナ、パラジウム、ロジウム)需要の推移です。
図:自動車1台あたりの自動車排ガス浄化装置向け主要PGM需要 単位:グラム/台
ここで言う「自動車」とは、乗用車、小型商用車、トラック、バスなどの四輪自動車です。「自動車1台あたり」に直すと、同需要が顕著に増加していることがわかります。自動車の生産台数が減少しても、1台あたりの需要が増加したため、全体的な需要は急減しなかったと、筆者は考えています。
統計上、2013年以降のプラチナの同データには「燃料電池車」向けの需要を含んでいるとされていますが、自動車の生産台数から考えれば、いまのところ、「燃料電池車」向けの需要がメインでこのグラフが上昇しているわけではないと、考えます。
「自動車1台あたりの同需要を」増やしたと考えられるのが、世界的な自動車排ガス規制強化です。以下のとおり、主要国の排ガス規制は年々、強化されています。強化される規制に対応すべく、1台あたりに使われるPGMの量を増やしている、というのが筆者の見立てです。
図:主要国の自動車排ガス規制(予定含む)
西側諸国が「脱炭素」を推進しているうちは、こうした規制強化の流れは止まらず、それに従い、排ガス浄化装置に使われるPGMの数量は少なくとも横ばいで推移(自動車の生産台数が増加すれば増加)する可能性があります。
このため、今後も「フォルクスワーゲン問題」起因のプラチナの需要減少や価格下落は起きにくいと、筆者は考えています。
2023年は超長期視点の価格上昇の第一歩となるか
「イメージ」によって、長期的な低迷を強いられ、金(ゴールド)との長期的な(短期ではない)価格の関わりを絶たれたプラチナでしたが、かえってそのことで、プラチナは自我に目覚めたと言えると筆者は考えています。
「自動車1台あたりの排ガス浄化装置向け需要」を増やしているのは、西側が強力に推進する「脱炭素」です。また、以前の「人生のお供に「プラチナ」を。新社会人の皆様へ」で述べたとおり、超長期視点で、「脱炭素」がプラチナに新しい需要をもたらす期待が浮上しています(グリーン水素の精製装置向け需要、燃料電池車の発電装置向け需要)。
冒頭で述べた「2023年は価格が反発すると考える」という点と合わせて考えると、2023年の反発が、超長期視点の価格上昇の第一歩になる可能性もあると、筆者はみています。
図:プラチナ価格の推移(ドル建てスポット 月間平均) 単位:ドル/トロイオンス
今回は、2023年のプラチナ相場の見通しを示しつつ、超長期視点のイメージを述べました。プラチナを用いた長期投資のご参考になれば幸いです。
[参考]貴金属関連の具体的な投資商品例
『プラチナ関連』
純金積立・スポット購入
国内ETF
純プラチナ上場信託(1541)
NF日経・JPX白金指数連動型(1682)
国内商品先物
『貴金属関連』
※級は筆者の主観
初級:純金積立、投資信託(当社では、楽天ポイントで投資信託を購入することが可能)
純金積立・スポット購入
ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
三菱UFJ 純金ファンド
UBSゴールド・ファンド(為替ヘッジあり)
中級:関連ETF、関連個別株
SPDRゴールド・シェア(1326)
NF金価格連動型上場投資信託(1328)
純金上場信託(金の果実)(1540)
NN金先物ダブルブルETN(2036)
NN金先物ベアETN(2037)
SPDR ゴールド・ミニシェアーズ・トラスト(GLDM)
iシェアーズ ゴールド・トラスト(IAU)
ヴァンエック・金鉱株ETF(GDX)
バリック・ゴールド(GOLD)
アングロゴールド・アシャンティ(AU)
アグニコ・イーグル・マインズ(AEM)
フランコネバダ・コーポレーション(FNV)
ゴールド・フィールズ(GFI)
上級:商品先物、CFD
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