米国市場でグロース株が持ち直しを鮮明に

 米国市場では、S&P500種指数が6月16日に底を打って以降、強弱に揺れながらも徐々に持ち直しを鮮明にしています。インフレ懸念、金融引き締め観測、景気後退への警戒感は依然根強く先行きに予断を許しません。ただ、物価高にピークアウトの兆候が表れる中、リスク選好や物色の流れに潮目の変化がみられます。

 図表1は、2022年初を100とした市場平均(S&P500)、S&Pグロース株(成長株)指数、S&Pバリュー株(割安株)指数の推移を比較したものです。6月にボトムアウトするまでは、グロース株の劣勢とバリュー株の優勢が目立っていましたが、その後はグロース株の買い戻しが相場をリードしています。8月10日に発表された7月のCPI(消費者物価指数)は前年同月比伸びが8.5%増と6月の9.1%増から鈍化しました。FRB(米連邦準備制度理事会)がインフレ指標として注視しているエネルギーや食品を除くコアCPIの伸びは5.9%増と6月と同水準にとどまりました。これによりFRBの大幅利上げ観測が後退し、同日の米国債市場では利回りが低下しました。

 注目されている国際商品市況も6月中旬から下落もしくは安定基調となっています。不透明感が完全に払拭(ふっしょく)できない中でも、ナスダックを中心とするグロース株が底入れの機運を鮮明にしている状況に注目したいと思います。なお、後段では大型グロース株を象徴するナスダック100指数ベースの業績見通しと、同指数への連動を目指す米国籍ETF(上場投資信託)をご紹介したいと思います。

<図表1>米国市場のグロース株が持ち直しを鮮明にしている

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2022年初~2022年8月10日)

債券市場の期待インフレ率は安定傾向にある

 上述したグロース株の底入れ機運を支えている流れが、インフレのピークアウト感と政策金利見通しのトーンダウンです。図表2は、米国債券市場で試算されている「期待インフレ率」(BEI=固定利付債利回り-物価連動債利回り)の推移を、2年物、5年物、10年物に分けて示したものです。

 6月中旬の「CPIショック」や雇用統計の堅調で一時的に上振れる場面はみられたものの、期待インフレ率は各年限で安定傾向をたどっていることがわかります。市場にはバックミラー(経済指標など)よりもフロントガラス(先読み=Forward Looking)を意識する傾向があり、過去のインフレ実績よりも、「将来のインフレ安定傾向」を織り込んでいく可能性が高いと思われます。

<図表2>債券市場では「インフレの峠越え」を予兆

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2021年9月初~2022年8月10日)

 8月5日に発表された7月の雇用統計が市場予想を上回る堅調を示したため、先物市場では次回FOMC(米連邦公開市場委員会:9月20~21日)で決定される利上げ幅について「0.75%」との読みが高まりました。ただ、10日に発表された7月のCPIで、「インフレの脅威が峠を越えた」との観測が広まると、9月に行われるFOMCでの利上げ幅を「0.50%」と読む勢力が増しました。

 8月下旬に予定されているジャクソンホール講演会(ジェローム・パウエルFRB議長が金融政策姿勢を示唆するとされる)や8月CPIの結果などを受け、政策金利見通しや債券市場利回りが今後も変動する可能性はありますが、FOMC参加メンバーの見通し(6月時点の予想中央値)によると、FF金利の誘導上限水準は本年末に3.4%に接近する見通しが明らかにされています。

 2022年下半期は、こうしたFRBのインフレ抑制姿勢や債券市場利回りの軌道が安定化すれば、総じてグロース株が持ち直しの動きを維持すると見込んでいます。

グロース株を象徴するナスダック100の成長期待は高い

 米国市場でグロース株を象徴するのがハイテク株を中心とするナスダック総合指数やナスダック100指数です。図表3は、ナスダック100とS&P500をベースにした暦年実績EPS(1株当たり利益)と予想EPS(12カ月先予想EPS/市場予想平均)の推移を示したグラフです。

 ナスダック100を構成する主力株(時価総額の大きい企業群)の良好な業績見通しを反映し、ナスダック100の予想EPSはS&P500のEPSよりも優勢に推移しており、本年、来年、再来年と過去最高益を更新していくと見込まれています。短期的な需給変動による株価調整は別にして、イノベーションの集積地とされる米国で強い利益成長が見込まれているナスダック100の利益成長期待をうかがい知ることができます。ポストコロナやウィズコロナでも構造的成長が続くと見込まれるDX(デジタルトランスフォーメーション)需要の拡大を背景に、中長期の観点でみたナスダック100の戻り基調に注目したいと思います。

<図表3>ナスダック100指数の業績見通しは堅調

*2022年、2023年、2024年の予想EPSは市場予想平均を示す 出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2022年8月5日)

 こうしたナスダック100に連動を目指す米国籍ETFとして「インベスコQQQトラスト・シリーズ1」(QQQ)があります。米国の大手デジタル・プラットフォーマーが注目され始めた2014年ごろから昨秋に至るまで、QQQは市場平均(S&P500)を大きくアウトパフォームしてきました。

 その後、ナスダック100の軟化を受けてQQQも下落しましたが、6月下旬以降から現在まで大手グロース株の復調を受けてQQQも持ち直しの動きを鮮明にしています。直近の一口当たり取引価格は325.93ドル(10日時点)でファンドの運用時価総額は約1,800億ドル(約2.4兆円)に及んでいる人気のETFです。長期目線でナスダックを中心とするグロース株の回復や優勢を見込むのであれば、QQQへの時間分散投資を実践していくことは資産形成に寄与すると考えています。

▼著者おすすめのバックナンバー

2022年8月5日:米国株式の戻り歩調はいつまで続く?
2022年7月29日:初心者向け!ストレスフリーで貯めながら増やす「長期積立投資」
2022年7月22日:外国人投資家にとって日本株は割安?ドクターカッパーに要注意