円建てNYダウ平均の堅調トレンドは続くか
ウクライナ情勢を巡る緊張と不透明感が拭えないなか、米国市場ではインフレ懸念と金融引き締め観測が横たわり、株価の上値を抑えています。
5日には、FRB(米連邦準備制度理事会)のブレイナード理事が、QTと呼ばれる量的金融引き締めについて「5月にも急ピッチで始める」と発言。3月に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)議事録の公開も受けて米債利回りが上昇したことで、主要株価指数は下落しました。
一方、中国では新型コロナの新規感染者が過去最高を更新。上海市などでロックダウン(都市封鎖)が続き、景況感の鈍化とサプライチェーン(供給網)棄損を巡る懸念が日本株の重しとなっています。ただ、長期的な観点で「円建てNYダウ平均」(NYダウ平均×為替のドル/円)が3月末に最高値(約433万円)を更新した事象にあらためて注目したいと思います。
図表1は、2012年以降の円建て(円換算)NYダウ平均と52週移動平均線の推移を示したものです。2012年初に約100万円だった円建てNYダウは、この10年で約4.3倍に上昇してきました。その主因は、米国株(NYダウ)が堅調トレンドをたどってきたことに加え、為替のドル/円が円安傾向であったことが挙げられます(2012年初のドル/円は76円台→現在は123円台)。
なお、最近は円がドルに対してだけでなく、ユーロ、英ポンド、豪ドルなど主要外貨に対して「独歩安」の状況となっており、日本の投資家からみた外国資産投資の追い風となっています。為替ヘッジ(コストをかけて為替リスクを抑制する手法)を採用しなければ、円安傾向は外国資産投資の円建てリターンを向上させることになります。
<図表1:円建てNYダウは3月末に過去最高値を更新した>
日経平均の行方を円建てNYダウとの高相関性から占う
長期的な観点で振り返ると、円建てNYダウ平均と日経平均の相関性が高いことが知られています。
図表2は、2012年以降の円建てNYダウと日経平均の推移を示したもので、両者の相関係数(*)は「+0.72」と連動性が高かったことが検証できます。つまり、米国株が堅調でドル/円も堅調(円安)であれば日本株は上昇しやすく、米国株が軟調でドル/円も軟調(円高)となれば日本株は下落しやすかったということです。
*相関係数(Correlation Coefficient)とは、二種類の変数の間の相関性(連動性の度合い)を示す統計学的指標です。数値としては「-1」から「+1」の間で表され、「+1」に近いときは「二つの変数には正の相関がある」といい、「−1」に近ければ「負の相関がある」とされます。
<図表2:日経平均と円建てNYダウの相関性は高かった>
図表3は、円建てNYダウ平均(縦軸)と日経平均(横軸)の水準とその相関線を示す線形近似線(中心線)を表示したものです。この線形近似線が「右肩上がり」であることは、円建てNYダウと日経平均の相関性が高かったということを示します。
筆者は、NYダウ平均は年末までに最高値を更新し、為替ではドル/円が2006年5月の125.63円(終値)を突破して130円を目指す可能性があると予想しています。この両方が同時期に実現すると、NYダウ平均の円建て金額として約478万円(=3万6,799ドル×130円)が視野に入ってきます。
あくまで線形近似線(図表3)に沿った簡便なイメージですが、米国市場次第で日経平均は昨年9月14日に付けた過去1年高値(3万670円)を更新していく公算が高そうです。目先の幾度かの押し目を経ながら、年央までに日経平均が3万円を目指す展開を見込んでいます。
<図表3:日経平均と円建てNYダウとの関係を線形近似線でみる>
米国市場の業績見通しは一段と拡大している
上述した日経平均予想を換言すると、日本株が上昇するには「米国株の堅調とドル/円の堅調の両方が肝要」と言えます。
図表4は、米国市場に上場されている大企業500社の株価動向を時価総額で加重平均したS&P500種指数をベースとする予想EPS(12カ月先予想EPS(1株当たり利益)/市場予想平均)の推移を示したものです。同予想EPSは4月入りして233.82と一段と増加し、過去1年累計実績EPSに対する伸び率(前年同期比増益率)で+20.2%が見込まれています。昨年同時期の予想EPSに対しては29.3%増加しています。
S&P500指数の構成銘柄では、時価総額比率の大きい大手IT企業(GAFAM:グーグル、アマゾン、メタ、アップル、マイクロソフト)を中心に、エネルギー、素材、ヘルスケア、一般消費財の業績拡大が見込まれています。
ウクライナ情勢、ロシア金融危機の影響、FRBによる金融引き締め、中国の景気鈍化懸念などリスク要因は多々ありますが、株式市場にとり最も重要とされる「業績拡大トレンド」(予想EPSの成長)は続くと見込まれています。
3月FOMCで利上げサイクルがスタートし、債券市場では10年国債利回りも2年国債利回りも2.5%程度まで上昇し「逆イールド」(短期債利回り>長期債利回り)が起きていることも警戒されています。
ただ、かつての経験則(例:2000年初のITバブル崩壊前夜や2007年のリーマンショック前夜)における「景気後退を予兆した逆イールド」は債券利回り(長短金利)が5~6%台でみられた現象でした。
現在の債券利回りはいまだ2%台です。また、実質長期金利(10年国債利回り-期待インフレ率)はいまだマイナス圏で推移しています。底堅い米国経済を背景とする「業績相場」で米国株の堅調は年内も持続すると見込んでいます。
<図表4:S&P500種指数の予想EPSは拡大基調にある>
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