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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 [動画で解説]利回り4.3~5.4%!3メガ銀行 好決算でも株価がさえない理由」
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3メガ銀行の買い判断を再確認
3メガ銀行の9月中間決算(2022年3月期の上半期決算)が出そろいました。私は、3メガ銀行株を「買い」と判断しています。
投資魅力が高い順に、【1】三菱UFJ FG(8306)→【2】三井住友FG(8316)→【3】みずほFG(8411)と判断しています。コロナ禍でも低金利下でもしっかり高水準の利益を稼ぐ力があることを見て、その確信を強めました。
今回の決算発表で、出色の出来だったのは、三菱UFJ FGです。上半期決算発表と同時に、通期(2022年3月期)の純利益目標を8,500億円から1兆500億円へ大幅に引き上げました。
2015年3月期にあげた最高益1兆337億円を超え、7期ぶりに最高益を更新する見通しです。同時に、増配(1株当たり配当金予想27円→28円)と、自社株買い(上限1,500億円)決議を発表しました。
次に好決算と言えるのが、三井住友FGです。通期(2022年3月期)の純利益予想を6,000億円から6,700億円に上方修正しました。2014年3月期の最高益8,353億円には届かないものの高水準の利益見通しです。
同時に、増配(1株当たり配当金予想200円→210円)と、自社株買い(上限1,000億円)決議を発表しました。
やや見劣りする決算内容だったのが、みずほFGです。通期(2022年3月期)の純利益予想を5,100億円から5,300億円へ少しだけ上方修正しました。増配(1株当たり配当金予想75円→80円)を発表しましたが、自社株買いの実施は発表しませんでした。
3社とも、業績見通し上方修正、増配を発表したので、予想PER(株価収益率)は低下、配当利回りは上昇しました。以下の通り、11月16日時点でPER・PBR(株価純資産倍率)・配当利回りで見て、きわめて割安な株価評価となっています。
3メガ銀行株の株価バリュエーション:2021年11月16日時点
コード | 銘柄名 | 株価:円 | 配当利回り | PER:倍 | PBR:倍 |
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8306 | 三菱UFJ FG | 648.4 | 4.3% | 7.9 | 0.46 |
8316 | 三井住友 FG | 3,903.0 | 5.4% | 8.0 | 0.43 |
8411 | みずほFG | 1,520.0 | 5.3% | 7.3 | 0.40 |
出所:各社決算資料より作成。配当利回りは2022年3月期1株当たり年間配当金(会社予想)を11月16日株価で割って算出。1株当たり配当金は、三菱UFJ28円、三井住友FG210円、みずほFG80円。PERは、11月16日株価を22年3月期1株当たり利益(会社予想または会社目標)で割って算出 |
金利が下がる都度、売られてきた銀行株
中間決算の中身に踏み込んで解説する前に、まず、3メガ銀行の株価が過去どう推移してきたかご覧ください。株価は、長年にわたり低迷が続いてきました。
日経平均および3メガ銀行株価の値動き比較:2007年1月~2021年11月(16日まで)
日本の3メガ銀行株は上のチャートでわかる通り、2008年以降、金利低下とともに売られてきました。日経平均を大幅に下回るパフォーマンスとなっています。
株式市場で「金利低下→銀行(金融業)の収益悪化」というイメージが定着しているので、金利が低下する都度、世界中で銀行株を始めとして金融株が売り込まれました。
日米の長期金利(10年国債利回り)推移:2007年1月~2021年11月(16日)
3メガ銀行は、まず日本の長期金利が低下する過程で売られました。さらに、ドルの長期金利低下を嫌気して売られました。
2021年に入り、ドルの長期金利が一時1.7%台まで反発すると、世界的に金融株が上昇し、日本の3メガ銀行株も上昇しました。ところが、その後ドル長期金利が一時1.2%まで下がると、世界の金融株、日本の3メガ銀行株とも反落しました。
現在、またドル長期金利が1.6%まで戻しているので、銀行株が上がってきています。世界の株式投資家は相変わらず、日本の3メガ銀行株を金利連動株として扱っています。
金利低下でも高水準の収益を維持
3メガ銀行は、金利低下期でも安定的に高収益を稼いできました。「金利が下がると銀行の収益が悪化する」というイメージとは、異なります。
3メガ銀行の連結純利益:2014年3月期実績~2022年3月期(会社予想)
すでに冒頭で説明した通り、三菱UFJ・三井住友FGの今期(2022年3月期)9月中間決算は良好な内容でした。みずほはやや見劣りするものの、悪くない決算でした。
3社とも、通期純利益見通しを上方修正しました。上方修正後の見通しも保守的(低め)で、さらに上振れする余地があると考えられます。なぜならば、上半期までの純利益実績だけで、通期予想の7割くらいを達成しているからです。
2021年4~9月実績の進捗率をご覧ください。三菱UFJは74%、三井住友は68%、みずほは73%と高い進捗率になっています。下半期の純利益が上半期対比で大きく減少しない限り、通期の利益は上ぶれが予想されます。
上の表をご覧いただくと、「金利が下がるとメガ銀行の利益が出なくなる」という株式市場の思い込みが誤りであることがわかると思います。
三菱UFJ、三井住友FGの連結純利益は、2019年3月期まで、長期金利がどんどん低下していく中でも安定的に高収益をあげています。みずほは、2019年3月期に国内商業銀行部門に帰属するソフトウエアの減損(特別損失)を出したため利益水準が低くなっていますが、本業利益は高水準でした。
つまり、3メガ銀行とも、2019年3月期まで、金利が低下する中で安定的に高収益を稼いできました。
2020年3月期・2021年3月期はコロナ禍で信用コスト(貸倒償却および貸倒引当金繰入額)が増加したことによって、利益水準がやや下がりましたが、それでも高水準の利益を維持していたと評価できます。
今期(2022年3月期)は、コロナ前の水準に利益が戻る見込みです。想定されたほど貸倒れが発生していなかったことから、貸倒引当金の戻入益が大きくなっていることが貢献しています。
与信コストの大幅減少が貢献して、三菱UFJは今期、最高益を更新する見通しです。低金利でも稼ぐメガ銀行の姿がよく表れています。
3メガ銀行の与信コスト:2020年3月期~2022年3月期上半期
みずほの収益力がやや低いですが、三菱UFJと三井住友FGについては、海外収益の拡大と、ユニバーサルバンク経営(証券・信託・リース・投資銀行業務などの多角化)によって、低金利でも高収益を稼ぐビジネスモデルができあがっていると考えられます。
三菱UFJに続き、三井住友FGも将来、純利益で最高益を更新していく力があると考えています。
3社とも増配を発表
3社とも、中間決算発表時に、今期増配(1株当たり配当金予想の引上げ)を発表しました。三菱UFJと三井住友FGは、もともと増配の予想を出していましたが、増配の幅を拡大しました。みずほは、配当据え置きの予想でしたが、ひさびさの増配を発表しました。
3メガ銀行の1株当たり配当金:2017年3月期実績~2022年3月期(会社予想)
三菱UFJと三井住友は自社株買いも発表
三菱UFJは、増配に加え、上限1,500億円(発行済総株式数の2.33%)の自社株買いを決議したことも発表しました。これで、特別配当2.33%を出すのと同等のメリットが投資家に及びます。
上限まで自社株買いをすると、発行済み株式数が2.33%減ります。すると、純利益の総額は変わらなくても、1株当たり利益が約2.33%増えます。PER評価が変わらなければ、株価は2.33%上昇することになります。
予想配当利回り4.3%(11月16日時点)に加え、2.33%の自社株買いが行われれば、とても魅力的な株主への利益還元となります。
三井住友FGも、増配に加え、自社株買い上限1,000億円(発行済総株式数の2.4%)の自社株買いを決議したことを発表しました。
上限まで自社株買いをすると、発行済み株式数が2.4%減り、1株当たり利益が約2.4%増えるので、他の条件が変わらなければ理論上、株価は2.4%上昇することになります。予想配当利回り5.4%(11月16日時点)に加え、2.4%の自社株買いが行われれば、とても魅力的な株主への利益還元となります。
財務良好、収益基盤・キャッシュフローも安定的な三菱UFJと三井住友FGは、来期以降も、増配や自社株買いをやっていく可能性が高いと予想しています。
3社とも巨額の有価証券含み益を有する
3メガ銀行はこのように安定的に高収益を稼ぎ、財務良好であるにもかかわらず、株価は長期にわたり低迷してきた結果、株価指標で見てきわめて低い水準にあります。英語でいうと、ディープ・バリュー株(きわめて割安な株)といって良いと思います。
配当利回りが高く、PERが低いことに加え、PBRが0.4倍台で、解散価値の1倍を大きく割れているのは驚きです。以下の通り、保有する有価証券に巨額の含み益があることを考えると、ここまで株式市場で低評価なのは「売られ過ぎ」と判断しています。
保有有価証券の含み益
決算発表後の株価がさえない、考えられる2つの理由
これだけ良い決算を発表したので、決算後の株価はさぞ上がるだろうと思いきや、実はさえない動きとなっています。
三菱UFJは決算発表後の初日である16日に、株価が3.2円(0.49%)しか上がりませんでした。三井住友は決算発表後の2営業日(15・16日)で、株価は39円(1.0%)しか上がりませんでした。みずほは、決算発表後の2営業日で、株価は38円(2.4%)下がりました。
なぜ、このようなさえない動きとなったのでしょう。2つの理由が考えられます。
【1】株式市場が過度なグロース物色にかたよっている
三菱UFJにかかわらず、日本株でとても良い決算を発表してPERなどできわめて低い評価となり、予想配当利回りは高くなったのに、株価が売られる例が続出しています。海運株・鉄鋼株・大手総合商社・メガ銀行などです。
一方で、米国のテスラに見られるように、予想PER150倍あまりの高評価のグロース株が、派手に上昇する現象が起こっています。
私は、株式相場が「グロース偏重・バリュー無視」で行き過ぎている可能性があると考えています。
それでは、割安好業績の日本株をどんどん買っていったら良いのでしょうか? そう単純には判断できません。バリュー株の好業績が一時的で、来期以降、バリュー株の業績が悪化するリスクもあるからです。
きわめて割安に見える株でも、実際に買う時は、来期以降のリスクも考えて選別投資すべきと考えています。
大手総合商社とメガ銀行は、中長期的に高水準の利益をあげていく力があると、私は予想しています。したがって、割安株として投資していって良いと判断しています。
一方、海運と鉄鋼は、投資するとしても「短期投資」に限るべきと思います。海運と鉄鋼は、好業績の時に大きな利益を出すが、ひとたび不況になると大きな赤字に陥る傾向があるからです。好不況の差がきわめて大きいので、要注意です。
【2】メガ銀行の今期利益は一時的要因でかさあげされている
3メガ銀行の今期利益が大きく伸びますが、その中に一時的要因が含まれています。貸倒引当金の戻入益が大きくなっていることです。
これは、前期・前々期の貸し倒れの見積額が大きすぎたことによって生じているものです。つまり、前期・前々期に貸倒引当金を過剰に繰り入れし、その分、前期・前々期の利益が低下したものが、今期になって戻ってきているという形です。
貸倒引当金の戻りが大きいのは一時的です。来期になると、それが純利益を押し上げる効果は剥落します。貸倒引当金の戻りが減少することが、来期の減益要因となります。
今期の純利益が貸倒引当金の戻りによって押し上げられていることは、3社の業務純益を見るとわかります。
3社の上半期業務純益
業務純益とは、一般企業の営業利益に当たるもので、銀行の本業の収益力を示します。与信コストの変動は含まれません。その業務純益で見ると、実は今上期は三菱UFJと三井住友は減益でした。
業務純益には、コロナの影響があまり及んでいません。コロナ禍で落ち込むこともありませんでしたが、コロナの影響が薄れても、反動で増加する形とはなっていません。
銀行の利益変動を見る場合、純利益が一番大切なのは言うまでもありませんが、業務純益の変動も併せて見ていく必要があります。業務純益で見ると、今期の決算は特別に良い決算というわけではありません。
ただし、今期増益に一時的要因が大きいことを考慮してもなお、3メガ銀行の株価が割安で、長期投資することで資産形成に寄与するとの私の判断は変わりません。
NISAで利回り5%を稼ぐ、高配当投資術
6月15日、日経BPより拙著「NISAで利回り5%を稼ぐ、高配当投資術」が出版されました。
私が25年の日本株ファンドマネージャー時代に得たバリュー(割安株)投資のノウハウを初心者にわかりやすく解説しています。NISAを使って高配当利回り株に長期投資して資産形成を行っていくことを考えている個人投資家にぜひお読みいただきたい内容です。
著書で、三菱UFJ FGなど3メガ銀行の投資魅力について解説しています。低金利でも高収益を稼ぐ仕組みについて、詳しく解説しています。ご参照ください。
最後に告知事項です。筆者は1984年に住友銀行(現三井住友銀行)に入行し勤務した経験がありますが、すでに退職しています。本レポートでは、公開情報のみを使った分析を提供しています。
最終的な投資判断はご自身で行っていただきますようお願いいたします。なお筆者は現在三井住友FG株を9,000株保有しています。
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