政局変化でトレンドが上方転換した日経平均
今週、世界株式(MSCI世界株価指数)は過去最高値を更新(6日)。先週末に発表された8月の米雇用統計(非農業雇用者の増加数)が市場予想を大幅に下回り、FRB(米連邦準備制度理事会)がテーパリング(量的金融緩和の縮小)を急がないとの見方が浮上しました。
米国市場ではナスダック総合指数も再び過去最高値を更新(7日)、国内市場では、日経平均が8営業日続伸し約5カ月ぶりに3万円の大台を回復しました(8日)。TOPIX(東証株価指数)は1990年8月以来となる約31年ぶりの水準に上昇しています。
9月3日に菅首相が退陣を表明し、自民党総裁選(29日)を経た後の新政権誕生と政策変化による閉塞感打破を期待する買いが先行。首都圏のウイルス新規感染者数拡大が一服しつつあり、ワクチン接種の普及進展に伴う経済正常化が視野に入りやすくなったことに加え、中国市場や香港市場に底入れ感がみられることも株高材料となりました。
図表1は、過去1年における日経平均と200日移動平均線の推移を示したグラフです。日経平均は、上値抵抗線と下値抵抗線がともに低下するレンジのなかで停滞相場を続け、欧米株に比較して出遅れ感を鮮明にしてきました。
ところが今週、200日移動平均線と上値抵抗線を上抜け、トレンドが大きく上方転換したことがわかります。海外(外国人)投資家を中心とする短期筋の先物買い戻しが主導する株高ですが、利益確定売りを消化しながら、反騰の勢いがどこまで続くかが注目されます。
<図表1:停滞トレンドから上方転換した日経平均株価の軌道>
「青木率」で占う次回衆議院選挙は与党勝利?
市場はすでに自民党総裁選挙後に予定されている衆議院選挙を視野に入れていると思われます。そこで、「青木率」から同選挙の行方を占ってみたいと思います。
青木率とは、自民党参議院議員会長を務めた青木幹雄氏が考えたとされる法則で、世論調査の「内閣支持率」と「自民党支持率」の合計を言います。この数字に総議席数を掛け合わせた数が国政選挙での「自民党の予想獲得議席数」として試算されてきました。
直近の読売新聞による緊急世論調査(9月4~5日実施)によると、内閣支持率は31%(前回は35%)、自民党支持率は36%(前回は32%)と、菅内閣の支持率が低下した一方、自民党支持率は上昇しています。
総裁交代に伴う政策期待で、低下してきた内閣支持率が反転上昇する可能性があり、青木率は控えめに見積もっても6割超となり、自民党の単独過半数維持が見込まれます。
図表2で示すとおり、青木率6割から計算した自民党の予想獲得議席数279に、(支持基盤が堅い)公明党の現有議席(29)を足し合わせると「連立与党の獲得議席数」は308議席となり、衆院総議席数の3分の2となりそうです。
これは、与党が国会の常任委員会の過半数と委員長ポストを握り、安定した国会で政権を運営できることを意味します。特に海外(外国人)投資家はこうした政治の安定性を好材料視すると考えられます。
<図表2:「青木率」で占う衆議院選挙予想>
現時点で自民党総裁選に出馬(あるいは決意)を表明している候補者は、岸田文雄前政調会長、河野太郎行政改革相、高市早苗元総務相などとなっています。
いずれの候補者が当選しても、10月以降の衆議院選挙で自民党が議席を大幅に減らす可能性が後退したとの見方を市場は好意的に受け止めています。コロナ対策に比較的予算を使わなかったとされる菅首相からの政策変更期待(景気対策期待)も株高の背景と言えそうです。
岸田氏、河野氏、高市氏のうちだれが新首相となっても、菅首相より積極的な財政政策を打ち出すと思われています。
菅政権でも、デジタル庁の創設、携帯料金引き下げ、ワクチン接種推進などで一定の成果がありました。新政権では、構造改革や規制緩和の推進など成長戦略の拡充に関わる政策の発信と実行が期待されます。
日経平均は2022年央までに3万5千円を目指す
現時点では、自民党総裁(≒新首相)が決定したわけではなく、期待先行による「買い戻し(踏み上げ)相場」の色彩が濃い状況となっています。上記した青木率に沿わず、衆院選で自民党が敗北すれば、株価が一転反落するリスクもあります。
ただ、日本株は米国を中心とする世界市場のなかで出遅れ感が強く、割安に放置されていただけに、外国人投資家が先週来の「変化(チェンジ)」を材料にポジション修正をスタートさせた可能性が大きいと考えられます。
とはいっても、日経平均が節目とされてきた3万円を突破したことで、利益確定売りや戻り売りで短期的に下落する可能性もあります。10日はメジャーSQ(株価指数先物とオプションが同時に清算日を迎える日)で株価が上下に変動する場面も想定されます。
「選挙は買い」との相場格言(市場実績)もあり、新首相が打ち出す景気対策、構造改革、成長戦略次第で、日経平均が一段と上昇する余地はありそうです。
参考情報として、図表3に筆者が予想する日経平均のメインシナリオ(水準と軌道)を示しました。本年末までに3万2千円、来年(2022年)央ごろまでに3万5千円程度まで上昇する余地があると考えています。
<図表3:日経平均は「年末高」を早め、来年央までに3万5千円も>
上記したメインシナリオには、新しい首相の政権発足、具体的な人事や政策発表(所信表明演説など)とその実行力が必要となり、具体的物色にも影響を与えそうです。
政局以外にも、減少傾向を見せているウイルス新規感染者数の動向が一段と改善すれば、来年に向けた経済正常化や業績改善が視野に入りやすくなり、相場の「重石」が外れる可能性もあります。
日経平均に新規採用された任天堂、キーエンス、村田製作所
なお、日本経済新聞社は9月6日、日経平均を構成する225銘柄の定期見直しで3銘柄を10月1日から入れ替えると発表しました。日経平均に新規に採用される銘柄は、キーエンス(6861)、村田製作所(6981)、任天堂(7974)の3社です。
今回から、すでに発表されていた新しい選定ルール(構成銘柄の株価の高低を考慮し「株価換算係数」を採用する方法)を適用し、値がさ株(株価水準が高い銘柄)の日経平均全体への影響度を抑制することになりました。
とはいえ、キーエンス、村田製作所、任天堂は、それぞれFA(ファクトリー・オートメーション)用センサー、先端電子部材、ゲーム分野で世界的競争力を保持する有力銘柄であり、日経平均のトレンド改善に寄与するパフォーマンスが期待できそうです。
閉塞感が拭えなかった国内政治の改善(新政権誕生)期待、感染拡大のピークアウト期待、中国(香港)市場の底入れ感、日経平均の銘柄入替効果など、偶然重なった事象も含めて日本株のトレンド転換に好材料が増えてきたことに注目したいと思います。
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