※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
[動画で解説]日本株「買い場」の判断を改めて強調
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菅首相退陣で、自民大敗のリスクが低下したと判断した外国人が日本株買い戻し

 先週(8月30日~9月3日)の日経平均株価は1週間で1,486円上昇し、2万9,128円となりました。菅首相辞任で、衆院選での自民党大敗リスクが低下したと見た外国人投資家【注】が日本株を買い戻したことが、日経平均の急騰につながったと考えられます。

【注】外国人投資家による日本の政治の見方
私はファンドマネージャー時代、欧米年金やアジア中東のソブリンウェルスファンド(政府系ファンド)としばしば話しをしていました。外国人投資家は日本の政治を良く見ています。
資本主義の構造改革を進める自民党の支持率が高くなる時に、外国人が日本株を積極的に買い、自民党の支持率が下がり、選挙で敗北する時に日本株を売る傾向が顕著です。
外国人の大量買いで日経平均がNYダウを大幅に上回る上昇を演じたのは小泉内閣で自民党の支持率が高かった2005年と、第二次安倍内閣がスタートした直後の2013年です。

日経平均週足:2020年1月6日~2021年9月3日

出所:楽天証券MSⅡより作成

 菅首相辞任が発表された9月3日は、日経平均が前日比584円高と大幅に上昇しました。ただし、それを先取りした上昇は8月23日から始まっていました。

 8月22日投開票の横浜市長選で、菅首相が推す小此木八郎氏が敗れ、立憲民主党推薦の山中竹春氏が当選。これで「菅首相では衆院選を戦えない」との見方が広がり、自民党総裁選で新総裁を選び、「新総裁への期待で自民党支持を回復してから衆院選に向かう」シナリオが見えてきました。

 これで、衆院選での自民党大敗リスクが低下、衆院選後に新内閣のもとでコロナ対策の大規模経済対策が打ち出される期待も出てきたと解釈されました。その動きに敏感に反応した外国人投資家が8月23日から日本株を買い戻し始めていたと考えられます。

菅首相辞任はきっかけに過ぎず、業績拡大の日本株はPERで割安に

 菅首相辞任をきっかけに日経平均が急反発しましたが、辞任は上昇のきっかけに過ぎず、それがなくてもいずれ日経平均は反発に入っていたと考えています。

 それは、日本株がPER(株価収益率)などで割安になっていたからです。足元(4-6月)の企業業績が好調であったにもかかわらず、日本株の下落が続いたため、TOPIX(東証株価指数)のPERは8月20日には一時14.8倍まで低下。日本株はPERで見て非常に割安となっていました(日経平均急反発で、TOPIXのPERは9月3日には15.9倍となりましたが、なお割安と考えています)。

 しかも、日経平均が下がる間、米国株(ナスダック、S&P500)は最高値を更新。米国株の上昇に逆行して日本株だけ下がっていく珍しい展開でした。

 PERで割安になった日本株をこのまま売り続けるのには無理があると考えられていたことから、きっかけさえあれば、日本株が反発する素地は整いつつあったと言えます。

 そこに菅首相辞任の報が入り、新首相の元で大型経済対策を実施していくシナリオが見え始めたことが日経平均急反発のきっかけとなりました。

日経平均が一時2万7,000円割れまで下げた理由

 改めて、8月20日まで日経平均が下げ続けた要因を振り返ります。大きく分けると3つの不安がありました。政治の不安、経済の不安、金融の不安です。日本株を動かしている外国人から見た解釈として、以下3つが不安視されていました。

【1】政治の不安

 内閣支持率が低下。衆院選で自民党が大敗し、政権がさらに弱体化する不安。

【2】経済の不安

 コロナ変異種の感染拡大で日本の内需回復が一段と遅れる見込み。

【3】米金融緩和が終わる不安

 米FRB(連邦準備制度理事会)が年内にテーパリング(量的金融緩和の縮小)を開始し、さらに早期に利上げも必要になる不安

 足元、その3つの不安ともやや低下しています。

過度な不安は解消、割安な日本株を見直す流れに

 日本株が売られる原因となった過度な不安が低下したことが、日本株が見直されるきっかけとなりました。

【1】衆院選の不安が低下

 菅首相辞任で衆院選自民大敗のリスクが低下したと解釈されました。新総裁を選び、新総裁への期待で自民党支持を高めてから衆院選を迎える見込みです。新総裁は、コロナ対策での大型財政出動を公約に衆院選を戦い、衆院選後に、実際大型の景気対策を実施してくる可能性が高いと考えられます。

 ただし、もしコロナがいつまでも収束しなければ、新総裁への期待で自民党支持が高まるのも短期間で終わる可能性があります。ワクチン普及でコロナが収束に向かうか否かが、今後の政治経済、株式市場にとって重要です。

【2】経済の不安は続くが、一縷の期待も

 変異種の感染拡大で、内需回復がさらに遅れる悲観が広がっています。一方、ワクチン接種がさらに進み、日本経済が徐々に正常化に向かうとの期待もあります。

 ワクチン効果で60代以上の感染が減少しているのを見ると、40~50代、20~30代のワクチン接種が進むと感染がピークアウトする期待は残っています。すると日本にも、米国と同じような消費爆発(コロナ禍で抑えられていた消費の急増)が起こる期待もあります。

【3】テーパリングへの不安も低下

 FRB(米連邦準備制度理事会)が年内にテーパリングを開始することは避けられないと思います。ただし、テーパリング実施後も利上げはなく、ゼロ金利は長期化すると思われます。

 そのことが、8月27日に行われたパウエルFRB議長の講演から読み取れます。「年内にテーパリング開始」の見通しは変わっていませんが、コロナ変異種拡大への不安に対する言及もあり、テーパリングを早期に完了して一気に利上げへ向かう懸念は低下しました。金融緩和的状況は長期化しそうとの見方が広がり、米国株上昇に寄与しました。

日本株は割安、買い場の判断を継続

 三菱UFJ FG(8306)など、割安な高配当利回り株を買っていくことが、長期的な資産形成に寄与すると考えています。

 なお、割安な高配当株への投資について、6月15日に日経BPから発売された以下の私の著書で詳しく解説しています。ご参照ください。

「NISAで利回り5%を稼ぐ、高配当投資術」

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