8月優待人気トップのイオン。構造改革で小売業の勝ち組に
イオン(8267)(8月12日株価3,024円)は「株主優待」人気銘柄として有名です。楽天証券「株主優待検索」で長年、2月・8月の優待銘柄で人気トップ【注】の座を維持しています。
【注】2月・8月優待で人気トップ
8月に株主優待を得る権利が確定する銘柄は104銘柄あります。2月は137銘柄です。楽天証券のお客様で保有している株主の数が多いほど「人気が高い」と判断し、保有株主数の上位銘柄をランキングしています。2月・8月優待とも、人気トップはイオン(8267)、第2位はビックカメラ(3048)、第3位は吉野家HD(9861)です(8月11日時点)。
5~6年前まで、イオンは「優待は人気でも業績はイマイチ」というイメージが付きまとっていました。大手スーパーや百貨店などの総合小売業は、長らく、ユニクロ、ニトリ、無印良品などの専門店や、セブン-イレブン、ローソンなどのコンビニに売り上げを奪われて、衰退していくイメージを持たれていたからです。
百貨店の衰退は今でも続いていますが、大手スーパーは変わりました。特に、イオンは、はっきりビジネスモデルを変えて、小売業の勝ち組に返り咲いたと考えています。
イオンの構造変化については、後段で詳しく説明します。その前にまず、足元の業績をレビューします。第1四半期(2021年3-5月期)までの業績が発表されていますが、コロナからの回復、コロナ後の成長が見えてきたと考えています。
なお、優待内容は、以下からご参照ください。
イオン株主優待
コロナ前(2020年2月期)まで3期連続で営業最高益、前期(2021年2月期)は赤字
まず、過去4期の業績推移と、今期の業績(会社予想)をご覧ください。コロナ前は以下の通り、営業最高益が続いていました。
イオンの連結売上高・営業利益・純利益の推移:2018年2月期~2020年2月期
イオンは、構造改革の成果で、2020年2月期に連結営業利益で過去最高益でした。その間、人手不足・人件費上昇・天候不順・消費増税(2019年10月)と悪材料が続きましたが、イオンは金融・不動産・ドラッグストア・海外の利益を伸ばすことで、営業最高益を続けました。ただし、グループ各社の再編にコスト(特別損失)が出るので、連結純利益は低水準で、まだ最高益に届いていません。
イオンの連結売上高・営業利益・純利益:2021年2月期実績・2022年2月期予想
ところが、前期(2021年2月期)は、コロナ禍で一時営業停止があった影響で、最終損益は710億円の赤字に転落しました。
今期(2022年2月)は、コロナ前の業績を回復する予想を会社では出しています。営業利益は2,000億円~2,200億円と予想していますが、2,200億円出れば小幅に最高益更新となります。コロナ禍の緊急事態宣言は続いていますが、第1回の緊急事態宣言(2020年4月7日~5月25日)の時のように、大規模の営業停止はありません。安全対策を取った上で多くの店舗が営業できていること、コロナ禍で需要が伸びている食料品など生活必需品の取り扱いが多いことから、コロナ禍でも業績急回復が見込めます。
コロナ後の成長が見えてきた
イオンの回復は、前期(2021年2月期)第3四半期(2020年9-11月期)から本格化しています。それが、四半期別の営業利益推移を見るとよくわかります。2020年9-11月は、四半期として営業最高益を更新しているからです。
イオンの連結営業利益、四半期別の推移:2019年3-5月期~2021年3-5月期
今期、第1四半期(2021年3-5月)の営業利益は、391億円と四半期として最高益でした。コロナ禍でも高い利益を出せるようになりました。この水準の業績を続けられれば、通期でも最高益を更新することができると予想しています。
イオンは、季節要因で毎期第4四半期(12-2月)に利益が集中します。第1四半期だけの利益はまだ少ないが、好スタートを切ったことで通期での最高益更新が視野に入ったと考えています
生活密着型の品ぞろえ(生鮮食品品や日用雑貨)が多く、コロナ禍での買い物需要をつかんでいることもありますが、それだけではありません。コロナ前から取り組んでいる構造改革の成果で、小売業の勝ち組となっている成果が出てきていると考えています。
イオンは魅力的な空間を作って「小売+金融+不動産」で稼ぐビジネスモデルを確立
ここからイオンが勝ち組小売業に返り咲くのに寄与した構造改革について解説します。まだ構造改革が完了したわけではありませんが、すでに大きな効果が出ています。コロナによるマイナス影響が低下する今期(2022年2月期)、イオンは営業最高益を更新すると予想しています。
不採算店舗の整理など構造改革を終えるのにまだ時間がかかるので、連結純利益が最高益に達するのは3~4年先と考えられますが、営業利益では今期以降、最高益の更新が続くと予想しています。
総合小売業である百貨店や大手スーパーが衰退し、ユニクロ・ニトリなどの専門店(カテゴリー・キラー:特定分野の勝者)が成長する時代がずっと続くイメージがありましたが、イオンだけは、総合小売業として生き残るビジネスモデルを確立して、復活しました。
イオンの復活の背景に何があるのでしょうか? それは、イオンのセグメント情報を見ると良くわかります。前期はコロナの影響があって業績が異常値となっているので、コロナ前の2020年2月期のセグメント情報を見てみましょう。この期は、営業利益が2,155億円で、過去最高益を更新しています。その内訳をセグメントに分けたのが以下です。
イオンのコロナ前・2020年2月期セグメント別営業利益
2020年2月期は、構造改革の成果で、全セグメントが黒字化しました。ただし、全体の利益に大きく貢献しているのは、GMS(総合スーパー)やSM(その他スーパー)などの小売業の利益ではありません。総合金融(クレジットカードや銀行業など)、ディベロッパー(イオンが運営するショッピングセンターに入居している専門店から入るテナント収入など)の2部門で、全体の営業利益の62%を稼ぎ出しています。小売業なのに小売りが利益の中心ではない、「脱小売業」を進めたことがイオンの復活につながっています。
昔のイオンは、有力な専門店と競合する存在でした。ところが、今のイオンは、有力専門店と競合するのではなく、その競争力を取り込む戦略に転じています。イオンのショッピングセンターに行けばわかりますが、総合スーパーはもはや専門店と競合する存在ではありません。今は、ユニクロなど人気の専門店を積極的に取り込み、ショッピングセンター全体の魅力を高める戦略を取っています。
自前の売り場は、競争力のある生鮮食品や、競争力のあるプライベートブランド(トップバリュ)などに限定し、専門店と競合するナショナルブランドの衣料品や雑貨は縮小しています。つまり、イオンは、専門店と競合せず、共存する存在になっています。
外部テナントを取り込むと、そこからは賃貸収入が入ります。今やショッピングセンターは小売業(自前の売り場)と、不動産業(テナント管理)のミックスとなっています。さらに、魅力的なGMSを全国に展開することで、クレジットカードや銀行などの総合金融業の利益成長も見込めます。
自前の売り場にこだわらず、魅力的な空間を作ることで稼ぐ発想は、小売業というよりはサービス業です。イオンはサービス業の発想で、総合スーパー事業を衰退ビジネスから再び成長するビジネスに変えたのだと思います。
なお、イオンの成長を担っているのは、金融・不動産だけではありません。ヘルス&ウエルネス事業(ドラッグストア)の利益も成長してきました。上場子会社のウエルシアHDの成長が取り込まれています。ここは総合スーパーとは異なるビジネスです。ドラッグストアという成長分野をとらえて、専門店として成長しています。
国内だけでは成長は頭打ちに、海外事業の利益拡大に期待
国内で高い競争力を有する小売業に返り咲いたイオンですが、国内だけでビジネスをやっていたら、いずれ頭打ちになります。人口が成長するアジアで、利益を拡大していかなければ、中長期の成長は見込めません。
イオンは、ASEAN(東南アジア)、中国に進出し、アジアで収益を拡大しています。初期コストの回収も終え、海外事業が黒字化しています。ただし、海外でも、小売業ではあまり稼げていません。それが、さきほどお見せした前々期(2020年2月期)のセグメント情報からわかります。前々期、事業別セグメントの「国際」部門の営業利益は103億円で、全体に占める割合は5%しかありません。
ただし、海外でも金融・不動産の利益が拡大しているため、海外部門全体ではもっと利益を稼いでいます。総合金融・ディベロッパーセグメントに入っている、海外部門の営業利益まで加えると、前々期は、営業利益の約2割を海外で稼いでいます。海外事業がすでに利益の重要な構成要素となっていることがわかります。
前期は、コロナという特殊要因があって、海外利益の落ち込みが国内以上に大きくなるため、海外営業利益の構成比は15%程度に低下しました。
ただし、コロナ収束後には、再び海外利益が拡大し、全体に占める構成比は2年以内に3割まで上昇すると予想しています。
コンビニとの戦いは続く
総合スーパーにはまだ天敵がいます。セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートなどのコンビニです。コンビニの販売のおおむね8割以上は食料品と飲料です。ここは大手スーパーが自前で収益を稼げる部門として、最後まで残してきたところです。
過去10年で、コンビニは大手スーパーの顧客にどんどん食い込んできました。10年以上前、コンビニの顧客の中心は若年層で、品ぞろえも若年層が外で食べる手軽な食べ物が中心でした。この時は、大手スーパーと直接競合することはありませんでした。
ところが、コンビニはその後、顧客ターゲットを変えてきています。家庭食をターゲットとして、40~50代の女性顧客を増やすことに成功してきました。家庭食がターゲットとなったことで、コンビニは大手スーパーとモロにバッティングするようになりました。コンビニは次々と魅力的な総菜や食材を開発し、大手スーパーの客を奪っていきました。
イオンは、コンビニを撃退するビジネスモデルも徐々に作りつつあると考えられます。小型スーパーやドラッグ・ファーマシーです。まだセブン-イレブンを凌駕するビジネスになったとは言えませんが、コンビニよりも面積が広く品ぞろえが異なるドラッグストアや、小型の食品スーパーの一部は、コンビニから売上を奪う存在になりつつあります。
コンビニとの競争では、依然としてコンビニが優位ですが、一方的にやられるだけでなく、いい勝負を挑める体制を少しずつ作りつつあるといえます。
イオングループ各社の投資魅力は、いずれも高いと判断
イオンは、中核事業を担う子会社を多数上場させています。典型的な、親子上場企業です。イオンの成長を担う上場子会社は、いずれも、投資価値が高いと判断しています。
(1)イオンフィナンシャルサービス(8570)
イオングループの金融事業を担います。今期(2022年2月期)の経常利益(会社予想)は410億円で、最高益だった3期前(2019年3月期・この時は3月期決算企業)の経常利益701億円から大きく減少したままです。ただし、アジアでの貸倒れは減少しており、コロナが完全に収束すれば、再び最高益を更新していくと予想しています。
(2)イオンモール(8905)
イオングループのディベロッパー(不動産)事業を担う。今期(2022年2月期)の経常利益(会社予想)は、505億円と、コロナ前の2020年2月期にあげた最高益561億円に届きません。ただし、コロナが完全に収束すれば、再び最高益を更新していくと予想しています。
(3)ウエルシアHD(3141)
イオングループのドラッグ・ファーマシー事業の中核を担います。今期(2022年2月期)の経常利益(会社予想)は、前期比3.9%増の476億円と、24期連続で最高益を更新する見込みです。感染症対策商品(アルコール消毒・空間除菌商材・ハンドソープ等)の売上は前年特需の反動で減少する見込みですが、調剤売上などの伸びで最高益更新が続く見込みです。コロナ禍でもコロナ後も、最高益が続くと見込まれます。
調剤売上高の成長が続いています。2018年2月期1,148億円→19年2月期1,298億円→20年2月期1,554億円→21年2月期1,741億円と成長部門となっています。調剤薬局はかつて門前薬局(大病院のすぐ近くにある調剤薬局)優位が続きましたが、その傾向が変わってきています。ウエルシアは、門前でなくても調剤部門の収益が伸びるようになりました。患者が病院の近くではなく、自宅の近くの調剤薬局を利用するようになったためです。
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