2021年上半期にブームとなった「FIRE」

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 今年1月に「「鬼滅の刃」とFIREブームに共通点?炎柱の構えで不滅の投資を」というコラムをトウシルに寄稿したのですが、この半年で一気にFIREブームが訪れています。

 FIREという言葉にまだなじみがない人のために補足しておくと「Financial Independence, Retire Early」の略ということで、経済的な独立と早期Retireを実現するためのメソッドということになります。

 米国書籍の翻訳版がヒット、次いで国内の個人投資家で早期退職に成功した「億り人」たちが自分の投資ノウハウを「FIRE」というタイトルで紹介して、続々とベストセラーとなっています。

 経済評論家で楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元さんも「4%ルール」「25年分の生活費の確保(1億円ルール)」の解説などを動画で行っているあたり、注目されていることがよく分かります。

 実は私も『日本版FIRE超入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)という本を7月に発刊しました。執筆をしながら、ブームが終わらないか心配でしたが、なんとか間に合ったようです。

 今回は「4%ルール」よりもFIRE実現のために大事なこと、をちょっと考えてみたいと思います。

FIREといえば資産運用テクニックばかり注目されるが、本質はそこか?

 FIREというと運用テクニックにばかり注目が集まります。

 例えば「4%ルール」は、FIREを実現した以降の資産管理において年4%の運用収益を確保し続けることで、元本を維持しつつ永続的に経済的安定が確保できるという運用の話です(25年相当の生活費なので4%の収益が1年分の生活費に相当する)。

 また、FIREを実現して早期リタイアをするために、高利回りの運用を目指す人も多くあります。そのほうがゴールを早くたぐり寄せることができるからです。

 実践者の多くも高利回り(おおむね年8%以上)の達成をFIRE実現の力としており、それぞれの著書で自らの投資手法を紹介しています。

 しかし、FIREを普通の人が実現したいと思うなら、「投資以外」のところにも目を向けるべきだと私は考えています。

 それは「貯蓄率の向上」による「投資積立額の上積み」です。

年100万円積立、年8%リターンと、年250万円積み立て、年4%リターンはどちらが勝つか?

 簡単なモデルを提示します。25歳に一念発起、45歳のFIREを目指して20年の積立投資をするモデルです。

モデルA(高利回り追求)
年100万円の積み立て、年8%のリターン確保

モデルB(積立額アップの追求)
年250万円の積み立て、年4%のリターン確保

月1回、積み立てたモデルを計算してみたところ、20年後のゴールは
モデルA:4,908万円
モデルB:7,641万円
となります。

 これをどう考えるかは、FIREへのチャレンジをどう考えるか、という問いそのものです。

 確かにモデルBのほうが資産額は1.56倍になります。しかし積立元本は2.5倍多いわけですから、物足りないともいえます。

 投資期間も同一、初期元本も同一(この場合はゼロスタート)ですから、残された違いは、「運用利回り」ということになります。

年8%以上の収益確保のため、運用にかかる負担はどうか?

 考えてみたいのは、年4%の運用収益確保と、年8%以上の運用収益確保、それぞれの実現可能性と、そのための手間ヒマなどの負担です。

 国内外への分散投資をインデックス運用で行えば、年平均4%のリターンというのは不可能な数字ではありません。これは過去の実績でも説明できます(つみたてNISA[ニーサ:少額投資非課税制度])の金融庁資料などを見てください)。

 そして、ほとんど手間がかかりません。ただ愚直なまでにインデックスファンドを買い続けるだけでいいからです。運用プロセスは自動化して、仕事に集中することができます。うまくいけば貯蓄原資をもっと多く出すことも可能でしょう。

 一方で、インデックスの実績をさらに4%以上、上回るための負担は小さなものではありません。例えば個別株で勝負をするなら、相当の時間を費やす必要があります。

  • 買い時のタイミングを見計らう
  • 売り時のタイミングを見計らう
  • 銘柄もしくはアセットクラスの良しあしを見極める
  • 景気判断をする
  • そしてそれらを間断なく続ける

 といったことを日々、続けることはできるでしょうか。

 あるFIRE達成者は100社以上の個別株を保有しているそうですが、当然それに倍する企業をウオッチしていることになります。

 年4%であれば、長期・積立・分散投資を基本方針として日々の株価の騰落は気にしなくてもよいでしょうが、それ以上をねらうなら短期的な売買も意識しなければなりません。

 あなたがもし「手間ヒマをかけることが好き」であればいいでしょう。しかし、そこまで投資好きではないなら、過剰な期待リターン設定は避けて、違うアプローチを取るべきです。

キャリアアップと徹底的な節約がFIREの夢を実現させる

 拙著『日本版FIRE入門』でも指摘していますが、FIREの夢は、投資だけで成立するものではありません。

 むしろ「キャリアアップ」つまり年収をより多く稼ぐアプローチと、「節約」つまり支出を少しでも減らし、貯蓄額を増やすアプローチを組み合わせることが重要です。これらは「投資」とセットで考えるべきです。

 先のモデルAでは年100万円、つまり月あたり8万円以上の積み立てをしているため、差はそれほど開きませんが、月4万~5万円程度の積み立てで期待リターン8%超を目指しても、ゴールにはなかなか追いつきません。

 しっかり年収を増やし、そこから月20万円くらい貯められる人のほうが、FIREのゴールに近づきやすいのです(そして、それはかなり気合いのいる作業です)。

 そのためには、日々の節約生活も重要になります。なんとなく年収の30%以上を貯めることは不可能だからです。

 その上で、銀行預金に全額預けるのではなく、リスク資産に期待されるリターンを確保していくことを目指します。こうして「稼ぎ→節約→増やす」のサイクルが完成します。

 運用のリターン向上だけに目を向けている人は、一歩引いて、お金の流れを俯かんしてみてください。FIREの夢実現の可能性は、投資以外のところに隠れているかもしれません。

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