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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「 [動画で解説]日本株で資産形成 次の景気後退はいつか?どう乗り切るか?」
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今日のレポートは、昨日のレポート「高配当利回り株で資産形成:次の景気後退はいつか?どう乗り切るか?(その1)」の続編です。
昨日のレポート要約
日本株は割安で、日本株への投資は長期的な資産形成に寄与すると判断。ただし、株式投資である以上、短期的な急落・急騰は避けられない。株価は景気循環と密接に連関、景気悪化・停滞局面に入る時、大きく下がる。そのため、株式投資を行うには、適切なリスク管理が必要。
次の景気減速・失速はいつか?
今、日本および世界が景気拡大期にあるのはほぼ間違いありません。特に米景気は非常に好調です。ただし、注意が必要です。永遠に続く景気拡大はありません。いつか必ず景気後退、または、停滞期が来ます。
早ければ、来年(2022年)にも、景気停滞期がやってきます。米景気が今年いいところを出し尽くして過熱してしまうと、来年はその反動で減速します。反動が大きくなると、米景気が失速、世界景気もそれに巻き込まれて失速ということも、ないとは言えません。
来年にも景気失速という気配が濃厚になると、株は大きく下がります。日本株への投資は、長期的に有望でも、短期的に米景気が過熱・失速するリスクを警戒しなければならない時期に入っています。こんな時、株式投資はどうしたら良いのでしょうか?今日は、私が考える処方箋をお伝えします。
景気予測に賭けるのはNG
投資家は、できることなら景気拡大期だけ株を保有して、景気後退期では株を持っていないようにしたいと思います。そこで、「景気が悪くなるかもしれない」という話が出始めると、株を売る投資家が増えます。ただし、景気判断は水物。市場コンセンサスは往々にして外れます。
誰もが景気に強気の時に、突然、景気悪化が始まります。誰もが悲観に打ちひしがれている時に、景気回復が始まります。後で振り返るのは簡単ですが、景気の転換点にいる時にそれを知るのは至難の技です。
株は景気悪化への転換点より早く下げ始める傾向があります。ところが、コンセンサスベースの認識では、景気悪化の転換点が過ぎて相当の期間がたたないと景気悪化が認識されません。つまり、景気悪化への転換点では、まだ景気に強気の話が広がっているということです。コンセンサスベースの景気判断に従って動く投資家は、景気悪化による売りに全く間に合わないということです。
コンセンサスベースで景気悪化が認識された時には、皮肉なことに、次の景気回復を買う上昇相場が始まっていることもあります。去年の3月中旬、コロナショックからの暴落が終わり、次の上昇相場が始まった時、「これは次の景気回復を買う流れだ」と認識できた投資家はほとんどいません。
今、米景気が過熱→失速の懸念が出てきたことから、世界の株式市場は神経質になっています。こんな時、心配だから株をとっとと売ってしまおう、と思う投資家もいるかもしれません。ただし、そこに落とし穴があります。もし、世界景気が過熱することなく、巡航速度の拡大が長期化すると、どうなるでしょう。世界的な株高も長期化します。世界景気は失速すると決め打ちして、株を売り切ってしまうと、機会損失が非常に大きくなります。
景気予測は当たらない、特にコンセンサス予想は良く外れることを前提に、投資リスクを管理する必要があります。
景気後退の乗り切り方:私がファンドマネージャー時代にやってきたローテーション投資
ファンドマネージャー時代、私は公的年金・投資信託などの日本株運用を担当していました。ファンドによってルールは異なりますが、ほとんどすべてのファンドで「常時、日本株で高位の組み入れを維持する」という条件がついていました。ファンドにより、99%以上、95%以上、90%以上などのルールがありました。
景気失速・後退が先行き懸念されるようになった時は、以下、3つの対応をとっていました。
【1】許容されている範囲でキャッシュを持つ
主要ファンドで5%くらい、一部ファンドで10%が最大ですが、許容されている範囲でキャッシュを持ち、暴落に備えました。
【2】ディープ・バリュー株の保有を増やす
バリュー(割安)株は、成長期待が必ずしも高くないので、成長株が買われる相場であまり上昇しない「つまらない」株と思われています。ただし、その分下げ相場に強いこともあります。先行き、景気が怪しいと思う時は、ただのバリュー株ではなく、ディープ・バリュー株(株価指標で見て非常に割安な株)の保有を増やして、ポートフォリオの下値抵抗力を高めるようにしました。
【3】景気敏感株の比率を下げて、ディフェンシブ株の比率を高める
景気敏感株(電機・自動車・機械・化学・鉄鋼・石油・海運など)の組入比率を低下させ、ディフェンシブ株(情報通信・医薬品・食品・生活必需品を扱う小売業など)の組み入れ比率を高めるようにしました。
逆に、景気悪化の終了が近く、先行き回復が期待される時は、ディフェンシブ株の組み入れを減らし、景気敏感株の組み入れを増やします。景気循環を少しだけ先取りするローテーション投資をやってきました。
個人投資家はどうしたら良いか?
【1】株式の保有を小幅に調整する
景気が先行き悪化する可能性があると思った時に、少しだけキャッシュを増やすのは悪くないと思います。ただし、大幅にキャッシュを増やすべきではありません。景気予測は往々にして外れるからです。景気判断の市場コンセンサスにしたがってキャッシュを増やしたり減らしたりしていると、株を安値で売って、高値で買うことになりかねません。
値上がり分だけ売ってキャッシュにするという考えもあります。景気回復が続き、株が上昇してくると、時価ベースで見た株の保有額は増えています。時価で増えた範囲だけ利益を確定するという手もあります。こまめに何回にも分けて売っていくことができるならば、一回でやるのではなく、5回くらいに分けるべきです。時価ベースで増えた分だけ、何回にも分けて少しずつ売っていくのが良いです。
最初の売りは往々にして「早過ぎ」です。2回目、3回目も「やや早過ぎ」かもしれません。売っても売っても上がるので、売るのが嫌になって放っている内に、暴落が始まります。しまった売るのが遅かったと思って4回目・5回目は下がる中で売っていくと、後から振り返って、それが高値圏でのベストな売り方となります。
どこが天井か誰にもわかりません。天井で売ることはできません。天井圏で手探りでの売りは、5回くらいに分け、上昇過程だけでなく暴落が始まってから最後の残りを売ると考えながら売るのがベストです。
【2】ディープ・バリュー株、または、ハイ・グロース株に逃避
私が機関投資家の時やっていたのは、ディープ・バリュー株へ逃げるという方法でした。その頃はまだ本格的なIT成長時代に入っていなかったため、成長株に逃げると言う考えはあまりありませんでした。
ただ、今ならば、景気悪化の影響を受けにくいハイ・グロース(高成長)株に資金を傾けるのも有効だと思います。日本もITサービスの本格的成長期を迎えたからです。
IT関連の成長株は、世界がコロナショックで戦後最悪の景気悪化に苦しんでいる時でも、成長を続けていました。今は、東証マザーズなどに有望な成長株が増えていますので、真の成長株を見つけることができるならば、成長株へ投資するのも、有効な戦略だと思います。
まとめると、ディープ・バリューまたはハイ・グロースへ資金をシフトするのが有効だと思います。ディープ・バリューについては、このレポートの末尾で紹介しているバックナンバーを参照してください。
あるいは、ITサービスの成長株に投資していくのも、今はおもしろいと思います。
【3】ディフェンシブ株へのローテーション
景気敏感株を減らすという戦略もあります。私は時期尚早と思いますが、私の判断が正しいとは限りません。米景気過熱→失速のリスクが高いと思う方は、景気敏感株→ディフェンシブ株のローテーションを始めても良いと思います。
高配当利回り株にも、景気敏感株とディフェンシブ株があります。たとえば、景気敏感株のトヨタ自動車(7203)を売って、景気変動の影響を受けにくいNTT(9432)に乗り換えるというのも一法です。
▼著者おすすめのバックナンバー
2021年6月30日:高配当利回り株で資産形成:次の景気後退はいつか?どう乗り切るか?(その1)
2021年6月28日:高配当金融株は「買い場」:ナスダック・S&P500最高値、日経平均は膠着2021年6月16日:攻めと守りの高配当利回り8銘柄をプロが厳選!
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