バリュー株の優勢は健全なローテーション
今週はMSCI世界株価指数が連日で過去最高値を更新する堅調となりました(6月2日)。米国と欧州で人の移動が広がり、コロナ禍の収束傾向と経済再開を織り込む動きをみせています。こうしたなか、年初来パフォーマンスで景気敏感株を中心とするバリュー株(割安株)の優勢が鮮明です。
図表1は、米国市場と日本市場を例に、バリュー株指数とグロース株指数のパフォーマンスを「1-3月期」、「4月以降」、「年初来」の騰落率で比較したものです。米国でも日本でもバリュー株がグロース株(成長株)に対し優勢であることがわかります。
バリュー株の具体的な業種としては石油資源、素材、資本財サービス、金融(銀行)、消費財サービスなどが挙げられます。国別に濃淡はありますが、世界的にワクチン接種が進められている状況で、これら業種の株価は景気回復期待、緩やかなインフレ圧力、長期金利上昇観測の恩恵を受けています。
一方、グロース株にはバリュエーションが相対的に高いハイテク(IT)、医薬、ヘルスケアなどの業種や小型成長株が多く含まれます。特にハイテク株は、コロナ禍でデジタル需要加速を受けた2020年の株価堅調が秀でた反動もあり本年は総じて上値が重くなっています。
投資環境の変化に応じた主役交代(グロース株→バリュー株)は、パウエルFRB議長が「フロス(泡立ち)」と称するほどの強気相場における健全なローテーション(物色循環)と考えられます。
<図表1:年初来の日米市場でみられるバリュー株の優勢>
米国株高をけん引している大型主力株をチェック
年初来の米国市場を例にとり、株高基調(S&P500指数は年初来12.0%上昇)をけん引している個別銘柄をチェックしたいと思います。
図表2は、米国上場銘柄のなかで時価総額が大きい100社で構成されるS&P100指数の個別銘柄について、「年初来騰落率」の降順(高い順)に一覧したものです。
上位銘柄としては、フォード、キャピタル・ワン・ファイナンシャル、シュルンベルジェ、サイモン・プロパティー・グループ、ウェルズ・ファーゴ、エクソンモービル、コノコフィリップス、ゴールドマン・サックス・グループ、GM、バンク・オブ・アメリカがトップ10となっています。
自動車、金融サービス(銀行や保険)、石油関連など比較的PER(株価収益率)が低い景気敏感株が多く含まれ、コロナ収束に伴う経済の正常化で業績回復が見込まれるバリュー銘柄が相場をリードしていることがわかります。
<図表2:米国株高をけん引する主力銘柄を年初来騰落率でランキング>
上記一覧には、予想PERが約25倍であるアルファベット(グーグルの持ち株会社)が年初来+38.2%で13位に入っており、バリュー(景気敏感)株のみが株高基調をけん引しているわけではありません。
また、業績見通しが改善しないバリュー株は、一時的に買い戻された後に値を崩す可能性もあります。「アフターコロナ」を先取りして買われたバリュー株でも、決算発表やガイダンス(業績見通し)が市場の期待にそぐわなければ、株価上昇でバリュエーション面が苦しくなり、物色の流れから外れるリスクもあります。
米国ETFで選ぶ:バリュー株とグロース株の投資戦略
相場格言に「続く流れに逆らうな」、「トレンドは友(Trend is your friend)」、「ついて行くのが儲けの道」、「上げ潮はすべてのボートを持ち上げる(A rising tide lifts all boats)」があります。
そこで、足元で鮮明となっているバリュー株物色に乗りたいニーズに応じて、米国市場のバリュー株に分散投資する米国籍ETF(上場投信)をご紹介したいと思います。
「バンガード・バリューETF」(VTV)は、米国の大型バリュー株に分散投資しているETFです。ハイテクなど成長性が高くてもバリュエーションが相対的に割高な銘柄群(グロース株)を避け、割安感を重視して米国株に分散投資したい投資家に人気があるETFです。
一方、米国のグロース株に分散投資する「バンガード・グロースETF」(VUG)もあります。図表3では、VTVとVUGにVOO(S&P500指数連動型ETF)を加えた3種類のETFについて各種情報を比較一覧しました。
「年初来騰落率」でみると、VTVのパフォーマンスがVUGやVOOよりも優勢です。ただ、長期視点で振り返る「10年(年率平均)」で比較すると、順位が逆転(VUG>VOO>VTV)している事実もわかります。
VTVはバリュー株相場のトレンドに乗りたい投資中級者の方にご注目いただけるでしょう。一方、投資初心者で長期目線の方であればVOO(米国市場全体に分散投資するETF)にご注目いただけると思います。
<図表3:米国バリュー株ETFと米国グロース株ETFの比較>
バリュー株より強いグロース株の業績予想
バリュー株がグロース株に対する優勢をいつまで続けるかについては見方が分かれています。本年後半、市場が「経済正常化」や「テーパリング(量的緩和縮小)」をいったん織り込み、長期金利の上昇観測が和らぐ場面となれば、高い収益成長が見込まれるハイテク関連を中心にグロース株があらためて注目される可能性もあると考えています。
図表4は、米国のグロース株指数、S&P500指数、バリュー株指数ベースの12カ月先予想EPS(市場予想平均)の推移を比較したものです。
グロース株の業績見通しは、バリュー株や市場平均(S&P500)と比較すると相対的に底堅く成長期待が高いことがわかります。バリュー株相場は、コロナ禍で抑圧された景気敏感株の業績回復を織り込む動きと考えられます。
足元のインフレ懸念や長期金利上昇観測を受け、昨年優勢だったグロース株のポジションをいったん減らす「リバランス」や「スタイルローテーション」とも言われています。年後半の環境変化を見極めながら、「時間軸とバランス」を重視した投資戦略を検討したいと思います。
<図表4:米国市場のグロース株とバリュー株の業績見通し>
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