ビットコイン相場は4月の最高値から約5割下落した

 米国市場では、長期金利の落ち着きをにらみつつ株式が持ち直しをみせています。一方、5月はビットコインを含む暗号資産(仮想通貨)相場が急落し、他市場への影響が警戒されています。

 図表1は、暗号資産の代表的指標として知られるビットコイン(単位:ドル)の過去1年の推移を示したものです。

 4月15日に史上最高値(6万3,410ドル)を付けるまで上昇した後、5月は下落基調に転じ、200日移動平均線や「節目」とされていた4万ドルを割り込みました。5月23日の年初来安値(3万3,700ドル)まで約5割下落したので「暴落」と言えるでしょう。

 ビットコインの需給悪化要因としては、テスラCEOのイーロン・マスク氏がビットコインによるEV代金の支払いを停止すると表明したことが挙げられます。同氏は「ビットコインはマイニング(採掘)や取引に化石燃料の使用が急増している」と指摘しました(13日)。

 さらに、中国の政府当局が金融機関や決済企業が仮想通貨関連の業務を行うことを禁止(18日)。続いて米財務省が「1万ドルを超える暗号資産の送金についてはIRS(内国歳入庁)に報告を義務付ける」と発表(20日)したことも響きました。

 中国当局は「暗号資産には実物資産の価値による裏付けがない」と断じ、米財務省は「暗号資産を使った脱税やマネーロンダリングなど違法行為への監視を強める」と表明しました。

 自律反発の動きもみられますが、今後のビットコイン相場の行方と株式など他リスク資産への影響に注意したいと思います。

<図表1:ビットコインの暴落を株式市場は軽視できるか>

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年5月初~2021年5月26日)

「前回のビットコイン暴落」後は日米株式も乱高下した

 需給変動の影響が大きく投機的な色彩が強いビットコインが下落を続けると、株式など他リスク資産に与える影響が警戒されます。

 米調査会社(CoinDesk Research)によると、2021年1-3月期までにヘッジファンドなど機関投資家がリスク資産の分散投資先として暗号資産投資を拡大させ、レバレッジ(借り入れ)を活用して投資していた個人投資家も増加したと報じられました。

 金融業界では、今回の暗号資産波乱を一時的とみる向きがある一方、一段の調整を予測する見方もあります。米最大手の投資銀行は、「今回のような極端な価格変動で機関投資家にとっての魅力は低下する」との見解を示しました(21日)。

 ビットコインへの投機熱とその後の急落は、レバレッジを利用した投資家にポジション解消(売り)を迫り、一時的にせよ市場心理が冷え込む可能性があります。

 また、ポートフォリオ上の損失を補填するための現物株売りが増えるならその影響は軽視できません。

<図表2:前回のビットコイン相場暴落と日米株式を振り返る>

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2017年初~2018年末)

 図表2は、前回の「ビットコイン暴落」(2017年12月17日の1万9,051ドルから急落に至った局面)に、米国株(NYダウ平均)と日本株(日経平均)の推移を重ねて示したものです。

 ビットコインは当時の高値から8割安に相当する4,000ドル割れまで下落する弱気相場となりました。その過程を振り返ると、米国株や日本株も少なからず影響を受けた経緯がみられます。

 ただ、2017年と2018年はFRB(米連邦準備制度理事会)が断続的に利上げを実施していた局面で、米長期金利(10年国債利回り)は上昇傾向をたどり、2018年2月に2.8%、5月には3.1%超まで上昇。ビットコイン暴落にやや遅れて日米株式も乱高下しました。

 本年は、暗号資産に投資していたファンド筋から損失補填のための株式売りが増えるか否かが警戒されます。

米国市場ではナスダックと半導体株に持ち直しの動き

 ビットコイン相場は波乱に直面しましたが、米国株には見直し買いもみられます。米国債は、5月12日に発表されたCPI(消費者物価指数)の伸びが急だった前後からインフレ加速と金融政策を巡る思惑に揺れ、期待(予想)インフレ率と長期金利に上昇懸念が高まりました。

 ただ、その後の債券市場は落ち着きを取り戻し、経済がパンデミックからの回復を続けるなか、FRB高官が都度指摘するように「目先の物価上昇は需要回復と供給制約を受けた一時的な事象」で、「金融当局はテーパリング(量的緩和縮小)に前のめりにならない」との見方が広まったようです。

 債券市場で試算される期待インフレ率は2.5%を割り込み、長期金利は1.6%前後の小幅なレンジにとどまっています。

 こうした動きを受け、株式市場ではグロース株を象徴するナスダックに底入れ感がみられます。

 図表3は、S&P500指数、ナスダック100指数、フィラデルフィア半導体株指数の推移を示したもの(2011年初=100)。S&P500やナスダック100が持ち直した他、半導体株が急反発している点に注目したいと思います。

<図表3:長期金利の安定で米国株に持ち直しの動きも>

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年11月初~2021年5月26日)

 世界中でデジタル化が進むなか、半導体産業は需要拡大を受け収益見通しが成長トレンドを鮮明にしています。

 図表4は、フィラデルフィア半導体株指数、ナスダック100指数、S&P500指数ベースの予想EPS(12カ月先予想1株当たり利益:市場予想平均)の推移を示したものです(2017年初=100)。

 スマホ、PC、ゲーム機器、IoT、5G、クラウド、データセンター、FA、AI、EV、自動運転車を含む幅広い分野でのDX(デジタル・トランスフォーメーション)に必要な高機能・高速・大容量の半導体とその製造技術は、コロナ禍が加速させた構造変化の後押しもあり需要が拡大しています。

 米半導体業界で時価総額最大のエヌビディアは26日に2-4月期の決算を発表し、売上や利益が市場予想平均を上回りました。

 画像処理半導体分野で最大手の同社は、ゲーム機器やAI向け半導体需要の好調が続き、コロナ禍で広がった在宅勤務はコロナ収束後も定着しPCやデータセンター向け需要が続くとの見方を示しました。

 冒頭で述べたように、中国当局は仮想通貨について「実物資産の価値による裏付けがない」と断じました。一方、リスク資産としての株式の特徴として、「利益成長期待に沿ったトレンド(リターン)」が期待できる点を再認識したいと思います。

<図表4:半導体株とナスダック100の利益見通しは拡大傾向>

*予想EPS=株価指数ベースの12カ月先予想EPS(市場予想平均)
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2017年初~2021年5月26日)

▼著者おすすめのバックナンバー
2021年5月21日:世界株式の調整は続く?リスクはリターンの源泉なり
2021年5月14日:乱高下の米国株。セル・イン・メイ後は?イールドカーブと業績見通しをチェック
2021年5月7日:100円からできる!米国株投資:「セル・イン・メイ」と長期・分散・積立投資