米国市場ではナスダック総合指数が最高値を更新した

 米国市場では株式が高値圏で推移しています。大統領選挙は14日に実施された選挙人投票でバイデン氏が過半数(270人)を上回る306人を獲得して当選を確定させました。敗北を認めないトランプ大統領の選択肢は極めて限定的となっています。

 また、米国各地でワクチン接種が始まっており、600カ所超の医療機関で順次接種が進められます。アザー厚生長官は「ワクチンの接種開始は驚くべき医学的な成果だ」と述べました。

 米国議会の幹部が追加経済対策の年内合意を目指す姿勢を示している一方、FRB(米連邦準備制度理事会)は15~16日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)で、「新型コロナウイルスの感染が再び拡大し景気への影響が懸念されており、国債などを購入して市場に大量の資金を供給する現行の量的緩和策を長期に続けていく」との方針を明確にしました。

 低金利環境がしばらく続くとの期待を受け、主要株価指数ではナスダック総合指数やナスダック100指数が最高値を更新(16日)。ナスダック総合指数の年初来上昇率は+41.1%、ナスダック100指数は同+45.1%と高く、S&P500指数(同+14.6%)を大きく上回っています。

 図表1で示すとおり、コロナ禍を契機としたDX(デジタル・トランスフォーメーション)需要の成長期待を受け、ナスダック100指数ベースの利益見通しは2020年も2021年も二桁増益が予想され、その増益ペースはS&P500指数を上回ると見込まれています。

<図表1>今年も来年もナスダックの利益は最高益を更新する見込み

*2020、2021、2022年の予想EPS(1株当たり利益)=Bloomberg集計による市場予想平均
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年12月16日)

米国市場のブラックスワン指数が上昇している背景は

 株式相場は堅調ですが、市場内部で「株価が下落するリスク」に備える動きもみられており、注意したいと思います。

 図表2は、米国株(S&P500指数)と日本株(TOPIX)の推移を上段に示し、オプション市場の「プットコールレシオ」と「ブラックスワン指数」を下段に示したものです。「プットコールレシオ」は市場で見積もられている予想変動率を示しているとされます。

 11月と12月は米国株が最高値を更新したことで、予想変動率が低下した状況がわかります。一方、ブラックスワン指数(SKEW Index)は、「株価が大幅に下落する確率÷株価が大幅に上昇する確率」を指数化したものとされます。

 ブラックスワン指数が上昇する局面は、オプション市場で「株価の大幅下落を警戒する投資家が増えている状況」を示します。投資家が「ブラックスワン(まさかの黒い白鳥)」が出現することを恐れると、ブラックスワン指数が上昇しやすいと言われます。本年は、2~3月のパンデミック危機、6月の感染第2波不安、大統領選挙直前などで上昇した経緯があります(図表2)。

<図表2>米国市場で急上昇するブラックスワン指数

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年1月1日~2020年12月16日)

 現在の株式市場は、ワクチン期待が支えるコロナ終息と経済の正常化を織り込む相場であるとの認識も必要です。FRBなど主要国中央銀行による大規模金融緩和、米国政治の「ねじれ観測」などが好材料として同居しています。

 新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化すると金融緩和の長期化観測が強まる「良いとこ取り相場」とも言われています。米国では感染拡大で州(都市)別に外出規制や店舗営業自粛が増加。ニューヨーク市長は15日、「今後数週間で、春に実施したようなシャットダウン(都市封鎖)に踏み切る必要がある」と述べました。

 日本でも菅政権が「Go Toキャンペーン」を全国一斉に停止すると表明しました。感染動向が変わらないと、内外でサービス業の景況感が陰りをみせるのは必至です。ただ、製造業のファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)には回復傾向がみられます。中国経済が主導する世界経済と業績見通し改善を見極めることも重要です。

新年の世界市場に影響を与える「想定外のリスク」を点検

 図表3では、リスクオン(選好)相場を揺るがす可能性が高い「2021年に向けた潜在リスク」を一覧にしてみました。分類としては、「コロナリスク」、「金利上昇リスク」、「中国リスク」、「欧州リスク」、「地政学リスク」が主な火種として挙げられます。

 12月上旬に欧州系大手投資銀行が世界のFM(ファンドマネジャー)に聴取したところ、「ワクチン期待」を後退させる事象として、
(1)新型コロナウイルスが変異してワクチンが期待通りの効果を発揮しない
(2)ワクチンの接種が進むに従って副作用が顕在化する
(3)多くの一般個人がワクチン接種に消極的となり経済正常化が遅れる

といったリスクを警戒していることがわかりました。

<図表3>新年の「ブラックスワン」を見極める

出所:各種情報や報道をもとに楽天証券経済研究所作成

 1月5日の米ジョージア州上院議会選・決戦投票も注目されています。同投票で決する上院2議席を民主党が制すると、新年は大統領府、下院議会、上院議会を民主党がコントロールする「トリプルブルー」が実現。

 市場は法人増税、富裕層増税、規制強化を警戒する可能性がありそうです。金融当局が供給する過剰流動性で期待インフレ率が想定以上に上昇し、金融緩和政策の「出口」が強く意識されても株価は乱高下しそうです。

 特に債券市場が財政赤字拡大を材料視して「悪い金利上昇」が進む場合、テクノロジー分野を中心とする高PER(株価収益率)株の下押し圧力となる可能性もあります。その他、人権問題を巡り米国と中国が政治的な対立を激化させる、BREXITの余波で英国や欧州大陸の景気低迷が続く、イランの暴発で中東地域の地政学リスクが高まる事態なども相場変動要因です。

 こうしたリスク要因が顕在化して米国株が下落すると、市場心理の冷え込みを反映した外国人投資家の先物売りで日経平均も下落しやすくなります。株式市場のボラティリティ(変動率)が高まるとアセットアロケーション(資産配分)上で株式比率を引き下げる売りが強まる可能性もあります。

 2021年もさまざまな要因で相場が変動する場面を想定せざるを得ません。とはいっても、株式売りが一巡すると、再び堅調トレンドに回帰すると予想しています。2021年の株式相場がコロナ終息後の正常化に向けた過渡期にあると認識しているからです。

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