「政治的あく抜け感」と「ワクチン期待」が世界株高の背景

 世界市場で11月入りして株高が続いています。東京市場では日経平均株価が8日続伸し、バブル崩壊後(1991年以来約29年ぶり)の高値となる2万5,520円に上昇しました(12日)。

 今年最大のリスクイベントと警戒された大統領選挙を終え、中国景気の回復、人民元相場上昇、円高一巡を受け、外需関連株が堅調となりました。

 大統領選挙ではバイデン民主党候補が勝利を宣言しましたが、上院議会は共和党が多数派を維持する可能性があり「政治的なねじれ」は続く見通しです。上院議会の承認が必要となる増税や規制強化が実施される可能性が後退したことも米国株高の要因となりました。

 週初に米製薬大手ファイザーがドイツ企業ビオンテックと共同開発してきた新型コロナウイルスのワクチン開発(第3相試験)で「90%以上の有効性が示された」と発表。ワクチン開発の進捗期待で経済の回復期待が後押しされ、景気敏感株(バリュー株)に買い戻しがみられ、コロナ禍でも堅調であったIT分野を中心とする成長株(グロース株)は反落しました。

 外部環境の予見性が概して改善したことで、株式市場は需給相場(売り手の買い戻し)を経て季節性に沿った「年末高」を示現しつつあります。

 当面の米国市場では、バイデン陣営が進める「閣僚人事」、(選挙での敗北を認めない)トランプ大統領による「法廷闘争」の行方、ワクチンの承認・量産・普及を巡る思惑、感染拡大動向、債券市場の金利動向などが動意材料となりそうです。

<図表1>ダウ平均も日経平均も「年末高」を目指す堅調

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019年11月初~2020年11月11日)

世界市場ではクリーンエネルギー株が優勢を持続

 世界市場では再生可能エネルギーを中心とするクリーンエネルギー株(環境関連株)が優勢となっています。世界のクリーンエネルギー関連株で構成されるS&Pグローバル・クリーン・エネルギー指数は本年夏以降に堅調を鮮明にしてきました(図表2)。

 同指数は、米国S&P社が提供するグローバル株価指数の一種で、世界のクリーンエネルギー業界の中から、太陽光発電、風力発電、水力発電、地熱発電、バイオ燃料(バイオマス)などの分野で流動性が高い30銘柄を構成銘柄にしています。

 2月から3月の「コロナ危機」では下落を余儀なくされましたが、「温暖化ガスの排出削減」に向けた動きが世界で強まるなか、大統領選挙動向で「バイデン民主党候補の優勢」が鮮明となった夏ごろから堅調傾向をたどりました。

 トランプ大統領(現職)は、2017年就任当初から「パリ協定」(2015年に採択された地球温暖化対策を巡る国際的枠組み)から離脱することを表明。米国の石油・シェールオイル・石炭産業を支援するためにエネルギー関連規制を緩和しました。

 大統領選挙で当選を確実にしたバイデン候補は「パリ協定への復帰」を公約に掲げ、「グリーン・リカバリー」と呼ばれる経済再生計画を表明。「2035年までに発電分野で脱炭素(実質ゼロ)を目指す」、「環境・インフラ部門に4年で過去最大規模の2兆ドルの投資を実施する」と述べてきました。

<図表2>世界でクリーンエネルギー株式の優勢が続く

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019年11月初~2020年11月11日)

 2021年1月に発足するバイデン政権が「パリ協定復帰」を果たせば、再生可能(代替)エネルギーの活用やEV(電気自動車)に関連した投資が進む可能性があります。

 こうした機運を反映し、S&Pグローバル・クリーン・エネルギー指数の期間別騰落率は、3カ月前比で+36.4%、年初来で+84.6%、1年前比では+103.8%と米国株式平均(S&P500指数)を大きく上回っています(11月11日時点)。

「新大統領誕生」をカタリスト(契機)に、新年(2021年)もクリーンエネルギー株や環境関連株が注目度を高めていく可能性が高いと考えられます。

国内市場(東証)でも「環境関連株」の注目度が高まっている

 国内市場(東証)でも、「脱炭素」を含めた環境改善に寄与する企業への投資意欲が高まると思われます。長期投資を指向する外国人投資家に加え、国内の機関投資家も「ESG(環境・社会・企業統治)」を銘柄物色で重視する傾向にあり、「脱炭素」への取り組みで企業を選別する動きも広まりそうです。

 こうしたなか、菅義偉首相は10月26日の臨時国会における所信表明演説で、「2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にする」との目標を明らかにしました。

 菅首相は、「もはや温暖化への対応は経済成長の制約ではない」と指摘し、「成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げ、グリーン社会の実現に最大限注力する」と表明しました。

 図表3では、国内市場で注目されている環境関連株(クリーンエネルギー株)と呼ばれる主な銘柄を参考情報として一覧にしました。「3カ月前比騰落率」の降順で比較すると、TOPIX(東証株価指数)よりも平均的に優勢となっています。

<図表3>国内市場で注目される「環境関連株」

*上記は参考情報であり、特定の銘柄を推奨する目的のものではありません。
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年11月11日)

環境関連株って何をやっている会社?

 レノバ(東証コード:9519)は、再生可能エネルギー発電(太陽光発電・洋上風力発電)の開発・運営事業で注目されています。

 ウエストHD(1407)は、再生可能エネルギーを柱とするトータルエネルギー事業を展開し、太陽光発電システムの施工・販売に注力しています(本社:広島県広島市)。

 岩谷産業(8088)は、次世代の経営の柱として水素事業の開発・拡大に注力する事業戦略を展開しています。

 日本電産(6594)は、EV向けの小型駆動モーター事業を拡大させています。中国の自動車メーカーを中心に納入実績を増やしており、2021年3月期の営業利益見通しを上方修正しました。同社の永守重信会長兼CEOは今週、「(2025年以降にEVの普及が加速し)2030年ごろにはEVが自動車市場全体の5割を超える」と発言しました(10日)。

 日野自動車(7205)は、北米市場向けに燃料電池を使用する大型トラックをトヨタ自動車と共同開発することを発表しました。

 ユーグレナ(2931)は、ミドリムシ(ユーグレナ)を使用したバイオディーゼル燃料発電を開発して注目されています。

 ダイキン工業(6367)は、オフィス・工場の「エネルギー消費ゼロ」や「クリーンエア」の開発や事業に注力しています。

 村田製作所(6981)は、セラミックコンデンサーや「次世代電池」として注目される全固体電池の生産をEV用途向けに拡大しています。

 事業分野や業態(専業か複合事業型)の違いはありますが、内外の「環境改善」に寄与するビジネスを拡大させている企業の株価は市場での相対的評価を向上させていくと考えられます。

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