「オクトーバー・サプライズ」はホワイトハウスのクラスター化

 米国株式は乱高下しつつも、底堅い動きを示しています。新型コロナウイルスの感染増加が続くなか、マスク着用に消極的だったトランプ大統領の感染判明と入院は「オクトーバー・サプライズ」でした。

 大統領はワシントン郊外の陸軍病院で治療を受けましたが、医師団の陰性確認を待たずにホワイトハウスに復帰。追加景気対策を巡る協議を停止すると表明した直後に「航空業界や企業への資金支援を急ぐべき」との方針を示しました。

 9月29日に実施された「大統領候補者TV討論会」と「ホワイトハウスのクラスター化」を受け、選挙戦ではバイデン民主党候補の優勢が鮮明となっています。

 最新調査によれば、「激戦州」と呼ばれる注目州(フロリダ州、ペンシルベニア州、アイオワ州、ネバダ州、オハイオ州など)でバイデン氏の支持率がトランプ氏に対しリードを広げていると報道されました(Bloomberg News)。

 直近の当選予想(PredictIt調査)によると、バイデン氏の当選予想(66%)はトランプ氏の当選予想(37%)を大きく上回っており、下院議会や上院議会の改選議席選挙でも民主党勝利(過半議席の獲得)が有力視されています(図表1)。

 当面もワシントン情勢がマーケットの不安定要因となりそうですが、バイデン民主党が政権を奪回しても「2021年はインフラ投資拡大を含め景気浮揚を目的とした財政出動を優先するだろう」との冷静な見方が広まっています。

<図表1>選挙動向では「バイデン民主党」の優勢が鮮明に

出所:PredictItより楽天証券経済研究所作成(2020年1月初~10月7日)

「バイデン強気株式指数」が連日で高値を更新

 上述のように、大統領選挙に向けてバイデン民主党候補の優勢が鮮明となるにつれて「バイデン銘柄」(バイデン政権誕生で有望となりそうな銘柄群)の株価が堅調となっています。

 図表2は、「バイデン株式強気指数」(Biden Longs Index)とS&P500指数(市場平均)の年初来推移を示したものです(2020年初=100)。バイデン株式強気指数は31銘柄で構成されており、10月に入ると連日で最高値を更新する好調となっています。

 こうした要因として、バイデン民主党候補が政権公約の柱である「パリ協定」(脱・地球温暖化対策に関する国際合意)復帰を期待した投資家が、クリーン・エネルギー(再生可能エネルギー)関連株、環境インフラ関連株、EV(電気自動車)関連株を買い進んでいることが挙げられます。

 バイデン氏は、「温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロを目指す」、「環境インフラへの投資を4年間で2兆ドル支出する」、「5年間で5億枚の太陽光パネルを設置する」などの方針を明らかにしています。

<図表2>バイデン強気株式指数が高値を更新する好調

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年1月初~10月7日)

バイデン銘柄、騰落率上位はクリーン・エネルギー関連

 図表3は、バイデン株式強気指数を構成する31社をベースに、「3カ月前比騰落率」の高い順(降順)に10銘柄のみを一覧表にしたものです。上昇率で上位5銘柄のセクター(業種)をみると、「Energy-Alternate Sources」(代替エネルギー)に属している事実がわかります。

 例えば、1位のサンパワー(SPWR)、2位のサンラン(RUN)、3位のビビント・ソーラー(VSLR)は太陽光発電関連やソーラーパネル関連株であり、10位のテスラはEV(電気自動車)専業メーカーの最大手として知られています。

 こうした銘柄群の3カ月前比騰落率はS&P500指数の同期間騰落率(+7.9%)を圧倒しています(10月7日)。

 市場参加者がバイデン氏の勝利(当選)を見込み「低炭素経済へのシフトに弾みがつく」と読み始めた可能性が高く、クリーン・エネルギー関連企業の収益見通しに改善期待が強まっているとも言えそうです。

<図表3>バイデン相場をけん引している銘柄群は?

*上記は参考情報であり個別銘柄を推奨する目的のものではありません。
*上記一覧には楽天証券で売買できない銘柄も含まれています。
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年10月7日)

クリーン・エネルギー株への分散投資戦略を検討する

 こうしたクリーン・エネルギー(脱・地球温暖化対応)関連株や環境(エコ)関連株に分散投資を実践する投資商品として米国籍ETF(上場投信)や追加型公募投信もあります(図表4)。

 例えば、世界のクリーン・エネルギー関連企業で構成されるS&Pグローバル指数に連動する投資成果を目指す「iシェアーズ・グローバル・クリーンエネルギーETF」(米国籍ETF:ICLN)の取引価格は3カ月前比で約5割、年初来では約8割上昇しています。

 これらファンドの取引価格(基準価額)の堅調は、バイデン氏の優勢が鮮明となった夏ごろからスタートしました。大統領選挙の争点は多岐にわたりますが、投資テーマの一つとして「環境問題への取り組み」が注目されています。

 図表1で示したとおり、直近時点の「当選予想」はバイデン候補が優勢です。選挙結果の行方に予断を許しませんが、投資テーマの物色が動きはじめた様子です。

 トランプ大統領は、オバマ政権が進めたパリ協定からの脱却を2017年初に決定。石油・シェールオイル関連・石炭産業(二酸化炭素排出産業)を支援する目的で、関連規制の緩和に動いた経緯があります。

 トランプ大統領が再選に失敗する(=バイデン氏が当選する)場合、伝統的なエネルギー株が劣勢を余儀なくされる可能性があり留意したいと思います。

 なお、今回の大統領選挙は、本選挙(11月3日)直後に当選・落選が決定しない可能性も警戒されています。「司法判断」(最高裁による判断)を待つ展開となれば、12月にかけて株式市場が不安定な動きを続けるリスクがあります。

 とはいっても、やや長い時間軸で「選挙結果は早晩明らかになる」とのシナリオに立てば、クリーン・エネルギー関連株への分散投資を検討する意義がありそうです。

<図表4>クリーン・エネルギー分野に分散投資できるファンド

*米国籍ETFの取引価格はドル表示、追加型投信の基準価額は円表示。
*上記の「騰落率」は分配金によるリターンを含んでいません。
*上記は参考情報であり特定の投資商品を推奨するものではありません。
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年10月7日)

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