ウォーレン・バフェット氏が、日本株投資に本格参入? 

 米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏は8月30日、同氏率いる米投資会社バークシャー・ハサウェイが、1年以上かけて日本の5大商社株をそれぞれ発行済み株式数の5%超まで買ったと発表しました。バフェット氏は声明で、「日本の未来と、5つの商社の未来に参画することを楽しみにしている」と述べました。この発表を受けて、5大商社株は8月31日・9月1日に大きく上昇しました。

 バフェット氏は近年、米アップルなど成長株に積極投資しましたが、運用手法の根幹にはバリュー(割安)重視があります。最近、米国株の上昇が速すぎて、バフェット氏の投資基準に合うバリュー株が少なくなったことから、運用対象を日本株にも広げたと考えられます。

 私は、日本には、バフェット氏の御眼鏡にかなうバリュー株がたくさんあると考えています。五大商社(三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・住友商事・丸紅)も、そうです。世界中で安定的にキャッシュフローを稼ぐ力をつけている割には、株価はPER(株価収益率)・PBR(株価純資産倍率)・配当利回りなどの指標から見て、割安です。

 今日のレポートでは、五大商社以外で、バフェット氏が投資したいと考える可能性がある日本株は何か、考えます。

<参考>アップルが大好きなバフェット氏がアマゾンに投資することができなかった理由

 ウォーレン・バフェット氏は「自分が理解できないものには投資しない」考えでした。ハイテク株やIT株に積極的には投資せず、コカコーラやアメリカンエクスプレスのような分かりやすい安定成長株を重視して投資してきました。

 米国株の上昇をけん引してきたGAFAM(グーグル・アマゾン・フェイスブック・アップル・マイクロソフト)では、携帯電話大手アップル以外には積極的に投資してきませんでした。アマゾンは高成長期待からいつでもPERなどの株価バリュエーションで高く評価されていたので、バフェット氏の投資意欲をかきたてませんでした。「なぜアマゾンを買わなかったのか」という投資家の質問に、彼は「自分は間違っていた」と素直に認めています。

 そのバフェット氏が大好きなのが、アップルです。時価総額1兆ドルを超えてからわずか2年程度で2兆ドルを超えたアップルは、今やPERなどのバリュエーションで割高に見えても、世界中の機関投資家が「買わざるを得ない」投資対象となりました。

 ただし、バフェット氏がアップル株を大量に取得し始めた2017~2018年には、PERで10倍台の低い評価に甘んじていました。安定成長が続いている割に、PERなどの株価バリュエーションで割安に評価されていたことが、バフェット氏が投資を始めた理由と考えられます。当時、アップルは、これまでの成長をけん引してきたハード(iPhone)の成長余地が小さくなってきたことから、成長性に陰りが出てきたと考えられていました。バフェット氏は、アップルがハードだけではなく、音楽配信や決済などのサービス事業で成長し始めていることにも注目しました。

 つまり、バフェット氏がアップル好きなのは、「高成長は見込めなくても、安定成長を期待できるPERの低い株だから」であったと、考えられます。つまり、成長を見ながらバリューも見る手法にぴったり合っているわけです。

 それでは、今のアップルはバフェット氏にどう見えるのでしょうか? バリュエーションから見た割安感はなくなりました。私は、今のアップルは、バフェット氏が喜んで買う株価ではなくなっていると思います。

時代とともに変わるバフェットの運用手法、若い頃はバリュー(割安)重視

「バフェット氏の運用手法」と一言でいっても、若年期と壮年期で異なります。無名だった若年期にはハゲタカ・ファンド張りのディープ・バリュー(激安)株投資で荒稼ぎしていたこともあります。運用手法の根底に、バリュー重視があります。ただし、年とともに、グロースを重視しました。

 ただ、根底には、常にバリューを考えながら投資銘柄を選ぶ慎重さがあります。運用で「勝つ」ことを考えつつも、常に「大負け」しないようにリスクをコントロールしてきたからです。それが、グロースを重視しつつ、バリューも見る運用手法につながっていったと思います。日本の個人投資家にとって、参考になる知恵がバフェット氏の言葉にたくさん詰まっていると思います。

 バリュー(割安株)運用で高い運用利回りを上げて有名になったウォーレン・バフェット氏の、若い頃の言葉を紹介する著作を、私は原書で読んだことがあります。「Warren Buffett’s Ground Rules(ウォーレン・バフェットのグラウンド・ルール)」(Jeremy C. Miller著)です。バフェット氏が若い頃、投資家向けに書いた手紙が紹介されています。私が、25年のファンドマネージャー時代にやってきたバリュー運用に通じる極意が、若きバフェットによって熱く語られており、感動しました。

 私が強く共感した言葉を、2つ紹介します(日本語訳は窪田)。

(1)「企業の本源的価値がわかっていれば、それを生かして有利にトレードできる。株価が、本源的価値と比較して、ばかばかしい程、安い水準まで売られた時に買うことで、利益が得られる。」

(2)「最近、新時代の投資哲学を語る人が増えた。その哲学によると、木々が空まで伸びるように上昇し続ける株が出るという。そんな哲学に乗って割高株を高値づかみするくらいなら、過度に保守的といわれてペナルティを課せられた方がましだ。」

 私は、今の日本株に、本源的価値を割り込んでいる株はたくさんあると思います。地味で不人気だが、財務内容が良く、キャッシュフローが潤沢で、安定高収益の会社を探せばいいわけです。価値が高いのに、不人気で株が割安になっているものは、結構あります。そこで今日は、「もしバフェ銘柄」、つまり、「もしバフェットが日本株ファンドマネージャーだったら買うと考える銘柄」を探してみました。

「もしバフェ」候補5銘柄(2020年9月4日時点)

コード 銘柄名 株価:円 配当利回り PER:倍 PBR:倍
2914 日本たばこ産業 1,972.0 7.8% 12.2 1.4
6758 ソニー 8,288.0 0.5% 19.8 2.3
8306 三菱UFJ FG 444.4 5.6% 6.4 0.4
9324 安田倉庫 926.0 2.1% 11.3 0.4
9433 KDDI 2,975.0 4.0% 10.6 1.5
出所:各社決算短信より作成。株価・配当利回りは9月4日時点。配当利回りは、1株当たり年間配当金(今期会社予想)を株価で割って算出。PERは株価を1株当たり利益(今期会社予想)で割って算出。今期とは、日本たばこ産業は2020年12月期、その他は2021年3月期のこと

 上記5銘柄は、バフェットの投資基準になるべく合うと考えるものを、筆者が選別したものです。以下、コメントします。

【1】日本たばこ産業(JT)(2914)

 JTは、株式市場で不人気ですが、私は配当利回り7.8%の高配当利回り株として高く評価しています。前期(2019年12月)実績ベースで、自己資本比率47.9%、営業利益率23.1%と、財務良好の高収益企業です。詳しくは、以下のレポートを参照してください。

2020年3月12日:配当利回り7.4%、JT株の投資判断:4月に「改正健康増進法」施行を控えて軟調

 ところで、JTはバフェット氏の投資基準に合うのでしょうか?「安定的にキャッシュフローを稼ぐ力があるにもかかわらず、株価は割安」という意味では、基準に合致すると考えています。ただし、一つ、気になることがあります。JTは、今、機関投資家にはやりのESG投資【注】では、投資対象から除外されることです。タバコを製造していることが、除外理由となっています。

【注】ESG投資
 E(エコ:環境経営)、S(ソーシャルレスポンシビリティ:社会的責任)、G(ガバナンス:企業統治)の3つの頭文字を組み合わせて作った言葉。ESGスコアの高い企業に投資する。ESGの観点から問題があると判断される企業(化石燃料を大量に使用する企業、武器を製造する企業、反社会的企業など)は投資対象から除外する。

 バフェット氏は、投資銘柄を選別する際、ESGで判断すべきではないと語っています。割安でキャッシュフローを安定的に稼ぐ力があり、社会から必要とされている企業であれば、ESGで問題があると烙印(らくいん)を押されていても、投資することはあります。実際、化石燃料に投資する企業でも、割安な高収益株であると判断すれば、投資してきました。

 バフェット氏は、90歳になった今でもチェリー・コークが大好きで、それが健康に良いか悪いかは別として、コカコーラ株に投資してきたこともあります。バフェット氏がタバコを評価するという話は聞いたことがありませんが、少なくともタバコだからと言って最初から投資対象から除外することはないと考えられます。

【2】ソニー(6758)

 日本のIT大手はいずれも、SNS・ITサービス分野では米国のGAFAMとの競争に敗れ、世界標準を取ることはできませんでした。かつて日米の検索エンジンでトップだったyahoo(ZHDの検索エンジン)はグーグルとの競争に敗れ、日本だけのマイナー検索エンジンとなりました。

 その中にあってゲーム分野だけは、今でも日本勢が支配しています。任天堂とソニーは、ゲームを中心に世界で勝負できるIT成長企業として高く評価できます。マイクロソフトやグーグルが参入しましたが、任天堂・ソニーの有力なライバルとはなりませんでした。

 20世紀のソニーは、テレビ・音楽プレーヤーなど音響機器のハードで稼ぐ成長企業でした。ところが、21世紀に入り、ビジネスモデルを完全に転換しています。今は、ゲーム・音楽・映画・金融などのソフトで稼ぐ企業に転換しています。世界で成長する日本版IT企業、日本版GAFAMとして、評価余地は大きいと考えています。

 ところで、バフェット氏はソニーを評価するでしょうか? 日本版GAFAMとは言っても、バフェット氏は、そもそもアップルを除けば、GAFAMを評価して買うことはありませんでした。

 私は、今のソニーは、バフェット氏が投資を始めたころ、2017~2018年のアップルに似ているところがあると思います。バフェット氏が投資を始めたころ、アップルはIT企業として評価はされていませんでした。そのために、PERなどのバリュエーションで低評価でした。製造業と見られていたことが、低評価の理由でした。

 アップルは、かつてソニーのライバル製造業でした。ソニーが一世風靡(いっせいふうび)した「ウォークマン」は、アップルの「iPod」との競争に敗れて、衰退しました。アップルには、IT企業というよりは、携帯電話を作っている製造業のイメージが強かったと言えます。それが株式市場の低評価につながっていました。ところが、実際には、アップルは製造業ではありませんでした。同社のスマホ「iPhone」は、部品は日本、組み立ては中国と言われ、アップルがやっているのは開発やマーケティングだけです。今、株式市場でアップルはIT成長企業として評価されています。

 任天堂は、ゲームソフトで世界を支配している日本企業として、PERなどのバリュエーションで高く評価されています。ところが、ソニーはまだ、テレビなどを作っている製造業のイメージが強いため、任天堂と比べると株式市場での評価は低くなっています。そこが、バフェット氏が評価するポイントと思います。もし、バフェット氏がソニーの収益構造の変化に詳しいならば、投資対象に入るのではないかと考えます。

 詳しくは、チーフアナリスト今中能夫による以下のレポートを参照してください。

2020年8月28日:巣ごもり消費とゲーム株(任天堂、ソニー)

【3】三菱UFJ FG(8306)

 長期金利をゼロ近辺に固定する金融政策が長期化することで、国内では、銀行業の利ざや(貸出金利と預金金利の差)縮小が続いています。国内業務に特化した地方銀行は、生き残りが難しくなってきます。ただし、三菱UFJ FGは、利ざやの厚い海外での与信拡大と、業務の多角化(信託・証券・リース・消費者金融など)によって、高収益を維持していくと判断しています。デジタライゼーション技術の活用で、2023年度までに(2017年度対比で)1万人の業務量を削減できるようになると発表していることも、ポジティブです。コスト削減が進む中で、高収益を維持していくと判断しています。

 バフェット氏は、リーマンショックの時に、過度に売られた米国の金融株を買い、その戻りで大きなリターンを得ています。収益基盤がしっかりしている割に、株価が割安な日本のメガバンクも、投資基準にかなうと、私は考えます。

 最近、バフェット氏が米国の金融株を売却したことが話題になりましたが、それは、バフェット氏の考えから、バリューの魅力が薄れたと判断したためと考えられます。

 三菱UFJは、保有有価証券に今年の3月末時点で2兆8,886億円もの含み益があるにもかかわらず、PBR0.4倍の低評価となっており、米国の金融株と比較できないくらい低いバリュエーションとなっています。バフェット氏が三菱UFJの収益構造を理解しているならば、今の株価で投資価値が高いと判断すると考えられます。

 三菱UFJについて、さらに詳しいレポートをお読みになりたい方は、以下をご参照ください。

2020年6月11日:配当利回り5.3%!三菱UFJの投資価値を見直す

【4】安田倉庫(9324)

 最初にお断りしますが、今のバフェット氏が安田倉庫に投資することは、あり得ないと思います。安田倉庫の時価総額が小さすぎるからです。バフェット氏のように何十兆円規模のお金を動かしていると、1銘柄で少なくとも数千億円は買えないと意味がありません。日本の大型株ですら、バフェット氏からみれば、小型株のようなものです。安田倉庫まで手を出すはずがありません。

 ただし、安田倉庫は、バフェット氏の投資基準には合うと考えています。物流事業で収益を伸ばしていく期待が高まっているにもかかわらず、株価は買収価値から見て、きわめて割安と考えられる水準にとどまっているからです。

 バフェット氏が投資を始めたばかり、20代でまったく無名だった時には、これくらい時価総額が小さい会社でも投資していました。20代の無名だったバフェット氏なら買ったかもしれない、という意味で「もしバフェ銘柄」に入れました。

 今、日本で、不動産株には、買収価値から見て、割安な銘柄が多数あります。その代表は、三井不動産・三菱地所・住友不動産です。保有する賃貸不動産に1兆円を超える巨額の含み益があるにもかかわらず、コロナショックを受けて不動産需給が緩む懸念から株価が低位に据え置かれています。

 同様に、倉庫業にも、株価が買収価値から割安な銘柄が多数あります。不動産賃貸収益によって、収益を支えてきたというイメージがあるからです。上場している倉庫業には、かつて海岸沿いにあった輸出入用の倉庫を賃貸ビルに変えたところが多く、その保有ビルの賃貸収益が、倉庫業が衰退する時代には、収益を支えていました。「都心から離れた競争力の高くない立地の賃貸ビルで稼いでいる」というイメージから、倉庫株は人気がなく、賃貸ビルに含み益があっても、株価は買収価値から割安に据え置かれているものが多数あります。

 ところが近年、上場倉庫株の収益構造は変化しています。内陸のハイテク倉庫を強化し、物流事業で収益を稼ぎ、最高益をあげるところも出ています。安田倉庫は、今期は減益の見込みですが、コロナショック前の前期(2020年3月期)には、経常利益・純利益で最高益を更新しています。

 Eコマースの成長によって、物流業は成長産業に変わりつつあります。内陸のハイテク倉庫では、単にモノを保管、配送するだけではなく、品質検査・商品の銘入れ・セット組み・梱包・包装・返品処理など、さまざまな流通加工作業が発生しています。それに伴い、高い付加価値を得られるようになってきたことが、投資家に理解されていないと思います。

 安田倉庫は、物流事業で収益力を高めてきたにもかかわらずPBR0.4倍と、きわめて低い評価にとどまっています。2020年3月末時点で、保有する賃貸不動産に235億円の含み益があることも考えると、買収価値から見て、きわめて割安と評価することができます。

【5】KDDI(9433)

 携帯電話事業の競争激化懸念で株価は上値が重くなっています。ただし、KDDIは、世界景気に影響されずに安定成長を続け、2021年3月期で19期連続の増配を予定しています。ケータイ事業のほか、さまざまなITサービス(ライフデザイン事業)を手がけ、これからも安定高収益を維持していくと予想しています。