米国株式市場でダウ平均が戻り高値を更新した背景

 米国市場ではS&P500指数とナスダック総合指数が4日連続で最高値を更新し強気相場を維持しています(26日)。なかでも「NYSE FANG+指数」(テック関連10銘柄で構成される)の年初来上昇率は+78.9%と株高をけん引しています。

 ジャクソンホール会合(27日)や次回FOMC(9月15~16日)を控えた金融緩和長期化期待、新型コロナ感染拡大(第2波)のピークアウト期待、住宅市場を中心とする景気の持ち直し感、大統領選挙に向けたトランプ氏当選予想の巻き返しなどが支援材料となっています。投資家の先行き不安を示す「恐怖指数」も23ポイントに低下しています(図表1)。

 図表2は「米国の新型ウイルス感染動向」を示したものです。累計感染者数は580万人超で世界最大ですが、7日前比増加数はピークアウト傾向をみせています。ワクチンの承認・量産期待と併せ、感染拡大を巡る過度な不安を後退させています。

 出遅れ気味であったダウ平均も戻り高値を更新(2万8,331ドル)。ダウ平均に大幅な銘柄入れ替え(3銘柄)が発表されたことに注目です。31日からダウ平均の新規構成銘柄となるセールスフォース・ドットコムの株価は今週31.2%上昇、アムジェンは同5.2%上昇しました(26日)。

 ただ、26日は中国が南シナ海で「演習」と称してミサイルを発射。トランプ政権は、同海域の中国拠点建設に関わった中国系企業24社に制裁を加える方針です。米中対立の激化リスクは株価波乱要因として警戒すべきと思われます。

<図表1>米国市場でダウ平均が戻り高値を更新

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019年10月初~2020年8月26日)


<図表2>米国のウイルス感染増加がピークアウト傾向

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年3月10日~8月26日)

ダウ平均構成銘柄の「大幅な銘柄入れ替え」が発表された

 注目度が高いダウ平均(ダウ工業株30種平均)で大幅な銘柄入れ替えが発表されました。

 S&Pダウ・ジョーンズは24日、エクソン・モービル(XOM)、ファイザー(PFE)、レイセオン・テクノロジーズ(RTX)をダウ平均から除外し、新たにセールスフォース・ドットコム(CRM)、アムジェン(AMGN)、ハネウェル・インターナショナル(HON)を新規に組み入れると発表。新しい30銘柄で構成されるダウ平均の計算は8月31日に開始されます。

 ダウ平均は不定期に銘柄入れ替えを実施しますが、今回のように3銘柄同時の変更はめずらしい決定です。「ダウ平均の構成銘柄は米国の産業構造変化を反映するもの」とされています。

 図表3で示すとおり、セールスフォース・ドットコムとアムジェンの年初来および過去1年リターン(総収益率)は相対的に高く、ダウ平均の今後に影響を与える可能性がありそうです。

<図表3>ダウ平均の銘柄入れ替え(新規採用銘柄)

 ティッカー 銘柄名 主な事業内容 直近株価
(ドル)
年初来
総収益率(%)
過去1年
総収益率(%)
CRM セールスフォース・ドットコム 顧客管理用ソフトウエア 272.32 67.4 75.5
AMGN アムジェン 医薬・バイオテクノロジー 250.18 5.9 25.1
HON ハネウェル・インターナショナル 産業機器および制御・計測機器 165.31 -4.9 7.8
参考 米国ダウ 工業株30種平均   28,331.92 0.9 12.0
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2020年8月26日)

 ダウ平均は日経平均と同様に修正単純平均株価指数(株式分割などの影響は除数で修正される)です。米国上場企業のなかから産業動向を反映するように銘柄が選定されていますが、構成銘柄数は30社に限られます。

 したがって、ダウ平均の動向に影響度が高い「値がさ株」(株価水準が高い銘柄)は採用されにくいとされます。

 こうしたなか、株価上昇でダウ平均におけるウエイトが約12.5%に高まっていたアップルが「株式分割」(31日に株価を4分の1にする)を決定したタイミングを選んで銘柄入れ替えを決定したとされています。

クラウドビジネスとバイオテクノロジーがダウ平均をけん引?

 一方、「地球温暖化対策」や「脱・化石燃料」が重視されている産業・市場動向を勘案すると、ダウ平均を構成する30銘柄のうち2社が石油大手のエクソン・モービルとシェブロンであることがダウ平均のパフォーマンスに影響してきた印象も否めません。

 産業構造や株式相場の変化をけん引する主力企業の顔ぶれは時代とともに変わり、近年はIT(情報技術)、消費サービス、医療(特にバイオテクノロジー)業界の注目度が高まり、エネルギーや金融業界の注目度は低下しています。

 新規採用銘柄としてクラウドを活用した顧客管理用ソフトウエア事業をコアとするセールスフォース・ドットコム(CRM)、バイオテクノロジー医薬の大手であるアムジェン(AMGN)が選定されたことは、「2020年代はデジタルとバイオの時代である」ことを象徴するような出来事と言えるでしょう。

 なお、今回の「ダウ平均構成銘柄選定」の報道を受け、セールスフォース・ドットコムやアムジェンの株価は上昇しています。

<図表4>ダウ平均の新規3銘柄:相対推移(過去1年)を検証

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019年10月初~2020年8月26日)

 図表4は、今回の新規採用銘柄(CRM、AMGN、HON)の株価とダウ平均の相対推移を検証したものです。コロナ禍のなかでCRMとAMGNのパフォーマンスがダウ平均より優勢だったことがわかります。

新規組み入れ銘柄好調なら、ダウ「3万ドル」到達も?

 中長期の視野でこれら2社の優勢が続くと仮定すれば、ダウ平均が本年2月12日に付けた最高値(終値:2万9,551ドル)を更新し、「3万ドルの大台」に到達する時期が早まることも期待できそうです。

 9月から10月にかけての米国株式は、季節性(アノマリー)、大統領選挙の不透明感、米中対立の激化不安、新型コロナの感染動向、ワクチン開発・量産を巡る報道で乱高下もしくは神経質な動きを余儀なくされる可能性があります。

 とはいえ、こうしたリスクを消化した後は、大統領選挙(11月3日)前後を起点にした年末高(株式買い戻し)を予想しています。今回の銘柄入れ替えも好材料にして、ダウ平均が強気相場を維持していく中長期トレンドを期待したいと思います。

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