今、世界中がコロナ・ショックによる戦後最悪の景気悪化に苦しんでいます。先の見えない感染拡大が続き、このまま何年も泥沼の景気後退が続くと、悲観的な見方も出ています。私は、そうは思いません。過去の経験則では、真っ暗な闇の中から、次の回復は始まります。いくつか新しい希望の灯も見えてきています。

 私は、早ければ来年、遅くとも再来年には世界景気は回復に向かうと考えています。それを踏まえて、日本株の投資戦略を考えます。

メインシナリオでは、2021年に景気・企業業績が回復

 日本株には今、大きな「チャンス」と「リスク」があると考えています。2020年後半の投資戦略として、「攻め」「守り」の両方が必要と思います。

 メインシナリオとして、私は2021年に日本および世界景気の回復を想定しています。米国・欧州・中国で進めているワクチン開発が成功し、経済活動が少しずつ元に戻っていく展開を想定しています。

 その場合、東証一部の純利益は、来期(2022年3月期)に36.3%増と急回復します。

東証一部主要841社の純利益(前期比)

出所:楽天証券経済研究所が作成

 今期(2021年3月期)は、▲4.5%の減益を想定しています。上半期に大きく落ち込むものの下半期から回復し、通期では一桁の減益となると想定しています。本格回復は、来期からとなります。

メインシナリオでは、年末の日経平均は2万4,000円

 メインシナリオでは、今期は減益、来期から本格回復を想定しています。その場合、今年の年末の日経平均はどうなるでしょう? 私は、2万4,000円まで上昇すると予想します。

 株は常に、先・先と織り込んで動くものです。今期減益でも、来期増益の芽が出れば、日経平均は上昇すると思います。米中対立激化やコロナ感染拡大など不安材料が上値を押さえますが、それでも少しずつ下値を切り上げ、年末に、年初来高値・2万4,000円まで戻ると考えます。

来年の景気回復、3つのドライバー

 今、経済再開で世界景気に回復の期待が出ていますが、経済再開による感染拡大に歯止めがかからないこと、さらに米中対立が一段と激化しつつあることから、来年の景気回復などあり得ない、と感じている方も多いかと思います。

 それでも、私は来年回復をメインシナリオとして想定しています。3つの回復ドライバーがあります。

2021年に予想される3つの世界景気回復ドライバー

【1】新型コロナ、ワクチン開発成功で徐々に収束に向かう
 メインシナリオでは、米国・欧州・中国で開発を急いでいる予防用ワクチンのいくつかが成功し、2021年には数億人レベルでワクチン供給が可能になると想定します。日本も、英国または米国で開発されたワクチンが供給されることを前提とします。

 そんな簡単にワクチンができるはずがないと考える専門家もいます。ワクチン開発に2年以上かかると、世界景気回復の時期は後ずれします。それは、リスクシナリオとして考えます。

【2】第四次産業革命、進む
 2021年にかけて、世界的にAI(人工知能)・IoT(モノのインターネット化)・ロボット・5G(第5世代移動体通信)を活用した、技術革新が進むと考えています。こうした、技術革新を、第四次産業革命と呼びます。

 2020年は、コロナ・ショックにより、戦後最悪の世界景気落ち込みに見舞われたため、第四次産業革命の進展が一時的に停止しました。ただし、コロナ・ショックがあったために、リモートワーク(在宅勤務)、リモート会議、Eコマースが普及加速しました。コロナ収束後は、第四次産業革命が一段と加速すると考えられます。

【3】資源安メリット 発現
 2020年は、原油など資源が急落したショックから世界経済が落ち込みましたが、21年はそのショックから世界経済が立ち直り、逆に、資源が下がった恩恵で消費が回復すると予想しています。

 資源価格急落直後は、資源国だけでなく、資源の輸入国(日本や中国、欧州など)でも、景気・企業業績が悪化します。日本を例にとって説明します。資源急落直後は、資源安メリットが経済に及びません。急落前に購入した高値の在庫が残っているからです。石油・化学・鉄鋼・非鉄産業で、高値在庫をかかえたまま資源価格が急落したことによる、在庫評価損が発生し、日本の企業業績を悪化させます。

 ただし、資源急落から1年くらいたち、資源がゆるやかに反発する局面では、資源安メリットが出ます。高値在庫が無くなり、原料安メリットが経済全体にいき渡るからです。

景気は循環する、景気後退期は「買い場」

 私は、景気が悪くなってくると、株に強気になります。景気が良過ぎると、逆に、弱気になります。その感覚は私の過去25年間のファンドマネージャー経験から出ています。

 1987年から2013年まで、私は投信・年金基金・海外ファンドなどの日本株運用を担当していました。日経平均株価が約2万円の時に運用を開始しました。その後、バブルの高値3万8,915円から、リーマン・ショック後の安値7,054円まで見てきました。そして、ファンドマネージャーを退任した2014年1月には、日経平均は約1万6,000円でした。

 というと、バブル崩壊後は全く稼ぐチャンスがなかったように聞こえるかもしれません。そんなことはありません。バブル崩壊で、日経平均が右肩下がりで下がっていた「失われた20年」ですら、景気が悪い時に景気敏感株を買って景気が良くなってから売れば、大きな利益をあげることができました。以下のチャートをご覧ください。

平成30年間の日経平均株価:1988年末~2020年7月22日、赤で囲んでいる部分は景気後退期

出所:景気後退期は内閣府データに基づき、楽天証券が作成

 株価は、景気循環よりも半年から1年先に動きます。景気後退期に入る前、まだ景気拡大期にあるうちに株は下げ始めます。景気後退期になってからもしばらく株は下げ続けますが、そこは買い場がどんどん近づいていく局面です。次の景気回復が視野に入るころから、株は反発に転じます。後から振り返ると、景気後退期の後半は、良い買い場だったと言えます。

 7月23日の日本経済新聞によると、「内閣府は、2012年12月に始まった景気回復局面が18年10月に終わり、景気後退に入ったと認定する方針」です。私の認識と、ほぼ一致します。すると、2018年10月が景気の「山」で、2018年11月以降、現在まで1年9カ月近く、景気後退期が続いていることになります。

 今回の景気後退は、2つの複合要因によるものです。2018年末~2019年は、米中対立激化による製造業を中心とした景気後退でした。2019年末には、米中交渉が「第一段階の合意」に達すれば、世界景気が回復に向かう期待が出ました。ところが、2020年には、戦後最悪の世界景気落ち込みが待っていました。それが、世界を苦しめている「コロナ・ショック」です。

 近年の世界景気後退は、1年ちょっとで終わることが多いが、今回は、米中対立にコロナ・ショックが追い打ちをかけた形で、長期化しています。

 それでも、私は、メインシナリオでは、2020年が循環的な世界景気回復の年になると考えています。
 過去の経験則では、みなが弱気になったところから回復が始まっています。以下は、近年の事例です。

【1】1998年の世界景気後退(新興国危機)
 中南米・アジアの通貨危機が、ロシアにも波及。景気好調が続いていた米国景気も悪化の兆し。1999年は世界恐慌になると言われました。ところが、実際には99年から世界景気は回復に向かいました。

【2】2001年の世界景気後退(ITバブル崩壊)
ITバブル崩壊で世界景気の後退が続く中、9月11日に米国で同時多発テロが起こりました。ITバブル崩壊に同時多発テロが追い打ちをかけて、2002年は世界恐慌になると言われました。ところが、実際には02年から世界景気は回復しました。

【3】2008年の世界景気後退(リーマン・ショック)
「100年に一度の不況」と言われ、不況の長期化が予想されていました。ところが、実際には09年4月から世界景気は回復しました。

世界景気回復が、2022年まで後ずれするリスクに注意

 新型コロナの克服時期がいつになるかによって、世界景気回復のタイミングも変わります。21年中にワクチンが利用可能とならなければ、21年の景気回復は困難です。ワクチン開発が遅れ、景気回復も22年まで後ずれするリスクを考えておく必要があります。

 世界的な景気後退が2021年まで続くと、航空産業や観光産業、外食産業などで破綻が増え、失業率も世界中で大きく跳ね上がるリスクがあります。そうなると、日経平均は、一時的に2万円を割れる可能性があります。つまり、今の日本株には、大きなチャンスもあるが、リスクもあると考えるべきです。

 ただ、それでも、2022年にワクチンが利用可能になり、世界景気が回復に向かうならば、2021年末には、日経平均は2万4,000円まで戻ると考えられます。
私は、日本株は割安で、長期的に買い場を迎えていると考えています。短期的に急落急騰を繰り返すリスクをうまくコントロールしながら、割安な日本株に投資していくことが、長期的な資産形成に寄与すると考えています。

2020年後半の日本株投資戦略:投資の参考銘柄

 チャンスもリスクもある日本株にどのように投資していったら良いでしょうか。日経平均に連動するインデックス・ファンドなどに、毎月一定額投資していく「積み立て投資」は、堅実な資産形成の手段だと思います。

 もう一つ、私がオススメしたい投資方法があります。株価指標で見て割安度が際立っている大型の「高配当利回り株」に投資していくことです。
 以下の5銘柄は、その一例です。

投資の参考銘柄:高配当利回り株5選

コード 銘柄名 配当
利回り
1株当たり
配当金
22日
株価
8306 三菱UFJ FG  6.0% 25 414.3
8766 東京海上HD 4.3% 200 4,684.0
8058 三菱商事 5.9% 134 2,263.0
2914 日本たばこ産業 8.1% 154 1,909.5
9432 日本電信電話 4.0% 100 2,527.5
出所:1株当たり配当金は、今期会社予想。配当利回りは、1株当たり配当金を7月22日株価で割って算出
配当金と株価の単位:円

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