経済再開への期待で、世界株高。日経平均はV字反発

 先週の日経平均株価は、1週間で986円上昇し、2万2,863円となりました。コロナ危機で暴落した後、一気に戻る「V字反発」となりました。中国、米国、欧州、日本で、経済を再開する動きが広がり、世界的に株が上昇する流れに乗っています。

日経平均推移:2017年末~2020年6月5日

 

中国・米国の景況感指数が改善

 感染抑え込みに早くから成功した中国では、経済再開の動きが続き、景況感は急速に改善しています。5月は、製造業・非製造業とも、景況感の分かれ目である50を超えました。

財新マークイットによる中国製造業・非製造業PMI(景況感指数):2019年6月~2020年5月

出所:ブルームバーグ

 米国でも、景況感の改善が見られました。

米ISM製造業・非製造業景況指数::2019年6月~2020年5月 

出所:出所:米ISM供給公社

 5月は製造業・非製造業ともに、4月より景況感が改善しました。ただし、まだ景況判断の分かれ目である50を下回っています。

5月の米雇用統計は、ポジティブ・サプライズ

 6月5日発表の、5月の米雇用統計がポジティブ・サプライズ(良くて驚き)でした。非農業部門の雇用者数が前月比で250.9万人増と、過去最大の増加となりました。米経済再開を受け、一時解雇した人員を雇い直す動きが広がっていることが分かりました。

 事前の市場予想は750万人の減少でした。新規失業保険申請件数のデータから、5月も雇用は大きく減っていると予想されていました。経済再開による雇用者増加は、6月以降になると見られていました。ところが、実際には、企業による雇用者の呼び戻しは予想以上に速く、5月から雇用者数は大幅増加となりました。

5月の米雇用統計・非農業部門雇用者増加数(前月比):2019年1月~2020年5月

出所:米労働省

 その結果、5月の完全失業率は13.3%で、戦後最悪だった4月の14.7%から改善しました。事前の市場予想は19%への悪化でしたから、改善がポジティブ・サプライズとなりました。

5月の米雇用統計・完全失業率:2014年1月~2020年5月

出所:米労働省

 市場予想と比べて、ポジティブ・サプライズだった雇用統計を受けて、ドル高・米国株高が進みました。5日のNYダウ平均株価は829ドル(3.1%)上昇しました。為替市場では、1ドル=109.59円まで、ドル高円安が進みました。

何か落とし穴はないか?残る懸念材料の検証

「世界の株式市場は、数々の悪材料を無視して上がり続けている」という人もいます。今ある悪材料を改めて、検証してみます。

【1】世界景気が戦後最悪のピッチで悪化しているのを無視している?

 確かに、2020年前半(1~6月)は、リーマン・ショックを上回る、戦後最悪の景気後退となっています。それを織り込んで、2~3月は世界の株式市場が暴落しました。ただし、2020年後半(7~12月)の世界景気は、一転して、急回復する可能性が出てきました。中国、米国、欧州、日本で、経済再開が進むにつれて、回復が見込まれます。今の世界株高は、年後半の世界景気回復を織り込む動きと考えられます。

【2】ブラジル・アフリカなどの新興国で感染爆発が起こっている問題を無視している

 経済規模の大きい先進国(米国、中国、日本、欧州)で感染鈍化・経済再開が進めば、新興国の経済活動が落ちこんでも、世界景気や世界の株式市場に与える影響は、必ずしも大きくないと言えます。

【3】経済再開する米国、中国、日本、欧州で感染が再び拡大するリスクを無視している?

 感染拡大しても、再び、世界中で都市封鎖を行うことはないと考えられます。都市封鎖のコストがあまりに大きいことが分かった今、感染の二次拡大があったとしても、ウィズ・コロナで経済を回していくしかないとの社会的コンセンサスができつつあると考えられます。半年~1年後に、予防用ワクチンが利用可能になるまで、コロナと共存の知恵が求められています。

【4】黒人暴行死事件をきっかけに全米に抗議デモが広がり一部が暴徒化、ニューヨーク市などで夜間外出禁止令が出されている問題を無視している?

 暴行死にかかわった警察官が逮捕されていることから、暴動は少しずつ収束する可能性もあります。コロナ不況で経済弱者である黒人などの解雇が増える中で起こった事件だっただけに大きな暴動に発展したが、米経済が回復に向かえば、少しずつ収束に向かう可能性もあります。

【5】米中対立が再び、激化する兆しがあることを無視している?

 米中対立で、世界経済の分断が進む可能性があり、重大な懸念材料となっています。ただし、米大統領選が終わるまでは、トランプ米大統領は、株価を暴落させないように気を使うので、当面は、決定的な対立は避けられると考えられます。

最大の悪材料は、米中対立の再燃

 コロナ後を考えると、株式市場の最大の悪材料は、米中対立の激化だと思います。現在、世界を苦しめている新型コロナは、おそらく、1年後には先進国では終息に向かっていると思います(新興国ではさらに長引くかもしれません)。

 ところが、米中対立は終息しません。20世紀後半の米ソ冷戦のように、50年は続くと考えられます。米中対立がもたらす世界経済の分断は、世界経済に長期にわたり暗い影を落とすことになるでしょう。ちょうど新型コロナの流行で、グローバル分業が高リスクだと、多くの国が思い始めているタイミングです。ここに、米中対立による分断が加われば、グローバリズム(国際的な協業・分業の推進)はかなり後退することになるでしょう。

 年後半は、新形コロナへの株式市場の注目は徐々に低下し、代わって、米中対立の行方に注目が集まると考えられます。

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