米国市場で試される株価の「復元力」とそのリード役
米国市場では、ダウ平均やS&P500指数が4月末に戻り高値を付けましたが、5月に入ると上値の重い動きとなっています。特に今週は週初から3日続落となりました。先週(5月8日付け)のレポート「セル・イン・メイに注意」で示したように、米国株式は季節的なアノマリー(市場実績にもとづくジンクス)で5月や6月に調整しやすい傾向が知られ要注意です。
目先の悪材料としては、
1:新型コロナの感染再拡大やロックダウン(移動制限)緩和の後ズレ不安
2:11月に選挙を控えたトランプ大統領による対中摩擦激化懸念
3:パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が13日に警戒を表明した米経済低迷の長期化リスク
などが挙げられます。
1と3については、NIAIDD(米国立アレルギー感染症研究所)のファウチ所長が「経済活動の時期尚早な再開は新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大を再び起こしかねない」と警告し不安視されました。
こうしたなか、本稿はナスダックの主力株(ナスダックの時価総額上位銘柄)の復元力が米国株式の反発に寄与している状況とナスダック100指数への定時定額投資の期待効果を見直したいと思います。
図表1は、2015年末を起点としたナスダック100指数、米国市場平均(S&P500指数)、日本市場平均(TOPIX)の推移を振り返ったものです。近年と同様、コロナ危機で急落したナスダック100指数の「復元力」が、米国と日本の株価反発をリードしてきた実績を示しています。
<図表1>ナスダック主力株の復元力が米国株式の反発をリード
時価総額の増勢で存在感を強めるナスダック100
米国株式市場の動向を示す代表的な株価平均指数としては、ダウ平均(ダウ工業株30種平均:株価単純平均指数)、S&P500指数(大企業500社で構成される時価総額加重平均指数)、ナスダック総合指数(2700銘柄を超える店頭株で構成される時価総額加重平均指数)があります。
ナスダック100指数は、ナスダック総合指数の構成銘柄のうち「金融業種以外のセクター」で時価総額が最も高い100銘柄で構成されている時価総額加重平均指数として注目されています。特に、デジタル革命の進展で時価総額が膨らんでいるGAFAM(FAANG)と呼ばれるIT(情報技術)分野の大手プラットフォーマーの成長期待を映し、時価総額の増勢が鮮明となっています。
図表2は、「ナスダック100指数の時価総額÷S&P500指数の時価総額」と、「TOPIXの時価総額(ドル換算)÷S&P500指数の時価総額」の推移を比較したものです。ナスダック100指数の比率はコロナ危機で一段と上昇(直近は41.8%)。一方のTOPIXはS&P500指数に対し低下傾向を辿っています(直近は20.7%)。
<図表2>時価総額の増勢で存在感を強めるナスダック100指数
マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは4月29日の決算発表時、コロナ危機によるWFH(在宅勤務)の急増で「2年分のデジタル変革が2カ月で起きた」と述べました。社会的距離戦略が普及するなか、法人顧客からのクラウド構築需要増加が加速し、チームズ(対話アプリ)など業務用ソフトの利用も増加しています。
同社では、利益率が高いSAAS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)と呼ばれるサブスクリプション(定額課金)型ビジネスの安定成長が見込まれており、株価上昇で同社の時価総額は約13.6兆ドル(約146兆円)に増加。ナスダック100指数構成銘柄で(S&P500指数構成銘柄でも)時価総額が1位となっています。
図表3では、ナスダック100指数の構成銘柄で時価総額の大きい15銘柄を一覧にしました。時価総額が増勢を辿る銘柄は「資本主義経済下の市場で投資家の評価と期待が高い企業」と言われています。
特に、GAFAMと呼ばれる上位5銘柄(MSFT+AAPL+AMZN+GOOG+FB)の時価総額合計は約5.38兆ドル(約576兆円)に達し、TOPIX(東証1部上場2,163社)の時価総額合計(約563兆円)を超える水準に増加しています。
<図表3>ナスダック100の主力構成銘柄(時価総額の降順)
ティッカー | 銘柄名 | 時価総額 :億ドル |
時価総額 :兆円 |
直近 株価 |
1年前比 騰落率 |
---|---|---|---|---|---|
MSFT | マイクロソフト | 13,631 | 145.76 | 179.75 | 44.1 |
AAPL | アップル | 13,335 | 142.59 | 307.65 | 63.1 |
AMZN | アマゾン・ドット・コム | 11,811 | 126.29 | 2,367.92 | 28.7 |
GOOG | アルファベット | 9,208 | 98.46 | 1,349.33 | 20.4 |
FB | フェイスブック | 5,844 | 62.48 | 205.10 | 13.5 |
INTC | インテル | 2,445 | 26.14 | 57.74 | 27.8 |
NVDA | エヌビディア | 1,914 | 20.47 | 311.20 | 92.1 |
NFLX | ネットフリックス | 1,928 | 20.61 | 438.27 | 26.8 |
PEP | ペプシコ | 1,845 | 19.73 | 132.96 | 4.4 |
CSCO | シスコシステムズ | 1,779 | 19.02 | 41.95 | -19.4 |
ADBE | アドビ | 1,728 | 18.47 | 358.56 | 31.9 |
PYPL | ペイパル・ホールディングス | 1,687 | 18.04 | 143.73 | 31.8 |
CMCSA | コムキャスト | 1,596 | 17.07 | 34.97 | -18.5 |
TSLA | テスラ | 1,467 | 15.69 | 790.96 | 240.5 |
AMGN | アムジェン | 1,393 | 14.90 | 236.83 | 41.1 |
【単位】時価総額 :億ドル 時価総額:兆円 直近株価:ドル 1年前比騰落率 :% 出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2020年5月13日) |
ナスダック100指数への「定時定額投資」を実践するには
「史上最強の株価指数」とも呼べそうなナスダック100指数の市場実績を検証し、リスク(リターンのぶれ)に応じたリターンの高さに注目したいと思います。
1988年末を起点にしたナスダック100指数(円換算)のパフォーマンスを振り返ると、本年3月末時点で約37.9倍(配当を除く)となってきました。同期間中の年率リターンを計算すると約16%だったことがわかります。そこで、「定時定額(積立)投資」の特徴や期待効果の面からナスダック100指数への長期投資を考えてみます。
定時定額投資は、投資期間中のボラティリティが高くても(乱高下しても)、結果的に長期リターンが高いほど「ドルコスト平均法」の効果が得られやすいとされます。
投資期間中に株価が急落すれば「安い単価(株価)で多くの口数に投資する」ことが可能となり、結果的に株価が成長期待を反映して上昇すれば、「貯めながら増やしてきた投資口数の増加」が資産形成の果実(投資口数×株価)」を増価させます。図表4で市場実績にもとづく具体例を示しました。
1988年末を起点にナスダック100指数(円換算)に「四半期末ごとに10万円ずつ投資してきた」と想定すると、累計投資元本(簿価)が1,260万円(10万円×126回)だったのに対し、時価ベースの総資産は約1億727万円に膨らんできました(2020年3月末時点)。乱高下しながらも成長期待が高かったナスダック100指数だからこそのリターンと言えるでしょう。
<図表4>ナスダック100指数(円)の定時定額投資の成果を検証してみる
ナスダック100指数を構成する銘柄とそれぞれの時価総額比率(ウエイト)は時代とともに変わってきました。同指数の構成銘柄は、ナスダックが毎年12月に必要に応じ入れ替えてきました。
したがって、同指数の構成銘柄は米国の経済や市場の成長を主導するイノベーション(技術革新)のリーダーでした。こうしたイノベーション分野では、米国企業が主導権を握るとみられ、今後はIT・ハイテク分野に加え、バイオテクノロジー分野の成長(時価総額の増加)も反映していくと考えられます。
上記した例に倣い、四半期ごとに10万円程度を(定時定額)でナスダック100指数に連動するETF(上場投信)に投資していく方法があります。東証上場ETF(円建て)では「NEXT FUNDS NASDAQ100連動型上場投信」(東証コード:1545/運用は野村アセットマネジメント)、米国上場ETF(米国籍ETF/ドル建て)では「インベスコQQQトラスト・シリーズ1」(ティッカー:QQQ/運用は米国インベスコ)があります。
また、国内の公募型投資信託としては 「 iFreeNEXT NASDAQ100インデックス 」(運用は大和アセットマネジメント)もあります。定時定額(積立)投資を長期で実践するにあたっては、グローバルな視野を重視した資産形成を意識していきたいと思います。
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