世界の金融ストレスとロックダウン不安で二番底を探る?

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で米国、欧州、日本の景気後退入りがほぼ確実視されるなか、国内では非常事態宣言や東京都のロックダウン(都市封鎖)を巡る不安で、今週の日経平均は二番底を探る動きとなっています。

 米ダウ平均は第1四半期(1-3月期)に約23%下落し、四半期としては1987年以来の大幅安となりました。トランプ大統領は31日の記者会見で「(米国は)非常に厳しい2週間に直面している」と表明。同席した専門家は「感染拡大で米国の死者数が最大20万人に達する可能性がある」と警戒しました。なお、景気後退不安が信用市場や企業の資金繰りを圧迫している状況も不安材料です。

 図表1は、日米の株価指数と「世界金融ストレス指数」の推移を示したものです。投資家のリスク回避姿勢と信用ひっ迫で金融ストレスの度合いがリーマン・ショック(2008年)以来の水準に上昇したことがわかります。ただ、金融ストレス指数は3月19日の2.46から1.75にやや低下し(3月31日)、いまだ高水準ながらピークアウトの兆しもみせています。

 各国政府と中央銀行の大規模な政策対応が信用市場を安定させ、企業、一般消費者の活動縮小を和らげることができるかが注目です。目先の日本株式は、ロックダウン不安に怯える状況ですが、4月入りした米国株式が下値を固めることができるか否かも日本株の行方に影響を与えます。

図表1:世界の「金融ストレス」は収束に向かうのか

注:世界金融ストレス指数=BofA Merrill Lynch Global Financial Stress Index
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2007/1/1~2020/3/31)

米国株式の「4月のアノマリー(季節性)」は再現するか

 米国市場では、特定の時期に一定の傾向が鮮明となった季節性(サイクル)を「アノマリー」と呼んでいます。参考情報ですが、近年注目されている「4月の米国株は堅調となりやすい」とのジンクスをご紹介します。

 図表2は、2006年から2019年までの14年間の4月だけの米ダウ平均(ダウ工業株30種株価平均)騰落率を記録したものです。リーマン・ショック(金融危機)時と前後を含めた2007年、2008年、2009年の4月もダウ平均は上昇しました(14年平均では+2.4%)。世界のトレーダー、ファンドマネジャー、AI(市場の傾向をコンピューターに記憶させて活用する投資手法)など専門家なら認識している長期市場実績と言えるでしょう。

図表2:米国市場の「4月のアノマリー(季節性)」に注目

出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2006~2019年)

「4月の米国株は堅調」とのアノマリーは、その要因が特定されているわけではありません。

 ただ、米国における「税還付の効果」が大きかったとの見方が有力です。特に昨年(2019年)はS&P500指数が暦年で約28.9%上昇した「米国株高」でしたので、税還付(払い過ぎた税金分が戻ってくる)額も大きいとみられます。

 こうした還付金の一部が、株価大幅下落を好機とみなし4月に市場に流入する可能性はあります。アノマリーは「過去の傾向」であり、将来の投資成果を保証するものではありません。

 ただ、昨年は「年末高」の季節性(アノマリー)が現実化しました。景気後退を相当織り込む値幅調整からの自律反発を含め、ダウ平均が「15年連続で4月に上昇」するなら、日本株の下支え要因になると見込めます。

米国の大型株で「配当利回り6%超の銘柄」を選別

 上述した通り、内外で足元の景況感は急速に悪化し、株式市場の上値は重い展開となっています。一方、先週(3月27日号)ご紹介した「終わりのない弱気相場はない」との格言もあります。そこで、市場が総弱気(株価が大幅に下落した局面)でこそ注目したい指標として「配当利回り」にあらためて注目したいと思います。

 本稿では、米国株式市場の時価総額上位100社で構成される「S&P100指数」(米国の主力大型株)のなかで、株価の急落で「予想配当利回り」(主に2020年12月期/市場予想平均)が著しく上昇した銘柄群をご紹介します。

 図表3に示した15銘柄は、S&P100指数を構成する「大型銘柄」のなかで、予想配当利回りが6%を上回っている銘柄を一覧にしたものです。S&P100指数を構成するこれらの銘柄は、米国市場で各業種(セクター)の主力銘柄と言えるでしょう。

 なお、経営方針として配当を払わず将来投資を先行させている銘柄、配当額が少ない(配当利回りが低い)ハイテク・IT関連株などはこうした一覧の上位に顔を出す可能性は比較的低いです。

図表3:S&P100指数銘柄の配当利回り上位銘柄

# ティッカー 銘柄名 業種名 直近株価 予想PER 予想
配当
予想
配当
利回り
1 SPG サイモン・プロパティー・グループ 金融 47.04 7.28 8.26 17.56
2 SLB シュルンベルジェ エネルギー 12.59 14.50 1.85 14.69
3 DOW ダウ・インク 原材料 27.04 10.89 2.86 10.56
4 KMI キンダー・モルガン エネルギー 12.73 13.25 1.24 9.70
5 MO ア ルトリア・グループ 生活必需品 37.61 8.57 3.42 9.09
6 XOM エクソン・モービル エネルギー 37.53 40.49 3.39 9.04
7 GM ゼネラル・モーターズ(GM) 一般消費財 19.26 5.41 1.53 7.93
8 WFC ウエルズ・ファーゴ 金融 26.57 7.64 2.08 7.82
9 T AT&T 通信 28.05 7.83 2.09 7.44
10 CVX シェブロン エネルギー 68.56 54.46 4.89 7.13
11 PM フィリップ・モリス・インターナショナル 生活必需品 71.12 13.20 4.77 6.70
12 KHC クラフト・ハインツ 生活必需品 23.68 10.53 1.57 6.65
13 MET メットライフ 金融 27.90 4.65 1.84 6.61
14 ABBV アッヴィ ヘルスケア 73.42 7.70 4.81 6.56
15 IBM IBM テクノロジー 105.14 8.10 6.73 6.40
直近株価:ドル 予想PER:倍 予想配当:ドル 予想配当利回り:%
注1:上記一覧のなかには楽天証券でお取り扱いしてない銘柄も含まれています。
注2:予想PER(株価収益率)や予想配当利回りは市場予想平均
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2020年4月1日)

 2月から3月にかけての「全面安」に巻き込まれた大型株のなかには、予想配当利回りが二桁に達した銘柄も登場しています。とはいえ、米国経済が直面している景気後退の影響で、株価が「将来の減配リスク」を織り込んできた可能性も精査する必要はあります。

 こうした銘柄群のなかでアルトリア・グループ(MO)、エクソン・モービル(XOM)、AT&T(T)、シェブロン(CVX)、フィリップ・モリス・インターナショナル(PM)、アッヴィ(ABBV)などは、25年以上にわたり「連続増配」を記録してきた(配当を毎年度増やし続けてきた)銘柄で、「配当貴族指数」(S&P500 Dividend Aristocrats Index)の構成銘柄です。

 リーマン・ショックとその後の景気後退時でもDPS(1株当り配当額)を増加させ、「株主重視の経営」を続けてきた銘柄として知られています。

 もちろん、こうした銘柄が今年も増配を続ける、あるいは配当額を維持することを保証することはできません。また各企業の経営者も今後の増配を約束しているわけではありません。ただ、「早晩収束が見込まれるウイルス騒ぎ」の向こう側を視野に入れた時間軸を前提とすれば、配当利回りが6%超に上昇した米国大型株は、債券市場金利(利回り)と比較した観点で注目に値すると考えられます。

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