個人投資家の注目度が高い2020年のプラチナ相場

出所:著者作成
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 1月11日(土)、神奈川県横浜市、みなとみらいの「パシフィコ横浜」で、楽天証券が主催する新春講演会が行われました。筆者は、このイベントにおいて、各種ブースが並ぶロビーフロアで、「2020年の金・原油相場見通し」というタイトルで、ミニセミナーを行いました。たくさんの方々に、筆者が考える2020年の金と原油相場の見通しを、聴いていただきました。当日使用した資料はこちらからご覧いただけます。

 ミニセミナー後、聴いていただいた方々より、金と原油に関する個別質問をいただきました。そしてさらに、その中の複数の方から、プラチナを買う場合の具体的な投資商品、近年のプラチナの価格変動に関する考え方などについて、質問をいただきました。

 個人投資家の皆様の、プラチナへの関心の高さを改めて実感した次第です。このため、今回のレポートでは、今後のプラチナ価格の動向について考察します。

“新しい時代のスタート”プラチナはリーマン・ショック直後の安値に最も近い貴金属

 セミナー資料の15ページ目の「プラチナ価格の2020年の想定レンジ」のグラフに注目した方と、直接話をする機会がありました。以前の筆者のレポート「2020年の金・プラチナ最高値をズバリ予測!」に掲載したものです。

 以下は、当該グラフを直近のデータに更新したグラフです。世界のプラチナ市場をけん引するドル建ての先物価格は、1月14日午前(日本時間)時点で、1トロイオンス973.50ドル近辺で推移しています(1トロイオンスはおよそ31グラム)。

図:プラチナ価格の2020年の想定レンジ 中心限月、日足、終値 

単位:ドル/トロイオンス 2010年1月から2020年1月まで
出所:CME(シカゴマーカンタイル取引所)のデータをもとに筆者作成

 セミナー内で、プラチナ以外に、金と銀、パラジウムの筆者が想定する2020年のレンジについて述べました。その際、プラチナは、4つの貴金属の中で、現在の値位置が、リーマン・ショック直後の安値水準に最も近いことを話しました。

 以前のレポート「不確実性が高まっている今、長期的視点で見守りたいコモディティ銘柄5つ」で述べた通り、リーマン・ショック直後の安値は“新たな時代のスタート地点”という意味があると筆者は考えています。

 現在、同安値付近で推移している銘柄は、今後、リーマン・ショック級の危機が起こらない限り、この値位置を大きく底割れすることないと筆者はみています。

4つの貴金属の値動きを比較!プラチナは有事でも動じず

 以下のグラフは、セミナーの内容を補足するものです。4つの貴金属の値動きについて、リーマン・ショック(2008年9月)直後の安値水準となった2008年10月を100として比較しています。

図:4つの貴金属の値動きの比較(2008年10月を100として指数化)

出所:マーケットスピードⅡおよびCME(シカゴ・カーマンタイル取引所)のデータをもとに筆者作成

 上記のグラフの直近(2020年1月14日)の値は、パラジウムが1,050、金が217、銀が183、そしてプラチナが120です。これらを言い換えれば、それぞれの2020年1月13日の価格は2008年10月に比べて、パラジウムが10.50倍、金が2.17倍、銀が1.83倍、プラチナが1.20倍になったということです。

 同期間で、パラジウムは10倍近くになり、金は2倍強、銀2倍弱に上昇した一方、プラチナの上昇は1.20倍にとどまっています。

 プラチナは、上昇率が比較的低いため、現在の値位置が“新しい時代のスタート地点”に近く、かつ、リーマン・ショック後もその値位置を大きく底割れすることなく、長期的に底堅く推移してきたわけです。

 数年や数十年かけて収益を狙う長期投資という観点で、プラチナには、金や銀、パラジウムにない魅力があると思います。個人投資家の皆様も、同様のことを感じているのだと思います

また、プラチナは以前の「プラチナ安値圏、パラジウム史上最高値。長期的に貴金属に投資するなら?」で述べたとおり、2015年10月にドイツの自動車大手フォルクスワーゲンが環境規制を違法に逃れてきた問題(以下VW問題)が発覚したことで、特にディーゼルエンジンを搭載した自動車の製造が落ち込み、それによってプラチナの消費が大きく落ち込む懸念が生じました。

 しかし、実態としては、自動車の排ガス浄化装置に用いられているプラチナの消費量が急減している事実は、今のところ確認されていません。

 上記のレポートで一部触れましたが、排ガス規制の強化によって自動車1台あたり排ガス浄化装置向け消費が増加しているとみられること、排ガス浄化装置向け部品を製造する会社において、コスト面で同装置に使用する貴金属をプラチナからパラジウムに代替する大きなメリットが期待できないとみられることが(プラチナ価格はパラジウム価格のおよそ半分であり、素材の調達の面でプラチナの方が優位)、現在でもプラチナの自動車排ガス浄化装置向け消費が急減していない理由と考えられます。

 VW問題を機に拡大したプラチナの消費減少“懸念”という上値を抑える大きな材料がある中であっても、自動車排ガス浄化装置向けの消費は実際には急減していないこと、生産者や投資家が市場を力強く支えているとみられることなどから、足もとのプラチナ価格は“新時代のスタート地点”という安値圏で、底堅く、推移しているのだと思います。

ジャンルを横断した騰落率ランキングでは、長期的には、変動幅が小さい銘柄

 以下のとおり、プラチナは、ジャンルを横断した主要銘柄の騰落率のランキングにおいて、比較的変動幅が小さい銘柄の一つです。

図:ジャンルを横断した主要銘柄の騰落率(2008年10月と2020年1月を比較)

 

出所:マーケットスピードⅡおよびCME(シカゴ・カーマンタイル取引所)などのデータをもとに筆者作成

 ジャンルを横断した騰落率のランキングでは、先述のパラジウムをはじめ、ナスダック、S&P500、NYダウ、日経225などの主要国の株価指数が軒並み上昇200%前後の上昇率となっている中、プラチナはおおむね真ん中に位置しています。

 上昇が著しい銘柄に着目するか、底堅く“新しい時代のスタート”付近におり、さほど変動率が高くない銘柄に着目するか、考え方次第ですが、長期投資という点で言えば、後者に魅力があると筆者は個人的に思います。

トランプ大統領の株高施策は功を奏すれば、さらに上値を伸ばす展開もあるか?

2020年の金・プラチナ最高値をズバリ予測!」や「株高なら上昇?トランプ砲で下落?2020年原油価格をズバリ予測!」で述べたとおり、今年は、米大統領選挙を控え、トランプ米大統領は、自分で蒔いた懸念を低下させる、FRB(米連邦準備制度理事会)に利下げ圧力をかけるなどの、数々の株高施策を打ち出すとみられます。

 トランプ大統領が自分で蒔いた懸念には、米中貿易戦争やイラン情勢の悪化などが挙げられますが、それらについて、自らが懸念を払しょくする行動、具体的には米中間の合意を重ねていくことや、イランとの戦争を回避する発言を繰り返すことなどが想定され、市場はそれらの行動を、懸念が払しょくされる行動と評価し、株高が起こる可能性があります。

 この場合、株高→景気好転期待拡大→自動車製造台数増加観測→プラチナの消費拡大、などの展開が予想されます。プラチナの長期投資は、プラチナ積立や、プラチナETF(国内株式のコード1540や1682)などが可能です。

 今後もプラチナ市場について、分析し、本レポートで筆者の考えを述べていきます。

参考:15銘柄が下落する中、金、プラチナ、上海総合指数が上昇【ジャンル横断・騰落率ランキング】