鬼のいぬ間(?)にリスクをとらないリスク

 今週の株式市場では、貿易戦争の一時休戦期待でNYダウ平均株価が2万7,000ドルを奪回し、最高値(2万7,359ドル)を視野に入れる動きとなりました。リスク回避の円買い需要が後退しドル/円は108円台後半に回復。外国人短期筋を中心とするショートカバー(先物売りの買戻し)で日経平均株価は4月25日に付けた年初来高値(終値:2万2,307円)を更新しました(16日)。

 図表1は、NYダウ平均、投資家のリスク回避度を示す「恐怖指数」、日経平均の推移を振り返ったものです。米国株が軟調となり、恐怖指数(投資家の株価変動予想)が上昇し、リスク回避姿勢が強まると為替市場では円高を誘発。こうした局面では日経平均が下落した経緯がわかります。

 逆に、先週からは米国株が反転上昇して市場心理が改善(恐怖指数は急低下)。為替市場では円高一巡感が広まり、日経平均は戻りを試す展開となりました。米中対立や先行き景況感を巡る悲観が後退したことで、物色の中心は外需株や景気敏感株となりました。

 11月の米中最終合意の行方、英国のEU(欧州連合)離脱不安、消費税増税を受けた国内景況感などは予断を許さない状況ですが、相場は「『鬼のいぬ間』にリスクをとらないリスク」に晒された格好です。株価指数が節目を抜けたことで市場心理は一段と改善。予想EPS(1株当たり利益)が変わらずとも、PER(株価収益率)の回復が株価の戻りを支えています。

図表1:投資家心理の改善を受けて日米株式は同時高

*米国の恐怖指数=CBOE SPX Volatility Index (VIX)<先行きの株価変動予想>
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2017/1/1~2019/10/16)

日米市場の年末株高(アノマリー)に現実味も

 こうした外部環境の改善を受け、市場参加者は「年末高」(年末にかけての株高傾向)を視野に入れ始めたようです。市場実績にもとづくアノマリー(季節性)は参考情報でしかありません。ただ、ファンド筋による節税対策売買の影響を主要因にして、米国株は秋から年末にかけ堅調だったことが知られています。リスク回避姿勢の後退で、為替市場でも年末に向けドル高・円安となりやすく、日本株が上昇した「季節性」が知られています。

 図表2は、過去20年にわたるNYダウ平均、ドル/円、日経平均の平均パフォーマンスを示したものです(年初=100)。年後半の日米市場は、平均的には10月に底入れし、その後は年末高に向かった「季節的な傾向」に注目したいと思います。

図表2:日米市場のアノマリーは年末株高を示唆

*上記は市場指数のパフォーマンスを過去20年にわたり平均したものです(年初を100として指数化)
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(1999/1/1~2018/12/31)

 図表2は、昨年までの「20年間の日米市場を平均化したもの」ですが、今年も似たような動きとなる見方も現実味を帯びています。図表1が示す通り、本年のNYダウ平均は4月と7月に史上最高値を更新し、8月以降の調整を経て10月は底入れ感を鮮明にしています。昨年末に109円台であったドル/円は、4月に112円台まで上昇。その後のドル安・円高を経て、現在は円高一服の動きから108円台後半で推移しています(16日)。

 特に、国内企業の決算発表が本格化する前に、ドル/円の実勢レートが日銀短観の「大企業製造業の想定為替レート(最新平均値=108.68円)」に接近したことで、一時は円高進行による業績見通し下方修正が警戒された外需株や景気敏感株に物色面で安心感が強まってきたと言えそうです。

高配当利回りで増配予想が根強い主力株に注目

 米中貿易摩擦の緩和を受けた景況感改善で株式市場が年末高を目指す動きを想定し、時価総額が比較的大きい銘柄のなかから、今期予想配当利回りが比較的高く、来期の増配期待が根強い銘柄に注目したいと思います。

 銘柄選別の母集団(ユニバース)としては、TOPIX100指数(東証1部上場で時価総額上位100社)構成銘柄を使用します。

 図表3に示した10銘柄は、

(1)TOPIX100指数を構成する100銘柄のなかから
(2)今期(主に2020年3月期)予想配当利回りが4%以上
(3)来期(主に2021年3月期)に前期比3%以上の増配が見込まれている銘柄

 について、今期予想配当利回りを降順に一覧にしたものです。配当利回りの高低だけでなく、来期の増配見通しを重視した銘柄群と言えます。

 こうした銘柄選別の過程で、日産自動車や住友商事のように「配当利回りは高いが、来期は減配予想」の銘柄は選別から外れ、来期の予想増配率が3%に満たない日本たばこ、キャノン、SUBARU、武田薬品なども外れました。

図表3:高配当利回り・増配予想銘柄(参考情報)

*上記は参考情報であり個別銘柄を推奨するものではありません。
*今期予想配当利回り=今期配当予想÷直近株価
*今期と来期の予想配当はBloomberg集計による市場予想平均
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019/10/17)

 予想配当利回りが高くても、利回り計算のベースとなっているDPS(1株当り配当)が減配となるなら、株価が劣勢を余儀なくされる可能性があります。同時に、景況感の改善を想定とする相場で、景気敏感業種が主役を担うなら、安定成長業種の劣後を警戒する必要もありそうです。

 IT(情報技術)に属する情報・通信業、卸売業(商社)、銀行、石油・石炭業などは「広義の景気敏感業種」と言えるでしょう。上記の10銘柄の平均予想配当利回りは約4.7%、約182万円程度で全銘柄に投資できます。予想配当利回りが高いだけでなく、来期の増配予想が根強い銘柄群に注目したいと思います。
(*今期と来期の配当予想はBloomberg集計による市場予想平均)

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