日米市場は「政策対応の発動」を催促しているかのよう

 株式市場は今週、米中閣僚級会議(10日)を控えた不透明感と金融政策・景気対策を巡る期待の間で揺れる神経質な展開となりました。トランプ政権は、対中投資制限や人権問題などを交渉カードとしてちらつかせています。

 中国は米国からの農産物輸入を拡大させる意向を示していますが、対中関税引上げ期限(15日)までの合意は微妙な状況です。外部環境の不安が拭えないなか、国内景況感が悪化していることに警戒を要します。国内株式は、景気動向に先行して動く特徴があるからです。景気は、人々の消費者心理、企業の先行き業況感、市場参加者の予想などで形成されます。

 下の図表1は、内閣府(経済社会総合研究所)が発表する景気動向指数の一致系列(一致指数)、先行系列(先行指数)、TOPIX(東証株価指数)の推移を示したものです。景気動向指数は複数のマクロ指標で構成されており、一致指数は景気の「悪化」をすでに確認。先行指数は2012年末以降のアベノミクス相場で最低水準を切り下げています(8月時点)。世界景気の鈍化と貿易量の縮小が鮮明となる中、今月の消費税増税を前にして景気がすでに悪化していたことを示しており、日本株の上値を抑えやすい状況となっています。換言すれば、株式市場は黒田日銀の追加金融緩和策や安倍政権の景気対策(大型補正予算)を催促しているかのようです。

図表1:国内の景気動向指数は「景気後退入り」を警告?

出所:内閣府・経済社会総合研究所、Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2013/1/1~2019/10/9)

市場平均よりも優勢なセクター(業種)を選別すると

 貿易摩擦の激化や長期化で世界経済の先行懸念が強まると日本株の上値が重くなるのは周知の動きです。これに「為替の円高」や内需低迷が加わると、「世界株式に劣後する日本株式」が繰り返される可能性が高まります。ただ、業種(セクター)別に分析すると、市場平均より優勢となっているセクターに注目することも可能です。

 下の図表2は、世界の機関投資家が運用ベーチマークに使用することが多い「MSCI株価指数」「11大業種別株価指数」をベースにし、株価指数の年初来リターン(騰落率)の降順にランキングし、予想PER(株価収益率)と業績見通し(業種別予想EPSの増減益率予想)を一覧にしたものです。

 国内株式が年初来+6.6%に留まっているのに対し、情報技術(IT)、通信サービス、不動産、ヘルスケア、資本財・サービスの5業種が優勢に推移していることが分かります。

 図表2:業種別の年初来騰落率、PER、業績予想

※予想数値はBloomberg集計による市場予想平均(MSCI指数ベース) 出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019/10/9)

 特に、情報技術(IT)業種には、半導体・半導体製造装置関連や電気機器関連が含まれており、設備投資の先送りや在庫調整を巡る不安を消化しつつ、デジタル革命をエンジンとする長期的な需要拡大を意識させる動きとなっています。

 IT業種の2021年予想EPSの対18年増減益率(予想)は+38.9%と、市場平均(15.0%)の2倍強が見込まれています。一方、通信サービスは、携帯料金の値下げ圧力に晒されやすく、2019年に続いて2020年も減益が見込まれていることに留意したいと思います。

 ヘルスケアについては、2021年予想EPSの対18年増減益率(予想)が最高の70.4%と見込まれていることが注目されます。ただ、世界景気の底入れが近いとすれば、2019年に業績が低迷した「資本財・サービス」、「消費財・サービス」、「素材」といった景気敏感業種の株価回復が期待できそうです。

 また、米経済がソフトランディング(軟着陸)し、長期金利(10年国債利回り)が反転上昇するなら、「金融」や「エネルギー」の物色が回復する可能性が高く注目したいと思います。

ノーベル化学賞受賞でリチウムイオン電池株を見直す?

 こうした中、スウェーデン王立科学アカデミーは9日、今年の「ノーベル化学賞」を日本の吉野彰氏(旭化成名誉フェロー/名城大学教授)を含む3氏に贈ると発表。

 受賞理由は、3氏が開発に取り組んだリチウムイオン電池が「私たちの生活に革命をもたらした」と評価し、「ワイヤレスで化石燃料のない社会基盤を築き、人類に最大の恩恵を与えた」と称えました。吉野氏は、1972年に旭化成に入社し、長年にわたり電池研究に従事。

 現在のリチウムイオン電池の原型となる二次電池を世界で初めて制作したことで知られ、「リチウムイオン電池の父」と言われています。旭化成はリチウムイオン電池部材のセパレーターでシェア首位となっており、10日に同社株価は約3カ月ぶり高値をつけました。図表3は、「リチウムイオン電池関連銘柄」として知られる主な銘柄を、「時価総額の降順」に示したものです。

図表3:リチウムイオン電池関連銘柄(参考情報)

# 東証 銘柄名 時価
総額
直近
株価
1カ月
前比
配当
利回り
来期
予想
1 6981 村田製作所 38,386 5,680.00 16.7 1.6 17.9
2 6971 京セラ 25,263 6,690.00 0.1 2.1 16.3
3 6752 パナソニック 21,138 861.60 -2.2 3.5 10.1
4 3407 旭化成 15,779 1,125.00 10.9 3.0 10.9
5 6762 TDK 12,804 9,880.00 6.5 1.6 12.9
6 4188 三菱ケミカルホールディングス 11,711 777.50 -3.3 5.1 7.2
7 6674 ジーエス・ユアサ・コーポレーション 1,511 1,827.00 -1.0 2.7 10.7
8 6810 マクセルホールディングス 835 1,566.00 0.6 2.3 15.9
9 4047 関東電化工業 482 838.00 12.5 1.6 8.6
10 4080 田中化学研究所 284 873.00 4.4 0.0 -
    10銘柄の算術平均= 4.5 2.4 12.3
【単位】時価総額:億円 直近株価:円 1か月前比騰落率:% 配当利回り:% 来期予想PER:倍
※上記は参考情報であり個別銘柄を推奨するものではありません。 ※配当利回りは実績(12カ月累計)ベース ※来期予想PER(株価収益率)はBloomberg集計による市場予想平均
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019/10/10)

 リチウムイオン電池は、1991年に商用化されて以来、各種電子機器の小型軽量化を実現させてきました。充放電のサイクル寿命が比較的長く、軽くてエネルギー効率が高いことが特徴となっています。同電池は、携帯電話、スマホ、デジタルカメラ、ノート型PC、電動バイクなど小型電子機器の世界的普及に貢献してきたことが知られています。

 また、その用途はEV(電気自動車)など新しい市場に広がり続けています。富士経済(市場調査会社)によると、世界のリチウムイオン電池市場は、2022年に7.4兆円と2017年に比べ2.3倍となる見込みです。今回のノーベル化学賞受賞を契機に、デバイス開発力や応用技術力のあるリチウムイオン電池関連企業が、「世界の電子インフラ」と「クリーンエネルギー」を支える存在としてあらためてクローズアップされる可能性に注目したいと思います。

 

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