四季報の活用術の最終回。今回は、銘柄選びに失敗しないために「危ない会社」の見抜き方をお伝えします。前編・中編で伝え切れなかった四季報の使い方を深堀り。上手く使って銘柄選びに役立ててください。
パッと見るだけで分かる「危ない会社」! 2つのポイントを押さえて安全な銘柄選びを
――成長企業もステキですが、「危ない会社」はすごく心配です。損するのは怖いので、チェックポイントを教えてください。
主なポイントは2つあります。
ポイント1.自己資本比率は業界平均と比べて平均~高め
ポイント2.営業キャッシュフローがちゃんとプラス
それぞれ説明していきましょう。
ポイント1:自己資本比率は業界平均と比べて平均から高めポジションか?
四季報データの「財務」に自己資本比率があります。自己資本比率とは、返済義務のない自己資本が総資本の何%あるかという数値です。自己資本は株主の拠出と、利益の内部留保で構成されるため、この比率が高いと、財務基盤が安定的だといえます。
全業種の平均は50%弱ですが、各業種で違うので、自分が注目した会社がどんな業種で、業種平均の自己資本比率に対して高いのか低いのか、判断してください。
日本電産の場合、業種は企業情報ページから「電気機器」と分かります。業種平均の自己資本比率は、42.9%なので、53.2%の日本電産は業界平均を上回っています。
ポイント2:営業キャッシュフローがプラスか?
「危ない会社」を除くために注目していただきたいのは、CF(キャッシュフロー)。ここにもポイントがあります。
まず営業キャッシュフローがプラスで、ちゃんと現金収入があることが大切です。
そして「利益の質」に注意してください。決算上の利益とキャッシュフローの差をアクルーアル(会計発生高)といいますが、継続的に純利益が営業キャッシュフローより大きい会社には気をつける必要があります。
正確に言えばアクルーアルは、“特別損益を除いた税引き後利益と、営業キャッシュフロー”を比べますが、継続的に税引き後利益の方が大きい場合は、「利益の質」を確かめなければなりません。1年くらいであれば、たまたま何かの要因で増えてしまうこともありますが、3年以上など連続していると、現金回収がうまくいっていないのでは?と疑問がわきます。
例えばRIZAPグループ(2928)の最近の会計上の利益の拡大には、のれん益が寄与していました。すると、実際は税引き後利益が大きく伸びる一方で、営業キャッシュフローでは、それほど稼げていないという状態が続いていました。
会社の倒産は、資金繰りが行き詰まる結果として起きます。ちゃんと現金収入があって運転資金に問題がないか、まず営業キャッシュフローを見て確認することは、習慣として身につけると良いと思います。
さらに、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローを比べれば、会社の成長段階が分かります。
1.例えば営業キャッシュフローが黒字で、投資キャッシュフローがマイナスの場合、設備投資などを積極的にしている可能性が考えられます。その場合、投資キャッシュフローが営業キャッシュフローの範囲内に収まっているかもポイントです。仮に超えている場合は、「過大投資ではないか?」と注意する必要があります。
2.投資キャッシュフローがプラスの場合は、「資産売却」でプラスになっているケースが多くあります。かつ、財務キャッシュフローがマイナスなら、資産をスリム化して借入金の返済を優先していることが考えられます。
3.また、投資キャッシュフローがプラスで、かつ、財務キャッシュフローもプラスで借入金を増やしているなら、将来M&Aや設備投資など、大きな資金需要が発生する可能性があると予測できます。
――キャッシュフローが大切なポイントだ、とよく分かりました。でも、初心者が見てもパッと簡単に分かるものでしょうか(涙目)。
大丈夫です! 四季報では、財務情報の「キャッシュフロー」で一覧できるので、営業・投資・財務それぞれのキャッシュフローが分かります。
単純に「営業キャッシュフローがプラスかマイナスか」。これはパッと見て分かりやすい指標だと思いますので、まず注目している会社の情報をチェックしてみてください。
ポイント3:四季報のランキング、注目は?
――四季報はデータが充実しているのでランキングも見ごたえがあります。オススメのランキングを教えてください!
夏号では、なんと言ってもTSRランキングです。巻頭では他に今期営業増益率ランキングを特集しています。巻末では会社計画比増額ランキング、営業利益率改善度ランキング、設備投資増加率ランキングを掲載しています。特に会社計画比増額ランキングは、四季報が会社業績計画より、業績予想を強気に見通している会社が分かりますので、是非チェックしてください。
また、通常より大型のワイド版には、お宝ランキングをまとめた“袋綴じ”が、毎号付いています。今号は、こっそり内容をお知らせすると、会社業績計画が過去3期間、期初から上振れて着地した会社をまとめた過去3期間上方修正率ランキング、10万円以下で買える好業績企業ランキング、外国人持ち株比率増加ランキングなどです。
ポイント4:上位3位しか見ないのはもったいない!
いろいろなランキングがありますが、みなさん上位3位くらいまでしか見ない場合が多いようです。データを作っている側からすると、とてももったいない!実は、10位、20位以下にも“これから伸びそうな”有望株がゴロゴロしていることがあります。上位銘柄は、既に株価が上昇した後の場合も多いですし、ランキングをチェックする際は、範囲を広げて、有望株を探してみてください。
~ここでしか聞けない、四季報編集長の投資アドバイス~
「投資で世界を広げよう!」
――「初めて株を買う」、そんな初心者にアドバイスをお願いします。
株式売買をされている方の話を聞くと、「株投資をするとその会社について勉強して、そこから視野が広がる」という声をよく聞きます。『四季報』を読むだけでも、「この会社、名前をよく聞くけど、こんなことやっているのか!」など、発見があるようです。会社のどこに強みがあるのか、その会社だけでなくライバル会社などにも興味を広げていくと、株投資の楽しさも増すと思います。
先ほどのTSRのところで「中小企業に注目」とお伝えしましたが、未来に大きくなるような、「成長企業として期待したい!」と思うような会社を見つけることができるかもしれない。さらに自分の注目した会社が予想通りの変化を遂げるか、『四季報』を続けて読んで頂くと、会社が成長、衰退していく変化も分かります。みなさんがそれぞれ読み方を発見して頂けると、さらに面白さは広がっていくのではないかなと思います。
編集後記:「四季報のデータはどこから来る?」
記者150名が年に4回の取材・調査を重ねて製作する『四季報』。創刊は、「2.26事件」の年、1936年。「この時代に投資をする人は少数派では?」という推測はちょっと的外れで、日本は、実は投資先進国。というのも、先物取引を発明したのは、日本人です。大阪堂島の米相場が世界初と言われています。投資に対する素地があったので、長年四季報を購入し続けるファンが広がりました。休刊は1945年の1年だけ。世界唯一と言われる四半期発行の会社データブックです。80年以上にわたって取材・調査を続け、データを蓄積しているからこそ「四季報予想」が出せる。“バイブル”と呼ばれる所以です。
「四季報データで銘柄を選ぶなら」と題して、『会社四季報』の岡本編集長にお話をうかがいました。記事の一言一言に、重みがあることを感じとった取材でした。「好きだから」「なんとなく」の銘柄選びもありですが、せっかくなら、きちんと分析をして納得して購入してみてはいかがでしょうか。
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