米国市場で利下げ観測が膨らみ日米株式は反発

 今週の米国市場では、パウエルFRB(米連邦準備理事会)議長など金融当局高官が利下げを示唆したことで、センチメント(投資家心理)が改善。ダウ平均は5月末から約724ドル反発し、リスク回避姿勢の後退と為替の安定を受け、日経平均も反発しました。

 図表1は、米国の政策金利(FF金利の誘導目標上限)、長期債金利(10年債利回り)、短期債金利(2年債利回り)、予想インフレ率(債券市場で試算されている期待インフレ率)の推移を示したものです。金融政策の先行きに敏感とされる短期債金利はすでに1.83%まで低下し、FRBが2度(0.25%×2=0.5%)にわたり利下げを実施する可能性を織り込んでいます。CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)で取引されているFF金利先物から算出される利下げ確率によると、12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)までに利下げが実施される確率は98.5%、7月のFOMCまでに利下げが実施される確率は約71.4%となっています。

 利下げ観測の膨らみを受け、米国株式が堅調となる場面では、「リスク回避の円買い」が後退する可能性があり、必ずしも米金利低下が円高を進行させるとは言い切れません。むしろ、株高が景況感の改善に繋がり、長期債金利が上昇する可能性があります。目先は6月7日に発表される米雇用統計(5月分)、6月28-29日に開催が予定されている大阪G20(主要国首脳会議)における米中首脳会議の有無と米中トップ外交の行方が注目されます。

図表1:米国債券市場は政策金利の利下げを織り込む動き

出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2019年6月5日)

低金利環境で見直される配当貴族銘柄の長期総収益

 米国での利下げ期待や債券金利の低下で、実質金利(10年債利回り-予想インフレ率)は0.36%まで低下しています。こうしたなか、市場の関心は「配当を安定的に毎年(期)連続して増配している銘柄群」に向かいやすい状況と思われます。

 特に米国株式市場では、S&P500指数構成銘柄のうち「25年(期)以上連続して増配してきた銘柄群」(現在は57銘柄)で構成される「配当貴族指数(S&P500 Dividend Aristocrats Index)」の長期的優勢に注目したいと思います。

 図表2は、今世紀初め(2000年初=100)を起点にした長期トータルリターンについて、米・配当貴族指数、米国株式平均(S&P500指数)、日本株式平均(TOPIX)の推移を比較したものです。長期にわたり配当を増やし続けてきた銘柄群で構成される米・配当貴族指数のトータルリターンが、日米の株式市場平均を圧倒してきた実績がわかります。本年に入っても、米・配当貴族指数の年初来騰落率は+11.3%と堅調です(6月5日)。

 貿易戦争の激化や長期化を巡る悲観で景気鈍化懸念が再燃しているなか「株主重視の経営姿勢」が市場で評価されやすいことを示しています。

図表2>米・配当貴族指数の長期総収益は優勢に推移

出所: Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019年5月末)

 配当を切れ目なく増やし続けてきた「配当貴族」に該当する企業にとっては、1年(期)でも増配できないと「配当貴族指数」から除外される怖れがあります。換言すれば、配当貴族銘柄は、景気停滞期に収益が悪化しても、構造改革や資産切り売りなどを介して連続増配を維持してきた実績があり、その信頼感が株価を支えていくものと思われます。

利回り4%以上の配当貴族パッケージは5万円未満で買える

 本稿では、25年以上連続で増配してきた米国の「配当貴族銘柄」(57銘柄)のなかで、配当利回りの降順に順位付けし、上位7銘柄(予想配当利回りが4.0%以上の銘柄群)によるポートフォリオを一覧にしました(図表3)。

 こうした7銘柄が今年も増配を続けることを確約することはできませんが、これまで築き上げた株主重視の経営実績に注目したいと思います。米国株式は1銘柄を1株単位で取引することが出来ます。従って、例えばAT&T(T)の株価は31.48ドルですので、円換算では3500円程度で買うことが可能です。同社の予想配当利回りは約6.5%と高く、「34年連続増配」の実績を誇ります。また、アッヴイ(ABBV)の予想配当利回りは約5.5%で、連続増配年数は46年に及びます。

 配当貴族(長期連続増配)銘柄には、よく知られた商品・サービスを提供し「安定成長業種」に属する銘柄が多いことが知られています。ちなみに、算術平均で予想利回りが約4.8%となる下記7銘柄すべてに分散(ポートフォリオ)投資すると仮定すると、約400ドル(円換算で約4万3千円)で投資が可能です(6月5日時点)。米国株式で利回り重視の分散投資を検討する際にご注目いただければと思います。

図表3:利回り4%以上の「配当貴族」銘柄に注目(参考情報)

コード 銘柄名 業種 直近
株価
予想
配当
予想配当
利回り
T AT&T 通信 31.48 2.05 6.50
ABBV アッヴイ 医薬品 76.75 4.25 5.53
XOM エクソンモービル エネルギー 73.59 3.41 4.63
CAH カーディナルヘルス ヘルスケア 43.95 1.96 4.46
PBCT ピープルズ・ユナイテッド・ファイナンシャル 金融 16.08 0.71 4.40
LEG レゲット・アンド・プラット 家具・事務機器 37.59 1.56 4.15
CVX シェブロン エネルギー 117.30 4.74 4.04
【単位】直近株価:ドル 予想配当:ドル 予想配当利回り:%
上記は参考情報であり、特定の銘柄を推奨するものではありません。
*上記はS&P500配当貴族指数を構成する57銘柄について予想配当利回りの降順に示したものです。
*上記はそれぞれの予想配当利回りが4.0%以上の銘柄です。
*予想配当利回りは、Bloombergの集計による市場予想平均です。
*米国で配当に課税される場合、二重課税を調整する目的で、自ら確定申告をしていただくことで、一定額に
 ついては外国税額控除を受けることが可能となります。
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(6月5日)

 

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