株式市場の軟調とREIT市場の堅調

 日経平均は令和がスタートして1勝7敗となりました(取引日8日のうち7日が株価下落/16日現在)となりました。「タリフマン(関税男)」を自称するトランプ大統領が再燃させた米中貿易摩擦激化で、目先は神経質な動きを余儀なくされそうです。

 米国市場の「恐怖指数(VIX)」は一時20を上回り、リスク回避の円買いも日本株の押し下げ要因となりました。米中貿易交渉に関しては、「天安門事件30周年(6月4日)まで共産党政府は政治的に妥協しにくい」との観測があり、米中合意は6月28~29日に大阪で開催されるG20(主要国首脳会議)での米中首脳会談まで持ち越される可能性があります。株式市場が揺れるなか、インカム重視型投資家に選好されやすいREIT(不動産投信)が底堅さを維持しています。

 外需を巡る不透明感が台頭した過去1年程度では、日本でも内需系で好利回り投資商品であるJ-REITが株式より優勢となっています(図表1)。REIT市場の平均分配金利回りは東証REIT指数で約3.8%、米国REITは約4.2%、豪州REITは約4.5%となっています(Bloomberg集計/15日時点)。もちろん、年初から4月までのように市場のリスク選好姿勢が回復する場面となれば、REITと株式の優劣が逆転する可能性はあります。本稿では、REITと株式のポートフォリオ効果(リスク分散効果)にあらためて注目したいと思います。

図表1:REITの株式に対する優勢が鮮明となっている

*東証REIT指数とTOPIXは配当(分配金)込み総収益指数で比較(2018年5月初=100)
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019/5/15)

REITのリスク分散効果と好利回りの背景

 リターンとリスクのバランス面で「最近、REITが株式より優勢となっている」日本市場だけではありません。図表2は、内外の資産クラス(種類)別に、過去1年のリターン(総収益率)、リスク(変動率)、リターン÷リスク(R/Rレシオ=投資効率を簡便に分析する指標)を比較した一覧です。

 1年リターンの降順では、J-REITと世界REITが+14~15%と優勢だったことがわかります。REITもリスク(価格のブレ)はありましたが、リスク単位当りリターン(R/Rレシオ)でみても、日本と世界のREITが「リスクの割にリターンが優れていた」実績がわかります。日本株式(TOPIX)のみに投資をしていたら、配当込み1年リターンは-12.9%と不調となり、「リスクが高かったのにリターンもマイナスだった」との厳しい事実が検証できます。

 日本は世界で稀にみる超低金利国で、国債市場の金利(残存年数が2年、5年、10年の国債利回り)はマイナス圏で推移しています。こうした金利環境のなか、東証REIT指数の平均分配金利回りの相対的高さは外国人投資家も注目しているようです。

 外部環境(貿易摩擦や世界の景気動向)の影響を受けやすい日本株式と異なり、東証REITの投資対象は国内の商業用不動産(オフィス、商業用施設、ホテル、物流施設など)が主で、賃貸契約も長期ベースとなっており、分配金原資となる賃料収入を中心とする利益は「法人税非課税」で株式配当と比較して好利回りの安定が見込まれています。株式投資とREIT投資を組み合わせることで、ポートフォリオ効果と好利回りの定期収入を得ることを期待できます。

資産クラス別リスク・リターン分析(1年前比リターンの降順)

*リターン=市場指数ベースの総収益率、リスク=市場指数のボラティリティ(変動率)
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019/5/15)

REIT型ETFを活用して分散投資ポートフォリオを

 日本のREITでも海外(外国)のREITでも個別銘柄への投資を検討するには、銘柄ごとの財務、損益、業種、地域(商業用不動産の立地)に関わるリスクを分析する必要があります。

 そこで本稿では、REIT市場全体への幅広い分散投資を比較的低コストで手軽にできるETF(上場投信=インデックスファンド)をご紹介したいと思います。REITは株式と異なり、値上がり益を過度に期待するべき投資商品ではないと考えています。REIT市場に連動を目指すETFと株式投資を組み合わせ、ポ-トフォリオ(金融資産)全体のリスクを抑制できる可能性が肝要です。

 楽天証券では現在、東証上場ETFのうち85銘柄に限り「売買手数料0円(無料)」のサービスを提供しており、そのうち7銘柄が日本や海外のREIT市場に連動を目指すETFとなっています。図表3は、これらETFについて運用総額が大きい順(降順)に一覧したものです。

 J-REIT(日本の各種REIT指数)に連動を目指すETFは5銘柄、米国REITと海外REIT(日本を除く先進国REIT)に連動を目指すETFは2銘柄あります。それぞれの一口当り取引価格の1年リターン(分配金を除く)が、TOPIX(日本株式)を大きく上回ってきた実績がわかります。

 今年に入り、米国のFRB(米連邦準備制度理事会)や欧州のECB(欧州中央銀行)はハト派(金融政策正常化の停止)に転じ、内外の債券金利は低位で安定しています。日本では景気が鈍化傾向である一方、消費税率引き上げ(10月)を控え、日本銀行も当面は緩和的な金融政策を維持するものとみられます。利回り面で相対的に魅力があるREIT市場は、当面も底堅い動きを続けると考えています。

REITに分散投資できる東証上場ETF(一覧)

コード ETFの名称 分散投資
対象
運用
総額
取引
価格
取引
単位
1年前比 運用
経費率
1343 NEXT FUNDS 東証REIT指数連動 東証REIT 3,223 2,034 10 11.1 0.32
1476 iシェアーズ・コアJリート 東証REIT 1,898 1,957 1 11.6 0.16
1597 MAXIS Jリート上場投信 東証REIT 1,333 1,953 10 11.4 0.25
2517 MAXIS Jリート・コア上場投信 東証REITコア 342 1,123 10 10.6 0.25
1660 MAXIS高利回りJリート上場投信 高利回りJREIT 103 10,210 1 11.0 0.25
1659 iシェアーズ 米国リート ETF 米国REIT 22 2,117 1 13.3 0.20
2515 NEXT FUNDS外国REIT・S&P先進国 日本除く先進国REIT 14 1,033 10 10.0 0.17
参考
情報
東証REIT指数(国内REIT平均) 1,915 - 11.3 -
TOPIX (国内株式市場平均) 1,538 - -14.6 -
※ETFの名称一部は略称
※各項目の単位= 運用総額:億円 取引価格:円 取引単位:口数 1年前比:% 運用経費率:%
注1:楽天証券では上記ETFの売買手数料は0円(無料)です(5月17日現在)。
注2:上記ETFは運用総額の降順に並べた一覧です。
注3:年初来騰落率は「取引価格」の騰落率であり、「NAV(基準価額)」の騰落率と一致しないことがあります。
注4:上記は参考情報であり、特定のETFを推奨するものではありません。
出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2019/5/16) 
 

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