GW明けは、米中貿易戦争が激化する不安で、世界的な株安に

 先週の日経平均株価は、1週間で914円(4.1%)下落し、2万1,344円となりました。合意が近いと見られていた「米中通商協議」で合意できず、10日0時1分(日本時間では9日13時1分)に、米国が中国からの輸入品2,000億ドル(約22兆円)にかけている制裁関税10%を25%へ引き上げたため、世界的に株安が進んだ週となりました。
ここで、2018年1月以降の、日経平均を動かしてきた要因を簡単に振り返ります。

日経平均週足:2018年1月4日~2019年5月10日

出所:楽天経済研究所作成

 2018年は、「世界まるごと好景気」の状態から始まりました。景気・企業業績が好調であることが、日経平均および世界の株価にとって強材料となっていました。一方、米金利上昇と、貿易戦争が激化する不安が、世界的に株の上値を抑えていました。2018年1~3月は、米長期金利が3%に近づいたことを嫌気して、NYダウが急落。それにつれて世界的に株が下がりました。貿易戦争激化の不安がそれに追い打ちをかけました。

 2018年4~9月は、2つの不安が緩和する中で、世界的に株が上昇しました。ところが、10月から、米長期金利が3.3%を超えてきたことを嫌気して、再び世界的に株が下がり、日経平均も急落しました。

 さらに12月に、日経平均は一段安となりましたが、この時は下落の理由が異なります。米長期金利は低下しましたが、代わって、世界景気の悪化が不安材料としてクローズアップされました。貿易戦争はエスカレートし、米中のハイテク覇権争いに発展していました。

 2019年に入ってからは、米国はじめ世界の中央銀行がハト派に転じた効果で、世界的に株が反発しました。米中通商協議が何らかの「落としどころ」に向かう期待も、株高を支えていました。

 ところが、5月に入り、米中貿易戦争が激化する不安が高まりました。貿易戦争によって世界景気の回復が遅れる不安も出ています。それが、先週の世界株安の要因です。

今週も、日経平均は上値の重い展開か

 先週の世界株式は、トランプ米大統領がツイッターで発信するメッセージに右往左往する展開でした。

 最初5月5日に、トランプ大統領がツイッターで「中国との通商合意が難しく、10日に中国からの輸入2,000億ドルの関税を25%に引き上げる」と警告すると、6日に上海総合株価指数が急落しました。

 ところが、その後、トランプ大統領が「習近平中国国家主席からすばらしい書簡をもらった」と発信すると、追加関税はぎりぎりの交渉で回避されるとの期待が高まり、NYダウ・中国株とも下げ渋りました。しかし、結局、10日0時1陣(日本時間では9日の13時1分)に追加関税は発動されました。

 追加関税発動が発表された後、上海総合株価指数は反発しました。協議決裂ではなく、引き続き、ワシントンで協議が続けられていたため、「追加関税はいったん発動されたが、近く何らかの合意が得られる」との期待が広がり、株の買い戻しが進みました。そのムードを反映して、先週末(5月10日)のCME(シカゴ・カーマンタイル取引所)日経平均先物(6月限)は、2万1,490円(先週末の日経平均終値対比+146円)まで反発しました。

 ただし、週末に市場の淡い期待は、破られました。ワシントンで続けられていた米中の閣僚級の通商交渉は、結局、合意を得ることができないまま、終了しました。これを受けて、米政府は、現在関税を掛けていない中国からの輸入約3,000億ドル(約33兆円)にも、25%の制裁関税を課す方針を発表しました。5月13日にも、関税をかける品目のリストを公表する予定としています。

 米中協議は、決裂とはならず続けられますが、短期的な合意は難しい状況となりました。合意が得られない間、米中間でさらなる関税引き上げの応酬が続くと、世界経済全体に悪影響が及ぶ可能性が高まります。

 今週の日経平均は、貿易戦争が激化する不安から、上値の重い展開が続きそうです。ただし、私は、2020年に世界景気は回復に向かうと予想していますので、下がったところは、長期投資で良い買い場になると判断しています。

中国の国家資本主義が、批判の的に

 米政府の発表によると、米中で、貿易についての合意はほぼできていたようです。ただし、巨額の補助金を投入して、ハイテク産業で一気に世界シェアをとっていく中国の「国家資本主義」のやり方を禁止する件で、議論が平行線となっています。

 中国は、このやり方で、粗鋼生産、太陽電池、スマートフォンなどで、次々と世界シェアトップを奪ってきました。今後もこのやり方で、液晶パネル、半導体などで、世界トップを取っていくことを国家戦略としています。

 米政府の発表によると、中国政府は、当初、補助金を禁止することで合意していましたが、最終段階でそれを反古にしてきたようです。中国の成長戦略の根幹なので、ここはどうしても譲歩できないという考えです。一方、米政府は、補助金を使った不公正競争を止めることについて、妥協はできないとの立場です。

 中国は、20世紀後半、社会主義の体制を維持したまま「資本主義革命」を行い、経済の資本主義化を進めました。その成果で、21世紀に入り、高成長を実現してきました。その結果、世界第2位の経済規模となってもなお、自由主義経済と、計画経済が混合するいびつな経済体制となっています。

 米中の覇権争いの根幹にかかわる問題だけに、両国で合意を得るのは難しいと考えられます。

 

▼もっと読む!著者おすすめのバックナンバー

5月9日:3月決算途中経過:トヨタ・ホンダ・日立など増益予想!日本株の下値は限られる?
5月8日:消費税を上げても2020年に日本の景気が回復すると予想する3つの理由
4月11日:半導体関連株は引き続き「買い」と判断:2020年に半導体ブーム復活へ