<アスリートとしての顔>イニエスタ、日本2年目の挑戦。ピッチ外に見据えるゴールとは?

2019年2月10日 沖縄キャンプ地にて取材

 2018年5月。ヴィッセル神戸から発表されたアンドレス・イニエスタ加入の知らせは、サッカー界のみならず、日本全体に大きな衝撃を与えた。それは、彼がJリーグデビューを飾った7月22日の湘南ベルマーレ戦以降の戦いを見れば一目瞭然だ。ホーム、アウェイ戦に関わらず、彼の行く先々でチケットは完売し、その一挙手一投足には常に多くの注目が集まった。

 あれから約半年。年が明け、イニエスタは日本での2シーズン目をスタートさせた。昨年との大きな違いを挙げるとするならば、同じチームにFCバルセロナ時代のチームメイトであり、スペイン代表時代には共にW杯優勝を経験したFWダビド・ビジャが在籍していることだろう。

 公私において親交の深いビジャについて、イニエスタは「毎シーズンのようにゴールを重ねている、心強いゴールゲッター」と信頼を寄せ、その加入を喜んでいる。
 

心強いゴールゲッター。ダビド・ビジャに対する想い

「彼はクラブチームでも、スペイン代表でも長年にわたって関わってきた、気心の知れた仲間の一人です。その彼が側にいてくれるのはとても喜ばしいことですが、ピッチではそれ以上に心強さを感じています。なぜなら彼は長いキャリアの間、ずっとゴールを決めてきた偉大な選手だからです。

 しかも久しぶりに彼のプレーを間近で見ましたが、そのクオリティは以前と何ら変わっていません。その事実はチームにとって、とても心強いことだと思います。

 また、個人的にも新たな人生の扉を開いたこの日本の地で、再び彼と同じピッチで、同じユニフォームを着て戦えることをとても嬉しく感じています。今後もこの時間が長く充実したものになることを願っています」

アジアナンバーワンについて強い使命を感じている、と語るイ二エスタ

 もちろん、旧知の仲間との再会を喜ぶだけではなく、日本でのチャレンジを『成功』へと導くためにも、クラブが掲げる『アジアナンバーワン』という目標の実現に強い使命を感じている。特に、シーズン途中の加入となった昨年とは違い、今年はプレシーズンから仲間と時間を共有し、J1リーグ開幕に向けた準備を進めてきただけになおさらだ。

「今シーズン、僕たちが目指しているのは、チャンスにつながるポゼッション率を高め、できるだけ長い時間を自分たちがコントロールしながらゲームを支配できるチームになることです。そうしたスタイルがしっかり構築できれば、リーグ戦で上位争いをすることは可能だと考えています。

 しかも僕たちには昨年、短い期間ではありましたが、ファンマ(リージョ監督)のサッカー感を共有する時間を過ごせたというアドバンテージがあります。それをベースにシーズンを戦いながら、いろんなものを積み上げ、チームとしてできるだけ波のないパフォーマンスを示していくことができれば、それは結果や順位にも直結していくのではないかと思っています。

 と同時に、そうしたチームとしての結果を求めるために、また応援してくださる皆さんがスタジアムに来て、素晴らしい時間を過ごせるように、今年は僕のベストバージョンのプレーをお見せしたいと思っています」

今年は僕のベストバージョンのプレーをお見せしたい

<ビジネスマンとしての顔>サッカーへの恩返しという思いから生まれた「イニエスタ・メソドロジー」について

 そんな風に、力強い言葉でピッチでの活躍を約束してくれたイニエスタだが、実はサッカー以外にもいろんな事業を展開しているのはご存知だろうか。

『イ二エスタ・メソドロジー』について聞いた

 彼の生まれ故郷、ラ・マンチャで経営するワイナリー、ポデガ・イニエスタでのワインの製造・販売は有名だが、最近では友人とともにシューズブランド『ミカクス(Mikakus)』を立ち上げたと聞く。また、FCバルセロナ時代もともに仕事をし、現在はヴィッセル神戸のスポーツパフォーマンスアドバイザーを務める理学療法士のリカルト・エミリ氏と二人三脚で子供向けのサッカースクール『イニエスタ・メソドロジー』を主宰。母国スペインのみならず、昨年の11月には初めて日本で開催するなど、オフザピッチでも様々な分野で、精力的な活動を続けている。
 

その全ては企業家・イニエスタの発案によるものだが、サッカーでも十分な名声を得た彼が、それ以外の世界で事業を進める狙いはどこにあるのだろうか

「言うまでもなく、サッカー選手として過ごす時間は僕にとってとても大切です。ですが、多くの人が自分の仕事を離れた時間に、自分の好きなことをして過ごすように、僕もピッチを離れた時間は、自分の思うように、いろんなチャレンジをしてみたいと思っています。僕が手がける事業も、その一部ですが、そうして時代の流れを感じながらビジネスを展開することはとても新鮮であり、多くを学べる時間にもなっています。

 例えば、ワイナリーは祖父や父がワインに関わる仕事をしていて、家族としてそれを受け継いでいるという感覚ですが、実際に始めてみると地域の方たちとの関わりも深くなったし、地場産業の少ない街で雇用を増やすことも繋がり、街全体に活気をもたらすことができました。

『イニエスタ・メソドロジー』は純粋に人生の基盤にある『サッカー』への恩返しという思いも込めて、また将来のトップアスリートを育てる一環として始めましたが、多くのサッカー少年との出会いは僕に大きな刺激を与えてくれています。

 最近になって新しく始めたプロジェクト『ミカクス』は、僕にとっては新しい分野の事業で、ワクワクするような気持ちの高ぶりを感じています。そんな風にいろんな事業から、あるいは、そこでの人との出会いから得られる『学び』は、サッカー選手としてだけではなく、一人間としての成長を促してくれる、とても大事な要素だと考えています

 そうした数々の事業は、彼の理想を十分に理解したブレーンとの信頼関係のもとで進められているが、それぞれに目を配るとなれば、かなり多忙な毎日を送っていることになる。
 

はたしてしっかりと体を休める時間は確保できているのだろうか

「もちろん、いつも難しいことばかりを考えて過ごしているわけではありません(笑)。時には、心を解放させて、家族とともにリラックスした時間も過ごしています。特に日本で生活するようになってからは時間の許す限り、家族といろんな場所に足を運んでいます。神戸市内なら賑やかな街中に買い物や食事に出ることもありますし、港の方でのんびりと過ごすこともあります。京都や奈良にも足を伸ばしました。気に入ったのは、お寺など、静寂を感じられる景観のある場所。今後は日本一の山として知られる富士山にも登ってみたいと思っています」

 家族とともに心穏やかに過ごす時間も「かけがえのない大切なもの」であると同時に、自身の見聞を広げ、多くの学びを得る時間になっていると話すイニエスタ。世界屈指のトップアスリートに上り詰めた今も変わらず、ピッチの内外において真摯に学び続ける姿勢を貫いていることも、彼が多くの人々の心を惹きつけてやまない理由かもしれない。

家族を、サッカーを、そして仲間を愛するイ二エスタ。その誠実で温かみのある人柄が、笑顔にあらわれていました

★選手プロフィール

Andrés Iniesta Luján

 

MF8:アンドレス イニエスタ

(生年月日)1984/5/11
(身長・体重)171cm・68kg
(出身地)スペイン カスティーリャ・ラ・マンチャ州
(国籍)スペイン

 

すべてが“芸術品”の司令塔
ラ・リーガ制覇9回、UEFAチャンピオンズリーグ優勝4回、そして2010年FIFAワールドカップでは自らのゴールで スペイン代表に初戴冠をもたらした。FCバルセロナのルイス・エンリケ元監督が「世界遺産」と称した司令塔の プレーは、すべてが“芸術品”だ。J1では14試合に出場し3ゴール3アシスト。ビジャ加入の今シーズンは、さらなる “アート”の山を築く

 

◆編集後記◆

 半年前より準備してきた今回の特別企画ですが、ビジネスマンの多いトウシル読者へ向けて、日本ではまだあまり知られていないイニエスタのもう一つの素顔に迫りました。サッカーへの恩返しという思いから生まれた「イニエスタ・メソドロジー」のエピソードでは、誠実さ・愛情深さ・度量のある人柄がうかがえ、世界中のサッカーファンから彼が愛される理由がわかる気がしました。日本でも「イニエスタ・メソドロジー」がスパークしますように…。今後のイ二エスタの活躍、見逃せません!!(トウシル編集キカ)



※勝負の世界に身を置く「アスリート」と「投資家」には、共通点も多々あるのでは? トウシルでは「スポーツ×経済」をテーマに、アスリートの“今”をお届けしていきたいと思います。

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