グローバルグロースの鈍化が上値の重し

 世界市場に影響度の大きい米国市場では、投資家のリスク許容度が改善。ダウ平均株価の年初来騰落率は+9.5%、S&P500指数は同+9.8%、ナスダック総合指数は同+11.8%と堅調となっています(2月13日)。

 米中貿易交渉の進展期待、政府機関の閉鎖回避期待、米国株の回復を受け「恐怖指数(S&P Volatility Index)」は昨年10月初来の水準(15ポイント台)に低下。外部環境改善と為替のドル高、円安を受け、国内でも、日経平均株価が節目と見られていた2万1,000円台に回復しました。

 とは言っても、日経平均やTOPIX(東証株価指数)の堅調は、SBG(ソフトバンクグループ)の株価が大幅高となった効果を無視できません。同社が2月6日に発表した2018年4~12月決算では、営業利益は前年同期比62%増と市場予想を大きく上回り、「株価が株式価値を反映していない」(孫正義社長)として、大規模(上限6,000億円)な自社株買いを発表したことが要因です。SBGの株価は年初来47.4%上昇し、日経平均やTOPIXの戻りに寄与しました。ただ、「グローバルグロース(世界の景気動向)に最も敏感な株式市場」と称される日本株の先行きを楽観視できません。

 図表1は、OECD(経済協力開発機構)景気先行指数と日米株式指数の推移を示したものです。世界の景況感鈍化を背景に、外需型企業の業績見通しは当初見通しより下方修正気味です。実際、日経平均の年初来騰落率は+5.6%、TOPIXは同+6.4%と世界市場で出遅れています。今後も、世界景気の行方や貿易摩擦の影響を巡る不透明感が、日本株の上値に重しとなりそうです。

図表1:世界景気先行指数と日米株式の推移

出所:OECD(経済協力開発機構)、Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成

米国株式にも分散投資していきたい理由

「日本株式だけに投資をすれば良いのか」との議論は常にあります。確かに「日本株に投資するリスク」を見直す価値はありそうです。実際、グローバルグロースが安定化し、外需が回復に向かっても、(インバウンド需要を除く)日本の内需伸び悩みに直面する現実に向き合うと、日本経済の先行きを楽観視することはできません。

 図表2は、平成元(1989)年初を起点とし、日本株(TOPIX)と米国株(S&P500指数)の長期推移を比較したものです。日本株がいまだ約36%下落している状況であるのに対し、米国株はドル建てで約9倍、円ベースで約7.6倍となってきた実績には改めて注目です。

 日本株の長期的劣勢は、不動産バブル崩壊、金融不況、円高デフレ不況の影響などが挙げられていますが、少子高齢化の進行で総人口が減少する中、「人口動態の変化」が成長期待を抑制している現実を意識する必要があります。

 図表3は、日米の「労働人口(15歳から64歳までの人口)」の推移を比較したものです。

 労働人口の減少分を、シニア世代(65歳以上)、女性、外国人労働者の就業参加やロボット(?)導入で補うことができないと、日本では持続的な成長を期待しにくい状況が続きます。

 一方、米国では労働人口が増加を続けており、イノベーション(技術革新)と投資(資本家のリスクテイクマネー)拡大が結びつくことで、生産性改善と経済成長が後押しされています。もちろん、米国でも「貧富の格差」や「政治的な分断」など諸問題はあります。それでも、在庫循環や設備投資循環を乗り越え、先進国経済の主役を担い続ける米国の「中長期の成長期待」には注目したいと思います

図表2:日米株式市場の長期推移(平成元年以降)

注:S&P500(円)=S&P500指数をドル建てと想定して円換算した指数(週次)
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2月8日)

図表3:米国と日本の労働人口の推移比較

注:労働人口=15歳から64歳までの総人口(千人)
出所:OECD(経済協力開発機構)のデータより楽天証券経済研究所作成(2018年末)

経費率の低い米国株式連動型ETFに注目

 投資初心者が米国株に投資する方法として、複数銘柄に分散投資するファンドを活用する方法があります。海外ETF(上場投資信託)とは、外国の取引所に上場しているETFのことです。

 中でも、米国株式に連動する投資成果を目指すため、S&P500指数などをベンチマークにして運用されているETFを「米国株式連動型ETF」と総称します。比較的少額の資金で、ベンチマークを構成する全銘柄に分散投資する行為とほぼ同様の投資成果を得られます。売買にあたり、比較的流動性が高いことも海外ETFの特徴で、米国市場の売買ランキングの上位に入ることもあります。一般的に、ETFは公募投信と比較して受益者(投資家)が負担する運用経費(信託報酬などのコスト)が低いことも大きな特徴です。

 図表4では、比較的低コストで売買できる米国株式連動型ETFを一覧しました。運用資産額が比較的大きいETFの中から、運用経費率が低い順(昇順)に示しました。

 年初来の騰落率(リターン)は全て10%以上となっています(2月13日)。「コスト控除後リターン」を重視する投資家には魅力のあるツールと考えられます。例えば、IVVやVOOは運用経費率が「0.04%(年率)」となっています。運用額の規模拡大に伴い、運用経費率を下げて訴求力を高めてきたファンドと言えそうです。

 米国では、ミューチュアルファンド(公募投信)と比較して、投資コストが低いETFが個人投資家や機関投資家から高い評価を得ています。同じベンチマークに連動する投資成果を目指すインデックスファンドなら、コストをセーブしながら投資できるファンドが有利であるのは当然です。米国株への投資を検討する際は、こうした米国株式連動型ETFに注目したいと思います。

図表4:米国株式連動型ETFの参考例(経費率の昇順)

注:「経費率」の昇順で一覧した。経費率=受益者が負担する運用経費率(年率)。売買単位は1投資口。年初来騰落率=経費率控除後NAV(基準価額)にほぼ連動する取引価格の年初来騰落率。上記は参考情報であり、特定のETFへの投資を推奨するものではありません。
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2019年2月13日)

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