日米株式の戻りを支える「恐怖指数」の低下

 米国株式が主導して世界株式が戻りを試す展開となっています。

 米主要株価指数ではNYダウ平均株価、S&P500指数、ナスダック総合指数が揃って年初来高値を更新。特にナスダック総合指数は節目とみられていた7,000ポイントを奪回。MSCI世界株価指数や新興国株価指数も年初来高値を更新しました(1月16日)。

 15日、メイ英政権が下院議会に提出したEU(欧州連合)離脱案が否決されましたが、結果が市場の想定内であったことで「イベント消化」や「リスクの先送り」とみなされた感があります。

 売買タイミングと相場の行き違いを表現する相場格言として「もうはまだなり、まだはもうなり」が知られています。昨年2018年末のような過度の下落相場では「もうボトム(底)」と思うときは「まだ下がる」かもしれず、「まだ下がるのでは」と思えるときに「もうボトム」だったことが多くありました。

 図表1は、米国市場で「恐怖指数」と呼ばれるVIX指数(市場が想定する相場変動率)、NYダウ平均、日経平均株価の推移を示しています。昨年末は複数の不透明感を織り込み恐怖指数は一時36.2まで上昇(12月26日)。株価の下落そのものが投資家心理のマインドを悪化させたことが分かります。

 今週はその恐怖指数が警戒水準とされる20を割り込んできました。米中貿易摩擦、米国の金融政策や景気の行方を巡る懸念はやや緩和し、過度の悲観が後退しつつあることを示しています。

図表1:米国市場の「恐怖指数」と日米株価の推移

注:「恐怖指数」=VIX(CBOE SPX Volatility Index)
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2019年1月16日)

米国の「景気後退確率」は上昇しても25%程度?

 昨年12月に米国株を急落させた悪材料の一つとして「景気後退への恐怖」が挙げられます。米債券市場で「逆イールド」(債券市場の利回り曲線上で長短金利が逆転する現象)が接近したことで、米国経済の景気後退(リセッション=実質経済成長率が2四半期連続マイナス)と株式の弱気相場入りを巡る悲観が強まりました。

 実際、多くのエコノミスト(専門家)が2019年の米成長率予想を下方修正し、2009年以来約10年続いてきた景気拡大の「息切れ」が視野に入ってきました。ただ、IT(テクノロジー)の進歩とグローバル化でインフレは低位で安定し、金利が低位水準にあることで「景気後退入り」への悲観は時期尚早と思われます。

 図表2は、エコノミストが予想する「今後1年以内に米国が景気後退に陥る確率(中央値)」の推移です。米中貿易戦争の激化、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ観測、株式市場の乱高下などで「景気後退確率」は25%まで上昇しました(11日)。換言すると、「1年以内は景気後退入りせず成長が続くとみる確率」は75%ということ。この予想が正しいなら、昨年12月の株価急落は米景気を悲観し過ぎた「売られ過ぎ」と言えそうです。

 12月の米雇用統計で確認された労働市場と年末商戦の堅調は米景気の底堅さを裏付けるものでした。もちろん、貿易摩擦激化に伴う米中貿易(輸出入)の鈍化、中国製造業の業績悪化に伴う設備投資先送りが米経済に与える影響を見極めていく必要はあります。

 一方、中国政府は米国との対立を生みだした「輸出主導」から「内需(個人消費)主導」への成長エンジンのシフトを後押しする景気対策や金融政策を打ち出しています。こうした期待を映し、中国株式が徐々に底入れ感を示している状況にも注目です。

図表2:米国の景気後退入り確率は上昇しても25%

注:米・景気後退確率=United States Recession Probability Forecast (12 months)
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年1月11日)

リターン・リバーサル戦略で銘柄を選別する

 アノマリーの一種とされる「リターン・リバーサル戦略」に注目したいと思います。

 これは「株価が相対的に下がった(上がった)銘柄は、時間が経過すると相対的に上がる(下がる)」という株価の変動現象を利用する投資手法です。株式相場はさまざまな要因で上昇したり下落したりしますが、時として妥当と思われる水準から大きくかい離することがあります。こうした相場の過剰反応で形成された個別銘柄の株価は、いずれ妥当な水準に戻る傾向があることを前提に銘柄を選別する方法です。

 一時期の下落相場で市場平均より低迷した銘柄は、その後の戻り相場で市場平均を上回りやすいという考えもあります。そうは言っても、業績が長期的な不振に陥り、株価の下落基調が鮮明となっている銘柄には警戒が必要です。

 図表3では、(1)東証1部上場の大型銘柄(TOPIX[東証株価指数]100指数を構成する時価総額上位100銘柄)をユニバース(銘柄母集団)とし、(2)2018年10月から年末までの株価下落率が大きかった順(昇順)に並べ、その上で(3)来年度予想EPS(2020年3月期を中心とした1株当たり利益)の前年比伸び率が5%以上(5%以上の予想増益率)の銘柄を10銘柄表示しました(予想値=市場予想平均)。

 参考情報として、来年度の予想PER(株価収益率)と配当利回り(年累計実績)も付記しました。昨年10月を高値とした波乱相場で下げを主導した銘柄群の中には、来年度に業績の拡大や回復が見込まれている銘柄群が含まれています。実際、図表3の上位5銘柄(1~5位)の年初来平均騰落率は+6.8%、上位10銘柄(1~10位)の同平均騰落率は+5.8%と、TOPIXの同騰落率(+2.9%)や日経平均の同騰落率(+2.1%)を上回っています(1月16日)。

 昨秋以降に個別の悪材料や業界を巡る環境悪化(米中貿易摩擦激化、設備投資需要減退、原油相場下落など)で株価が大幅下落した銘柄の中から「中期的な業績改善見通しが有力である銘柄」に注目したいと思います。

図表3:リターン・リバーサルで選別した大型銘柄

注:TOPIX100指数構成銘柄で、2018年10~12月の株価騰落率で昇順に並べ、来年度予想増益率が5%以上の10銘柄を表示。予想PERのベースとなる予想EPSは市場予想平均(Bloomberg集計平均)
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2019年1月16日)

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