ファーウェイ・ショック余波で世界株安続く

 先週の日経平均株価は、1週間で304円下がり、2万1,374円となりました。12月1日にカナダで逮捕された中国通信大手ファーウェイ創業者娘の孟晩舟・副会長が12日に保釈された報道を受け、米国・カナダと中国の対立激化が避けられると思惑が出て、日米で株が買い戻されました。

 ところが、その後、ファーウェイを巡る米中対立が世界経済に重大な影響を及ぼす懸念があることが再認識され、日米で株が売られました。日本株は、長期的には買い場に入っていると考えていますが、短期的には一段の下落を警戒した方が良い環境になっています。

日経平均週足:2018年1月4日~12月14日

 

NYダウ週足:2018年1月4日~12月14日

 

 12月は、米中貿易戦争が激化するか緩和するか、悲観と楽観がくるくる入れ替わっています。その度、株は急落・急反発を、繰り返してきました。

 12月に起こった楽観・悲観の波を簡単に振り返ります。

【1】12月1日

 米中首脳会談を開催後、米政府は「2月末まで90日間、中国と通商交渉を行い、その間追加の関税引き上げをしない」と発表。1月から、中国からの輸入品2,000億ドルへの制裁関税10%を25%に引き上げる予定だったが、それを延期。トランプ米大統領が「ディール(取引成立)が近い」とツイッターで示唆すると、「米中貿易戦争休戦」への期待が高まりました。

【2】12月5日

 中国の通信機器大手ファーウェイの孟副会長が米国の要請で、カナダで逮捕されていたことが明らかに。逮捕の容疑は、米国が経済制裁を実施しているイランへ、不正輸出を行ったこと。これで、米中対立が激化する不安が強まりました。

【3】12月10日

 カナダ人の元外交官と企業経営者の2人を10日中国で拘束されました。「中国の国家安全保障を損ねる活動」に加わっていた疑いがあるとして取り調べ中と、13日に中国外務省が発表。ファーウェイ社幹部逮捕への報復との見方が広がりました。

【4】12月12日

ファーウェイ社の孟副会長が、日本円で8.5億円の保釈金を払った上で、保釈。ただし、保釈後も厳格な監視が継続。米国は身柄引き渡しを要求。カナダが応じるか現時点で不明。

ファーウェイ社をめぐる米中対立は、世界全体を巻き込む流れに

 米中貿易戦争が、単なる通商戦争ではなく、ハイテク覇権争いに発展し泥沼化していることを受け、来年の世界景気に悪影響が及ぶ懸念が出ています。5つの重大な懸念があります。

【1】米中通商交渉が難航する懸念

 トランプ政権は、「安全保障の問題(ファーウェイ幹部の逮捕)と、通商交渉は別」と表明しているが、中国政府はそう見ていない模様。ファーウェイ問題がこじれると、通商交渉にも悪影響が及ぶと考えられます。

【2】米国企業と中国企業の交流が、あらゆる分野で停滞する懸念

 中国企業の幹部が(米政府要請で)カナダで拘束され、カナダ要人が中国で拘束された影響が、あらゆる分野に広がる懸念があります。米国企業幹部は中国に出張することを控え、中国企業幹部は米国に出張するのを控えるようになる可能性があるからです。

【3】中国で米国製品の不買運動が広がる懸念

 中国消費者の間で、米アップル社スマホの不買運動が広がり始めています。これが、あらゆる分野に広がると、中国での売上が大きい米国企業の先行きに懸念が強まります。

【4】米中対立が、2国間に留まらず世界全体に波及する懸念

 日本は12月7日、中国の通信大手ファーウェイとZTE社からの政府関係機関の調達を禁止する方針を決定しました。米国政府の意向を反映し、既にニュージーランドやオーストラリア政府も同様の方針を決定しています。これに、ドイツやフランスなども同調しつつあります。ファーウェイ製品排除に同調する国が広がるとことで、世界全体が、米国陣営と中国陣営に分かれて対極するリスクが出つつあります。

【5】日中の経済関係にも悪影響が及ぶ懸念

 日本は、米中関係悪化で、これまで漁夫の利を得ている面もありました。中国は自動車の輸入関税を25%から15%に引き下げましたが、日本はその恩恵を受けています。中国で米国製品が売れなくなっている分、日本製品がシェアを拡大している分野もあります。近年の日中関係改善は、米中対立激化で中国が日本に気遣いするようになった結果との見方もあります。

 ところが、日本がファーウェイ製品排除に動いたことに対しては、在日中国大使館から日本を非難する声明が出ています。この問題がこじれると、日中の経済関係にもネガティブな影響が及ぶ可能性もあります。

 ファーウェイ社は売上高で約10兆円規模、スマホ生産で世界第2位、携帯電話基地局で世界トップの巨大企業です。ファーウェイ向けに部品などを納入している日本企業( パナソニック京セラ村田製作所JDIなど)には、悪影響が及ぶ見込みです。

欧州リスクにも注意

 欧州各国で、反EU(欧州連合)、反移民、自国中心主義を掲げる、極左・極右政党が勢力を拡大しています。すぐに重大な問題(EU崩壊)につながるとは思えませんが、テールリスク(可能性は低いが起こると重大な損失が発生するリスク)として意識しておく必要はあります。

【1】英国・リスク

 ブレグジット(英国のEU離脱)の条件について、英国とEUの交渉が暗礁に乗り上げています。英国メイ政権とEUが決めた離脱合意案は、英国議会で与党内の反対派から承認が得られそうになく、採決が見送られました。

 交渉期限は来年の3月で、4月から、離脱の移行期間に入ります。それまでに離脱条件について、英国とEUで合意が成立しないと、ハード・ブレグジット(合意なき離脱)となります。英国とEUの間の通商・経済連携にいきなり大きな障壁ができ、英国・EUともに大きなダメージを受けます。

【2】フランス・リスク

 経済改革を進めようとしていた中道派のマクロン・フランス大統領は、支持率が危機的水準まで低下しました。フランス全土に、「黄色いベスト運動」という反マクロン・デモが広がり、一部が暴徒化しています。フランスでも、反EUをかかげる左派が勢力を拡大しつつあります。

【3】イタリア・リスク

 イタリアでは、新興勢力の「五つ星運動」が選挙で首位をとり、排外主義を唱える「同盟」と連立政権を組みました。イタリアは財政赤字がEU基準に抵触しており、このままではEUから制裁を受ける可能性があります。反緊縮・反EUを掲げていた左派「五つ星運動」コンテ首相は、EUに配慮して、赤字を削減する緊縮を実施する方針ですが、それに国民の不満が高まっています。次の選挙では、「同盟」が首位にたち、反EUをさらに鮮明にするリスクもあります。

 同様に、スペイン・ギリシアなどでも反緊縮・反移民の機運が高まり、いつ、反EUにつながるか分からない状況です。

来年10月の消費増税後に、景気対策が一斉に発動される見込み

 来年の景気について、先週出た唯一のプラス材料は、消費税増後に、政府が何でもありの景気対策を発動する見込みとなったことです。「住宅・自動車減税」「キャッシュレス決済利用時のポイント還元」「防災のための公共投資」「保育無料化」などの景気対策が一斉に発動される見込みです。

 消費増税によるマイナス効果を、短期的には上回る景気対策となる可能性もあります。

 

▼他の新着オススメ連載

今日のマーケット・キーワード:『今年の漢字』は“災”に

今日、あの日:ペルー日本大使公邸占拠事件【22年前の12月17日】

いま警戒すべき市場リスクは?
​特集世界景気減速か!株安リスクを読む