今回は「パラジウムの供給国・地域」に注目
今回は、貴金属の一つで今後の価格動向に注目が集まる「パラジウム」の供給国・地域に注目します。
パラジウム(palladium)とは、白金族元素の一つで、加工のしやすさから、電子部品の材料や、いわゆる「銀歯」など、歯科治療に使われる合金です。ジュエリー素材として、プラチナやホワイトゴールドの硬さや色調補正のために利用されています。
現在、パラジウム価格は、同じ貴金属の中でも性質が似ているプラチナの価格よりも高い状態にあります。
図:パラジウム価格とプラチナ価格の推移 単位:ドル/トロイオンス
筆者が過去に書いたレポート「器用貧乏なプラチナ。悲しき宿命と価格低迷」で触れましたが、2001年頃に一時的にパラジウム価格がプラチナ価格を上回ったことがありました。しかし、その後、2017年9月までのおよそ16年間、パラジウム価格はプラチナ価格よりも安い状態にありました。(月足終値ベース)
また、金(ゴールド)や銀を含めた四つの主要な貴金属の値動きの関係は以下のとおりです。
図:4つの主要な貴金属の価格動向の推移 (2012年9月を100として指数化)
この表で基準とした2012年9月は、金が歴史的な高値をつけたタイミングです。これ以降、金の下落とともに、プラチナと銀も下落。一方、パラジウムは2016年ごろまでは比較的小幅な横ばいで推移し、その後大きく上昇する展開になりました。
この、2016年ごろからの上昇が、先述の、パラジウム価格がプラチナ価格を上回るきっかけとなりました。このパラジウム価格の上昇、およびパラジウム価格とプラチナ価格の関係について理解を深めるに、二つの貴金属の消費や供給の内訳を確認してみましょう。
パラジウムとプラチナの消費・供給の内訳
以下の図のとおり、パラジウムもプラチナも、消費の内訳において最も比率が高いのが「自動車排ガス浄化装置向け」です。
図:パラジウムとプラチナの消費内訳(2017年 世界全体) 単位:トン
自動車のエンジン(内燃機関)とマフラーの間に装着された排ガスを浄化する装置に、パラジウムやプラチナが使われています。パラジウムやプラチナが持つ触媒作用を利用するためです
触媒とは、自らの性質を変えずに相手の性質を変えることです。排ガス浄化装置内にパラジウムやプラチナが塗布されているのですが、これらの貴金属は自身の性質を変えずに、その装置を通過する排ガスに含まれる有害物質を、無害な水などに変える働きをしています。
以下のグラフは、自動車排ガス浄化装置向けに消費されたパラジウムとプラチナの量を示したものです。
図:自動車排ガス浄化装置向けのパラジウムとプラチナの消費量(世界全体) 単位:トン
プラチナは横ばいですが、パラジウムは増加傾向にあります。この点が、金、銀、プラチナ、パラジウムの四つの貴金属の中で、パラジウムの価格が大きく上昇、一方でプラチナ価格が上昇しなかった、その結果パラジウム価格がプラチナ価格を上回った、という一連の流れの要因だと考えられます。
また、以下のグラフは、自動車をスクラップして得られたパラジウムとプラチナの量を示したものです。筆者はこれを“自動車鉱山”と呼んでいます。
図:自動車鉱山からのパラジウムとプラチナの供給量(世界全体) 単位:トン
上図のとおり、自動車鉱山からの供給量はパラジウムもプラチナも徐々に増加してきていることがわかります。
技術革新が進んでいることや環境配慮のムードが高まっていることにより、世界中で次世代自動車開発ブームが巻き起こっています。
いずれ、次世代自動車の普及が世界規模で本格化した場合、世界規模でこれまでの内燃機関で走行していた自動車を手放す動きが加速することが予想されます。
この時、これまで自動車の部品として使用されてきたパラジウムやプラチナが、スクラップされて市場に放出される動きが強まる可能性があります。
図:パラジウムの供給内訳 単位:トン
パラジウムの自動車鉱山からの供給量は、パラジウム全体の供給量のおよそ25%です(2017年)。将来的に、次世代自動車の世界規模の本格的な普及が進めば、内燃機関を動力源とする自動車からモーターを動力源とする自動車への世界的な買い換えが加速し、自動車鉱山からの供給はさらに増加すると考えられます。
そして、頭打ち感のある鉱山生産量に大きな増減がなかった場合、自動車鉱山の供給シェアは高くなり、パラジウムの供給構造が大きく変化する可能性があると筆者は考えています。
鉱山生産や自動車鉱山などからの“供給”に着目してくことは、今後のパラジウム価格の動向、パラジウム価格とプラチナ価格との関係を考える上で、非常に重要であると筆者は考えています。
それでは、以下より、パラジウムの供給について、国・地域別のランキングをクイズ形式で確認していきたいと思います。
パラジウムクイズ☆全3問
パラジウムの市場環境を知る上で、
1)鉱山生産
2)自動車鉱山
3)宝飾品からのリサイクル
といった三つの供給面の、それぞれに関連する国・地域を把握しておくことが重要です。国旗や地図上の位置、マスの大きさ(国名の文字数)をヒントに、各問の上位3カ国・地域を考えてみましょう。
問1:「鉱山生産」(2017年)上位3位は?
問2:「自動車鉱山からの供給」(2017年)上位3位は?
問3:「宝飾品からのリサイクルによる供給」(2017年)上位3位は?
パラジウムクイズ☆解答と解説
答え1:「鉱山生産」(2017年)上位3位の正解は…
[解説]
1位:ロシア(40.5%)
2位:南アフリカ共和国(37.5%)
3位:カナダ(6.9%)
でした。ロシアと南アフリカ共和国の2カ国で80%弱を占めています。
2001年ごろ、パラジウム価格が一時的に急騰したことがありました。ロシアでの供給不安がその一因と言われています。金(ゴールド)と異なり、供給国が偏っている(大規模な鉱山生産を行っている国の数が少ない)のが、パラジウムの鉱山生産の大きな特徴です。
図:「パラジウム鉱山生産量」の増減(2009年と2017年を比較) 単位:トン
国別の増減の比較(2009年と2017年の比較)から、鉱山生産5位のジンバブエ、3位のカナダの生産量の増加量が、ロシアや南アフリカを上回ったことがわかります。
この間、生産シェアはロシアが42.4%から40.5%に、南アフリカは39.3%から37.5%に低下しました。逆にジンバブエは2.8%から5.7%に、カナダは4.4%から6.9%に上昇しました。ロシアと南アフリカのシェア低下は、偏在リスク低下の一因と言えます。
答え2:「自動車鉱山からの供給」(2017年)上位3位の正解は…
[解説]
1位:北米(55.7%)
2位:欧州(22.0%)
3位:中国(7.6%)
でした。自動車の文化が浸透して比較的年月が経過している欧米の比率が高いことがわかります。
国・地域別の供給量の変化は以下のとおりです。
図:「パラジウムの自動車鉱山からの供給量」の増減(2009年と2017年を比較) 単位:トン
その他を含め、統計に記載されている国・地域すべてでプラスになりました。自動車鉱山全体としては、2017年は2009年比でおよそ2倍になっています(33.5トン→67.2トン)。
先述の「パラジウムの供給内訳」のとおり、自動車鉱山からの供給量はパラジウムの全供給量のおよそ25%です(2017年時点)。以下のグラフのように2009年は14.1%だったこの比率が徐々に高くなってきていることを考えれば、この流れが継続し、今後も上昇していく可能性があります。
加えて、世界規模で次世代自動車の普及が進めば、内燃機関の自動車を手放す動きが強まり、自動車鉱山からの供給がさらに増加する可能性があります。
図:パラジウムの全供給に占める自動車鉱山の比率
答え3:「宝飾品からのリサイクルによる供給」(2017年)上位3位の正解は…
1位:日本(53.3%)
2位:欧州(20.0%)
3位:北米(6.7%)
でした。
パラジウムが宝飾品として用いられるのは、主に、金やプラチナをベースとした宝飾品の強度を上げたり、色味にバリエーションを持たせたりするためです。
もともと中国と日本はプラチナの宝飾品リサイクル量の98%を占めています。以前のレポート「コモディティ☆クイズ【17】「プラチナの供給国・地域(地図付)」に挑戦してみよう!」で述べたとおり、北米や欧州からのプラチナの宝飾品からのリサイクルはほとんどありません。
このため、中国と日本で、プラチナが混入されたパラジウムが、宝飾品リサイクルされて出てきていると考えられます。
ただ、パラジウムにおける宝飾品からのリサイクルによる供給は、パラジウムの供給全体のおよそ0.5%であるため、現段階ではパラジウムにおける宝飾品からのリサイクルの増減が全体の供給量の増減に与える影響は軽微だと言えます。
いかがでしたでしょうか。
パラジウムの市場環境を知る上で、供給面に着目することは重要だと筆者は考えています。
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