iDeCoっていいの?何を買うべき?

■前回のあらすじ

 投資で失敗する典型的なケースは、金融機関のいいなりになったり、流行の金融商品に飛びついたり、短期間にまとまった資金で商品を買う人。そこで指標に連動するインデックス投信を少しずつ買って、持ちっぱなしというラクチン長期投資を目指そう。

前編:日本人はこうして投資で失敗する
中編:iDeCoっていいの?何を買うべき?
後編:投資に目標は本当に必要なの?

――金融機関が提供するサービスで使うべきもの、使うべきでないものはありますか。

山崎 たとえば銀行であれば、ネットバンキングは使うべき。窓口に並ぶムダな時間が節約できるし、不要な商品を勧められることがないから。

――個人型確定拠出型年金のiDeCoやNISA、つみたてNISAのような制度はどうですか。

水瀬・竹川・山崎 それは使ったほうがいい。
 

はじめるなら、iDeCoから。つみたてNISAもわかりやすい

――ハモるほど意見が一致しましたね。では、どの順番で使うといいですか。

 

水瀬 一般的な答えとしてはiDeCo、つみたてNISA、NISAの順なのでしょうが、公的年金制度の上乗せ部分として使うiDeCoは、国民年金だけしかない自営業と厚生年金にも加入している会社員では意味合いが違うでしょうし、同じ会社員でも加入している年金制度によって使えなかったり、使えても掛け金の上限などが異なります。まず制度を理解してから加入・運用を始めなければなりません。その点、簡単に始められるのはつみたてNISAでしょうね。

竹川 iDeCoとつみたてNISAはできれば両方の制度を利用してほしいです。ただ、水瀬さんがおっしゃったように、企業型DC(企業型確定拠出年金)に加入している人は規約の変更が必要なので、iDeCoには加入できない人が多い。

 企業年金連合会の調査(※)によると、企業型DCとiDeCoの同時加入を「可能」としている会社は2.6%しかなく、同時加入とする「予定」の3.1%を加えても5%台です。同時加入ができない人は企業型DCとつみたてNISAのような組み合わせになるでしょう。

――iDeCoは専業主婦も加入できるようになりました。

竹川 所得のない人は所得控除の恩恵は受けられません。会社員時代に企業型DCに加入していて移管する資産がある、将来働く予定がある、(定期預金ではなく)投資信託で老後資金を増やしていきたいという人はiDeCoを活用する。

 それ以外の方は「つみたてNISA」から検討してはどうでしょう。逆に、公的年金や勤務先の退職給付が手厚いとはいえない、自営業の人や企業年金のない会社員は、積極的にiDeCoを活用してほしいですね。

山崎 まとまったお金がある人は節税効果があるNISAを使って投資をする。投資すべき対象は個別株とかテーマ型投信ではなくて、つみたてNISAに採用されているような比較的安全な投信を使って、年間120万円の枠を先に使うという考え方は合理的です。

 年収500万円ほどの平均的な会社員の手取りは30万円ちょっと。加入している年金が厚生年金だけだとすると、将来に必要なお金をためるためには、毎月手取りの20%、6万円をためなければなりません。

 枠の上限はiDeCoが2万3000円、つみたてNISAが3万3000円くらいなので、両方で6万円近くになり、老後の備えるための金額に近づきます。

選ぶなら、低コストのインデックスファンド

――ではNISAなどの制度を使って、どんな商品を買えばいいのでしょう。

水瀬 低コストのインデックスファンドがいい。日本株、先進国の株、新興国の株の3種類に分散投資をする。その比率は投資家の考え方によるので正解はないでしょう。今は3種類が1本のインデックスファンドになった商品もありますよ。

――水瀬さんは著書の中で投資に対する考え方を述べています。

水瀬 「世界市場ポートフォリオ」と「有効フロンティア」という二つの考え方を提唱しています。「世界市場ポートフォリオ」は世界の株の時価総額と同じ割合で、日本株、先進国株、新興国株を持つという考え方で、割合は日本株:先進国株:新興国株=1:8:1くらいになります。

「有効フロンティア」は、ひと言でいえば一番少ないリスクでリターンが高いものを持つということで、その計算を自分でやることもできますが……。

――それは難しいそう。

山崎 簡単な方法としては、年金基金が保有する割合にならうことです。外国株6:日本株:4。新興国株に興味があるのなら1:1:1でもいいでしょう。肝となるのは世界の株に投資するポートフォリオを持つこと、そこには債券をまぜず、リスクの大きさは金額の大小でコントロールすることです。

――竹川さんのご意見は?

 

竹川 みなさんと同じ。よくわからなければ、1本で世界の株を持てるインデックスファンドを使えばいいと思います。つみたてNISAは指定の投信しか買えませんが、それでも同じ指数に連動する投信が10本以上あったりする。その場合は、運用管理費用(信託報酬)が低くて、運用実績があり、残高が積み上がっているものを選べばいいでしょう。

山崎 投資をしたいインデックスを決めたら、コストで選んでも大丈夫。

水瀬 コストを比較するサイトを使うと、簡単に絞り込めますよ。

――みなさんはインデックスファンド推しですが、かつて人気が高かった毎月分配はどうですか?

山崎 だめですね。よく若い人には向かない投信だと言いますが、高齢者だって資産形成をしたいと思っているのだから向きません。若い人に向かないものは高齢者にも向かないし、長期投資に向かないものは短期投資には向きません。そこはシンプルに考えてだめなものはだめです。

――では、アクティブ型の投信は?

竹川 投資哲学や銘柄選定プロセス、運用実績などをきちんと調べた上で、ご本人が共感・納得して買うのはいいと思います。

山崎 アドバイザーが、顧客にアクティブファンドを勧める行為は、適切な根拠がないのだから不誠実といえます。でも、自分でアクティブファンドが欲しいと思う分にはいい。私が馬券を買いたいと思うのと同じようなものです。

――日本株投資に限れば、アクティブ投信のほうがパフォーマンスが良いのではないですか。

 

山崎 長期で見ると必ずしもそうではありません。良いアクティブ投信を時間をかけて探し出して、高いコストを払って保有する行為は、ムダを省く精神に背きます。

 アクティブ投信を持つことが趣味の人以外は、気にしなくていい。人生にはもっと他におもしろいことがたくさんあります。
 

※企業年金連合会「2016年度決算確定拠出年金実態調査結果」

 

〔特別対談〕水瀬ケンイチ×竹川美奈子×山崎元:究極の「ラクチン投資」を探せ
前編:日本人はこうして投資で失敗する
中編:iDeCoっていいの?何を買うべき?
後編:投資に目標は本当に必要なの?

 

水瀬ケンイチ
都内IT企業勤務。ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー」を日々更新する人気のブロガーでもある。インデックス投資家として著名であり、投資法を参考にするファンも多い。書籍やマネー誌などの執筆も多い。
最新刊『お金は寝かせて増やしなさい』(フォレスト出版)

 

竹川美奈子
ファイナンシャル・ジャーナリスト。LIFE MAP,LLC代表。出版社や新聞社勤務などを経て独立。取材・執筆活動を行うほか投資信託などのセミナー講師も務める。「コツコツ投資家がコツコツ集まる夕べ(東京)」幹事。
最新刊『「つみたてNISA」「一般NISA」活用入門』(ダイヤモンド社)

 

山崎元
楽天証券経済研究所客員研究員。マイベンチマーク代表。東京大学を卒業後、三菱商事に入社。野村投信、住友生命、住友信託、メリルリンチ証券など計12回の転職を経て現職。資産運用分野のコンサルタントとして活躍。
最新刊『お金で損しないシンプルな真実』(朝日新聞出版)