今回は前回の続きとして、ロング・ショート戦略についてです。具体的な筆者のロング・ショートの手法や空売り銘柄選定法、さらにはロング・ショート以外に下落相場のリスクヘッジをする方法についてもお話しします。

(はじめに)事前回避が十分可能だった6月24日の株価急落・その理由とは?

今回はまず最初に、先週金曜日(6月24日)の株価急落について触れておきます。株価急落に備えた対処法などは、過去のコラムでも何度か触れておりますので今回は特段書く予定はありません。しかし、「公認会計士足立武志ブログ」では、日々の筆者の投資行動をタイムリーに記していますから、筆者が今回の急落をどのように乗り切ったかが分かるようになっています。

本コラムもできるだけタイムリーな情報提供を心掛けてはいますが、週1回の更新のため、どうしても多少のタイムラグはあります。実は、今回の株価急落は損失を十分に回避することができたはずであり、実際筆者も回避できています。本ブログをご覧いただければ、その理由が分かりますし、今の日本株に対して強気でよいのか守りに徹するべきか、筆者の考えを感じ取ることができるはずです。これからも難しい相場が続くと思いますので、大きな失敗を未然に防ぐため、ぜひ本ブログも参考にしていただければと思います。

今年3月頃からロング・ショート戦略を実行

日本株は2月12日に底値を付けた後、反発局面に入りました。筆者はこの反発局面であることを感じました。それは、個別銘柄によって反発の程度が全く異なっているという点です。

強い銘柄であれば、底値をつけたあとあっという間に上昇し、2015年8月の高値さえ簡単に更新していきました。逆に、弱い銘柄の場合、反発というよりは横ばいで推移するのがやっとで、中には2月12日の底値さえも早々に割り込んでしまうものさえありました。

そこで、今年3月から、日本株全般がまだ反発局面にある中、いち早く下降トレンドに転じた弱い銘柄から、少しずつ空売りを入れるようにしていきました。その一方で、上昇トレンドを維持している強い銘柄は保有を続けていきました。

つまり、それまでは「いち早く上昇トレンドに転じた銘柄から買い」のみだったものを、これに加えて「いち早く下降トレンドに転じた銘柄から売り」という行動も合わせて取るようにしたのです。

これにより、例えば4月初旬にかけての株価調整局面では、買い銘柄が次々と下降トレンド転換したために売却することにより生じる損失を、空売り銘柄の株価が値下がりすることによる利益である程度カバーすることができたのです。

今年5月~6月の筆者の投資行動を振り返る

筆者の行うロング・ショート戦略では、もし日本株が全面高の相場になり、大部分の個別銘柄が上昇トレンドにあるようなときは、買い建てのみを行うことになります。逆に、2月初旬や4月初旬、そして6月中旬のような、マーケット全般が下落基調にあり、大部分の個別銘柄が下降トレンドにあるような場合は、売り建ての方が多くなります。そして、それ以外のどっちつかずの相場では、上昇トレンド銘柄の買い建て、下降トレンド銘柄の売り建てというロング・ショートを実行することになります。強含みの相場であれば買い建ての方が大きくなりますし、弱含みの相場であれば売り建ての方が大きくなります。

例えば筆者のゴールデンウィーク後の投資行動を振り返ると、5月中はほぼ買い建てで、いち早く下降トレンドに転じていた銘柄(例えばオリエンタルランドオリエンタルランド(4661)セック(3741)など)を一部売り建てていた程度でした。しかし6月に入り、下降トレンドに転じる銘柄が増えてきたので、それらに空売りを実行し、買い建ても売り建てもかなり金額が膨らんだ状態になりました。それでも6月10日までは買い建ての方が圧倒的に大きかったですが、6月13日の週の株価急落により買い建て銘柄が続々と下降トレンド転換したため売却ないしヘッジ売りをしました。その結果、6月17日時点では買い建て銘柄はほとんどなくなり、売り建て銘柄が残っているという状況です。そして、その状況は株価が暴落した6月24日時点でも同じです。

最大のリスク「股裂き」とそれを回避するための銘柄選択のポイントは?

もちろん、この「ロング・ショート戦略」もリスクがあります。最大のリスクは俗に「股裂き」と呼ばれるもので、買い銘柄が値下がりし、同時に売り銘柄が値上がりする状態に陥ることです。こうなると、買いで損して売りでも損してと、ダブルで損失を被ることになってしまいます。

そこで筆者は、この股裂きリスクを回避するために、特に空売り(ヘッジ売りではなく純粋な空売り)を実行する際に、次のような点に注意して銘柄選択をしています。

短期・中期・長期のトレンドが全て下降トレンドになっている銘柄を選ぶ

筆者は日足チャートと25日移動平均線から、上昇トレンドか下降トレンドかを判断して売買のタイミングを計っています。しかし、実践上中期・長期のトレンドが上昇トレンドで短期だけ下降トレンドになっても、しばらくたつと再度上昇トレンドに復帰する銘柄が多いです。逆に、中期・長期のトレンドまでも下降トレンドになっている銘柄は、すでに中長期的な株価の天井をつけている可能性が高いです。そこで、株価が今後下落する可能性がより高い銘柄として、中期・長期のトレンドが下降トレンドの銘柄が短期のトレンドも下降トレンドに転じたタイミングで空売りを実行するようにしています。

売買高が少ない銘柄は避ける

いくら長期・中期・短期の全てのトレンドが下向きであっても、突如全面高の相場になったり、個別銘柄に好材料が出現して25日移動平均線を超えた場合は空売りを買い戻さなければなりません。このとき、売買高が少ない銘柄は簡単にストップ高になってしまい、買い戻すことができなくなる恐れが高いので、そもそも空売り自体を避けるようにします。

突発的な要因で株価が急上昇するリスクの高い銘柄は避ける

②とも関連しますが、例えばバイオ関連株やゲーム関連株などの銘柄は、下降トレンドが続いていても、突然の好材料発表によって何日もストップ高が連続することも珍しくありません。こうした状況でもし空売りを行っていたら、大きな損失を被ってしまいます。したがって、このような銘柄の空売りは避けるようにしています。

空売りができない・したくない個人投資家には「ベア型ETF」

ここまで申し上げてきたとおり、ロング・ショート戦略は信用売り(空売り)を行うことが必須条件となります。しかし、空売りを行うためには別途「信用取引口座」の開設が必要となります。信用取引はリスクが高いのでしたくない、という方も少なくないと思います。

個人的には、ポジションを膨らませ過ぎないこと、損切りをしっかりと実行すること、流動性が低い銘柄や突発的な上昇のリスクの高い銘柄を避けること、これらを順守していれば空売りもそれほどリスクは高くないとは思っています。それどころか、空売りを使うことができれば、上げ相場だけでなく下げ相場でも利益を得ることが可能となります。

それでもどうしても空売りをしたくないという個人投資家の味方となる銘柄があります。それが「ベア型(インバース型)ETF」を買うことです。

ベア型ETFは、例えば日経平均株価に連動するタイプなら、日経平均株価が下がるほどETFの価格が上昇します。したがって、このベア型ETFを買っておくことで下げ相場におけるヘッジの役割を果たしてくれます。

参考:「ブル・ベアETF」を上手に活用しよう!

上記コラムを執筆後、他のベア型ETFも続々上場しています。ベア型ETFの見分け方は、名称に「ベア」とか「インバース」という言葉が入っていますので、そこから見つけてください。

買い建てのポジション自体を減らすだけでも十分な対策となる

ただ、上記のベア型ETFは、日経平均株価やTOPIX、JPX日経400といった株価指数に連動するものです。個別銘柄と株価指数との動きは必ずしも一致しないということは、株式投資をある程度されている方であれば身をもって感じていることでしょう。

そのため、最悪の場合は、保有している個別銘柄が値下がりし、ヘッジのつもりで買ったベア型ETFも下がる(つまり日経平均株価などの株価指数は上がるが持ち株は下がる)という「股裂き状態」に陥るリスクはぬぐえません。

そこで、空売りもベア型ETFも使わない最もシンプルな方法として、単純に保有銘柄が下降トレンドになったら売却してしまえばよいのです。下降トレンドの間は株を保有しないようにするだけで、下げ相場での損失を極小化することができます。

なお、例えば日経平均株価が下降トレンドに突入したからと言ってすべての保有株を売却する必要はありません。現に、二極化相場では日経平均株価が下降トレンドにあるにもかかわらず、新高値を更新するような強い個別銘柄も少なくなかったからです。

あくまでも個別銘柄ベースで考え、25日移動平均線を割り込んだ保有株から順次売却していけばよいでしょう。こうすれば、25日移動平均線を割り込まない強い銘柄の利益をできるだけ伸ばすことができます。

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