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著者の香川 睦が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
インド株式に注目したい理由 高度経済成長期待と投資戦略

円建てS&P500は最高値を更新し年初来上昇率は+20%

 米国市場では株式が4月の調整を経て戻り歩調に転じました。S&P500種指数は4月の下げ幅の半分以上を取り戻し、「半値戻しは全値戻し」との格言を想起させます。

 前週のFOMC(米連邦公開市場委員会)と4月・雇用統計の結果を受けて債券市場金利が低下。イスラエルとハマスが休戦合意に向かう可能性が報道されると中東情勢を巡る過度な不安も後退し、株式の予想変動率を示す「恐怖指数」(VIX)は4月の最高水準(20超)から今週は13.0に急低下しました(8日)。

 日本居住者の米国株式投資にとり目安となる「円建てS&P500指数(為替ヘッジなし)」はドル高・円安の流れ(為替差益)が寄与して8日に最高値を更新し年初来上昇率は+20%となりました。

 米国で発表されてきた1-3月期の決算発表は、S&P500構成銘柄のうち447社が業績を明らかにした8日時点で利益は前年同期比4.3%増益、市場予想平均に対する乖離(かいり)率(ポジティブサプライズ)は+8.5%と株式相場の下支え要因となっています(Bloomberg集計)。

 特にアップルが2日に発表した決算は「減収減益」だったものの市場予想平均を上回り、1,100億ドル(約17兆円)の新規自社株買い枠設定と増配の発表が評価され、同社株価は5月に入り7.3%上昇しました。

 米国株式のプルバック(調整一巡)を主因に世界株式の下落に歯止めがかかりつつあります(図表1)。市場の関心は15日に発表される4月・米CPI(消費者物価指数)が示すインフレ基調に向かっています。なお、本稿では国際分散投資先として注目されているインド株式の投資魅力と投資戦略について解説します。

<図表1>米国株式と世界株式にプルバックの動きがみられる

(出所) Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2024年5月8日)

インドは2027年に「世界3位の経済大国」に躍り出る見込み

 図表1で示す通り、インド株式(ニフティ50指数)の5年総収益(年率)や10年総収益(年率)はS&P500、オールカントリー、日経平均株価を上回ってきました。米国を中心に世界株式が4月に調整した中、ニフティ50指数は4月10日に過去最高値を更新しました。

 インド株式が堅調である背景は、「グローバルサウスの雄」と呼ばれる同国が「高度経済成長期」入りしていることが挙げられます。総人口(14.2億人超)は2023年に中国を上回り「世界最多」となったほか、平均年齢が28歳と若く「生産年齢人口」の成長が続き、インド経済は内需中心の「人口ボーナス期」(働きざかり)に入りました。

 2014年に就任したモディ首相が推進してきた「モディノミクス」(構造改革)の効果も大きく、IMF(国際通貨基金)が3月に発表した最新の「世界経済見通し」によると、インドの実質GDP(国内総生産)成長率は2024年に+6.8%、2025年も+6.5%と中国を上回り主要国で最高です。

 また、IMFが半年ごとに改定する最新の「名目GDP長期予想(ドルベース)」では、インドの名目GDPは2025年に日本を上回り「世界4位」に浮上。2027年にドイツを抜き「世界3位」に躍進する見通しとなっています(図表2)。

<図表2:インドの名目GDPは日本とドイツを上回り「世界3位」へ>

(出所)IMF予想より楽天証券経済研究所作成

 最近の注目点として、モディ政権の存続を決める5年に一度の下院総選挙(543議席)が4月19日に始まり6月1日まで続いていることが挙げられます。「世界最大規模の民主選挙」と呼ばれ、有権者総数が約9.7億人に及ぶインドでは毎週全土で投票が実施され、6月4日に一斉開票される予定です。

 高い経済成長を追い風に、モディ首相の支持率は(就任後10年を経た現在でも)70%以上とされ、優勢が伝えられるインド人民党(BJP:ヒンズー至上主義政党)を中心とする与党連合が過半数以上を維持して総選挙で勝利すると、モディ首相の3選(任期5年)が決まり、政権安定、構造改革推進、高度経済成長が続いていくとの確信が強まると見込まれます。

コア・サテライト戦略でインド株式への分散投資に注目

 上述したように、インドは労働人口増加、平均所得(収入)増加、個人消費支出を中心とする内需拡大、インフラ整備、外資企業の進出(直接投資)増加、生産性改善という好循環で高度経済成長が期待されています。再選を目指すモディ首相は2023年8月、「25年後(英国からの独立後100年となる2047年)までに先進国入りを目指す」と表明しました。

 同首相は、「インドは世界の製造業の拠点に成長しつつある」と述べ、デジタル(IT)化や若者・女性の労働参加を促すことで、ものづくり国家を目指す「メイク・イン・インディア」と「デジタル・インディア」構想を推進しています。こうした成長期待を背景に、中長期の視点でインド株式の投資魅力は続くと考えられます。

 ただ、インド株式への投資を検討するにあたっては、個別銘柄のリスクや比較的高い取引コストの壁があります。そこで、具体的な投資ツールの参考例として、インド経済の成長期待に沿う投資成果を目指すインデックスファンド(ETF:上場投資信託)をご紹介します。

 図表3は、2021年初を起点(100)として「NEXT FUNDSインド株式指数・Nifty50連動型上場投信」(東証コード:1678)の取引価格と日経平均の推移を比較したものです。

 同ETF(運用時価総額:約617億円/管理・運用:野村アセットマネジメント)のパフォーマンスは、ニフティ50指数(インド市場の主要50銘柄で構成される)の堅調にインド通貨ルピーの対円相場堅調(為替差益)が加わり、日経平均よりも優勢であったトレンド(傾向)が分かります。

<図表3>インド株式連動型ETFの優勢が鮮明となっている

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2024年5月8日)

 現在も進行中である総選挙に向け、モディ首相は政権公約の一つとして「2036年の夏季オリンピック(五輪)開催をインドに招致したい」と表明しました。インドで五輪が開催されれば「南アジアで初」となります。

 誘致に成功すれば、新たな国家目標となりインドのインフラ(社会的基盤)整備が加速する可能性があります。1964年に「アジアで初の夏季五輪」を開催した当時の日本の経済発展を思い起こさせます。

 2026年に開通が予定されているインド初の高速鉄道(ムンバイとアーメダバード間=路線距離は東京・新大阪間よりやや短い508kmで12駅が設置される)は日本の新幹線方式(JRモデル)を導入したものです。

 モディ首相は2016年11月に来日した際、故・安倍晋三元首相と仲良さそうに新幹線(東京~新神戸)に同乗し、そのスピードや乗り心地だけでなく「奇跡の7分」と呼ばれる出発直前の迅速な車両内清掃サービスに感動したと報道されました。

 故・安倍元首相の「トップセールス」が功を奏したこともあり、インドでは日本の新幹線方式を採用した高速鉄道網が主要都市間に次々と拡張される計画で、ビジネス環境の改善と高度経済成長に寄与すると期待されています。

 近年、日本を含む世界の多国籍(グローバル)企業がインドへの直接投資(生産拠点や販売拠点)を拡大していることに加え、アジアにおける間接投資(株式投資や債券投資)を巡るアセットアロケーション(資産配分)でもインド市場の相対的な魅力が注目され海外投資家による買い越しが見込まれています。

 実はインド国内の個人投資家のマネー流入も活発です。SIP(Systematic Investment Plan)と呼ばれる少額からの株式投信を活用したインド株式への分散積立投資が広まっています。インド国民が自国の成長期待を身近に感じている事象として注目されます。

 日本居住者も長期目線に立った「コア・サテライト戦略」(国際分散投資)を構築するにあたり、サテライト部分(新興国株式への投資)にインド株式への長期分散投資を加えていくことは理にかなうと考えています。

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