企業業績の先行指標、3月日銀短観を読み解く

 4万円超えまで勢いよく上昇した日経平均株価ですが、3月22日に4万0,888円をつけてから、利益確定売りに押されて上値が重くなっています。これから本格化する1-3月決算を見極めるまで動きにくいムードが広がっています。経済環境は良好ですが、企業業績はどうか見極めるまで様子見という感じです。

 これから始まる3月決算の予想ですが、1-3月期の実績は良好と考えます。1-3月業績の先行指標として私が注目している3月日本銀行短観の大企業DIが高水準だったからです。

 大企業DIは、大企業経営陣が3月時点の景況感(現状と先行き)を回答したものを集計して作っています。1-3月の企業業績を先取りする傾向があります。自動車の景況のみ大きく低下していますが、それ以外はおおむね好調でした。

 大企業・製造業DIは+11で、前回(12月+13)より低下したものの、プラス圏です。非製造業は+34とめったに見られない高水準で、前回(12月+32)よりもさらに上昇しました。

<日銀短観、大企業製造業・非製造業DIの推移:2018年3月~2024年3月>

出所:日本銀行「短期経済観測」より楽天証券経済研究所が作成

 大企業DIを業種別に見たのが、以下です。好調・不振の業種がよく分かります。

<大企業・製造業の業種別DI>

出所:2024年3月日銀短観DIより楽天証券経済研究所が作成

 重厚長大産業(ガラス、セメント、造船重機、機械)が好調です。食料品も引き続き好調です。自動車のみ大きく低下しました(今回+13、前回12月は+28)。トヨタグループのダイハツ工業や豊田自動織機の認証試験に関する不正発覚により生産・出荷停止が起こっている影響が出ました。

 大企業・製造業全体でDIが+13から+11に低下しましたが、2024年度の設備投資計画は前年比+8.5%と、3月時点としては非常に強く、製造業全体の景況は引き続き良好と言えます。

<大企業・非製造業の業種別DI>

 インバウンド(外国人観光客)急増で宿泊・サービス業が非常に好調でした。また、DX化の進展により情報サービス業の景況も非常に好調でした。サービス産業が全般に強いほか、リオープンを受けたオフィス回帰が進み、公示地価上昇が続いていることを受け、不動産業も好調です。

新年度の業績予想は控えめか

 株式市場の注目は、1ー3月業績(実績)よりも、新年度(2025年3月期)の業績(会社予想)の方に集中しています。1-3月期の実績が好調でも、新年度の業績予想が低いと失望される可能性があります。

 例年見られることですが、日本企業は、期初に控えめ(低め)の予想を出して、後から上方修正していく傾向があります。今年も、不透明要因がたくさんあるので、期初は低めの予想が出ると思います。期初の予想が低めであることが嫌気されるリスクについては、「決算リスク」として意識しておく必要があります。

 今日は、これから本格化する3月決算について書いていますが、実はその前、4月中旬に2月期決算企業の決算発表があります。2月期決算には、リオープンで業績が改善しつつある小売業がたくさんあります。新年度(2025年2月期)の会社予想も小売業は良い数字を出すと考えられます。小売業のみ、期初から高めの予想を出す傾向があります。

米国の景況:日本より低い、製造業が持ち直す

 日本に比べると、米国の景況は低調です。それでも、3月の製造業景況が持ち直したことから、米景気がソフトランディングに向かう可能性が高まったと解釈されました。

<米ISM景況指数の推移:2018年1月~2024年3月>

出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成

 米国は2021年にコロナ禍からのリオープンによる消費爆発があり、消費が過熱して深刻なインフレが起こり、今はその反動で消費減速中です。一方、日本は、リオープンが遅れ、長らく低迷していた消費が今、やっと盛り上がりつつあるところです。リオープンのタイミングの差が、景況の差に表れています。

米国の景況が低くても日本の景況が高い理由

「米国がくしゃみをすると、日本は風邪をひく」と言われたこともあるくらい、日本の景気は米国の影響を色濃く受けてきました。今、米国の景況が低調なのに日本が好調というのは、極めて珍しいことです。日本独自の好調要因が重なっているからです。

 以下四つの要因が日本好調の背景にあります。

【1】リオープン

 日本は、欧米に遅れて今、やっとリオープンによる消費回復が起こり始めています。

【2】インフレ復活→名目GDPの伸び加速

 インフレ復活により、日本の名目GDP(国内総生産)の伸びが高くなっています。2023年は5.3%伸び、バブル期であった1991年以来の高い伸びとなりました。今年の春闘の賃上げ率は5%を超える見込みであり、このまま値上げ→賃上げの良い循環が続くかが、注目されています。

【3】資源高一服

 ウクライナ危機後に急騰した原油価格は、再び下がりました。エネルギー価格上昇によるコスト高は一服しています。

【4】円安効果で設備投資が活性化

 世界の半導体大手が一斉に日本で工場を造ることを表明しています。円安効果もあり、国内で設備投資が盛り上がってくる見込みです。

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