公示地価2.3%上昇、33年ぶりの高い伸び

 国土交通省が発表した2024年1月1日時点の公示地価(全国・全用途平均)は、前年比2.3%の上昇でした。バブル経済期の1991年(前年比+11.3%)以来、33年ぶりの高い伸びとなりました。国際比較で割安となっていた日本の株価、物価、賃金に加え、地価にも上昇の波が出始めています。

公示地価(全国・全用途平均)1月1日時点の前年比騰落率(%):1972~2024年

出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成

 日本の不動産価格の過去50年の動きを振り返ります。50年間に3回、バブル/ミニバブルと言われたブームがありました。

【1】1973年:列島改造ブーム(列島改造バブル)

 当時首相を務めた田中角栄氏が打ち出した「日本列島改造論」が巻き起こしたブームによって、全国で不動産価格が急騰しました。ただし、1973年に起こった第一次オイルショックによってブームは終焉(しゅうえん)し、不動産価格は下落しました。

【2】1989~1990年:最大の不動産バブル

 バブル景気のさなか、株価・地価ともに過去最大のバブルとなりました。バブル崩壊の影響で、その後10年以上にわたり、不動産価格の下落が続きました。

【3】2007年:不動産ミニバブル

 バブル後の金融機関による不良債権処理が終了し、不動産開発ブームが復活。2007年には3大都市圏などでイールド(利回り)を無視した高値まで買われる不動産ブームが起こり、ミニバブルと言われました。2008年にリーマン・ショックが起こると不動産価格は急落しました。

【4】2013~2024年:アベノミクス以降のブーム

 アベノミクスが本格的に始まった2013年以降、景気回復と異次元金融緩和の効果で、不動産需給が引き締まり、コロナショック前の2019年まで不動産ブームが続きました。ところが、2020年にコロナショックが起こり、在宅勤務が広く普及すると、都市部のオフィス需給は軟化し、不動産価格はいったん下落しました。

 ただし、2021年以降、コロナ禍からの経済再開が少しずつ進むにつれて、再び、不動産価格の上昇が始まりました。2024年1月1日時点で、全国地価は前年比2.3%上昇と、バブル以来、33年ぶりの高い上昇率となりました。

不動産上昇で、割安な不動産株に見直し余地

 不動産価格上昇により、買収価値(純資産価値)対比で割安になっている日本の不動産株に見直し余地が出ると予想しています。

 金利復活で割安なメガ銀行株が見直されたように、不動産価格の上昇復活で、三菱地所など、買収価値対比で割安な不動産株が見直されると予想しています。既に大きく上昇したメガ銀行を少し利益確定売りして、大手不動産株を少し買ってみてもいいと思います。

 日本には、賃貸不動産に巨額の含み益【注】を有する不動産株がたくさんあります。不動産株だけでなく、倉庫・電鉄などにも巨額の含み益を有する企業が多数あります。

【注】含み益
時価と取得原価の差額。100億円で買った不動産が120億円まで値上がりしたとき、帳簿上100億円で計上している不動産に、20億円の含み益が存在することになります。

 ご参考まで、賃貸不動産に1,200億円以上の含み益を有する29社は以下の通りです。

賃貸不動産の含み益1,200億円以上の29社、うち上位1-10社

  コード 銘柄名 産業
分類
含み益
:億円
1 8802 三菱地所 不動産 4兆6,339
2 8830 住友不動産 不動産 3兆7,367
3 8801 三井不動産 不動産 3兆2,626
4 9020 JR東日本 電鉄 1兆5,867
5 9432 NTT(日本電信電話) 情報通信 1兆3,707
6 9042 阪急阪神HD 電鉄 5,324
7 8804 東京建物 不動産 5,264
8 9005 東急 電鉄 5,259
9 8267 イオン 小売 4,638
10 9531 東京ガス ガス 4,492

上位11-20位

  コード 銘柄名 産業
分類
含み益
:億円
11 9021 西日本旅客鉄道 電鉄 4,341
12 9602 東宝 サービス 3,930
13 3003 ヒューリック 不動産 3,849
14 8905 イオンモール 不動産 3,255
15 3289 東急不動産HD 不動産 2,998
16 9301 三菱倉庫 倉庫 2,722
17 9104 商船三井 海運 2,673
18 9706 日本空港ビル 不動産 2,632
19 3231 野村不動産HD 不動産 2,525
20 9401 TBSHD 情報通信 2,358

上位21-29位

  コード 銘柄名 産業
分類
含み益
:億円
21 1802 大林組 建設 2,285
22 1812 鹿島建設 建設 2,196
23 7013 IHI 機械 2,015
24 9006 京浜急行電鉄 電鉄 1,914
25 1803 清水建設 建設 1,821
26 2501 サッポロHD 食品 1,761
27 9147 NXHD 陸運 1,704
28 9003 相鉄HD 電鉄 1,513
29 9045 京阪HD 電鉄 1,216
出所:各社最新の有価証券報告書より楽天証券経済研究所が作成

 1990年代には、不動産バブル崩壊の影響で、保有不動産に含み損を抱える日本企業が多数ありました。今は、その逆です。含み損を抱える企業はほとんどない代わりに、巨額の含み益を有する企業が増えました。

 2000年代以降、日本の会計に時価主義が採り入れられ、含み損のある不動産の減損処理が進みました。そのため、大きな含み損はなくなりました。一方、含み益の時価評価はほとんど進んでいません。日本企業は、巨額の含み益を抱えたままのところがたくさんあります。

賃貸不動産の含み益上位4社の含み益:2013年3月期(期末)~2023年3月期

出所:各社有価証券報告書・決算短信より楽天証券経済研究所が作成

買収価値と比べて割安と考えられる銘柄をピックアップ

 今、日本の株式市場には、保有不動産に巨額の含み益があるにもかかわらず、株価が、純資産価値と比べて極めて割安な水準にとどまっている銘柄がたくさんあります。保有不動産の含み益を考慮した上で、純資産価値に比べて株式時価総額が低い株を、「買収価値の高い株」と呼びます。

 かつては、そういう銘柄に敵対的買収が仕掛けられることがよくありました。特に、外資のハゲタカファンドや、旧村上ファンドなどが活発に動いた2005年は敵対的買収が社会現象となりました。

 2005年に大活躍したハゲタカファンド(買収ファンド)がいれば、真っ先に狙われそうな銘柄群が、今は多数あります。

 ところが、2006年以降、ハゲタカファンドは日本からほとんど撤退しました。資産を狙う買収に対して、日本で社会的非難が集中し、2006年には日本の上場企業が次々と買収防衛策を導入しました。これでハゲタカファンドは撤退し、買収ブームは終焉しました。

 ハゲタカは去り、割安な「含み資産株」に、敵対的買収を仕掛ける買い手がなくなりました。純資産価値と比較して割安と分かっていても、注目する投資家がいなくなりました。敵対的買収は昨年8月に経済産業省が公表した企業買収の新指針に基づき「同意なき買収」に名前を変えて、近年、少しずつ復活していますが、資産を狙う買収はあまりありません。

 今日のリポートでは、そういう「含み資産株」に改めてスポットライトを当てます。まず、先に挙げた1,200億円以上の含み益がある銘柄のうち、含み益上位10社のPBR(株価純資産倍率)と、含み益を考慮した実質PBR【注】をご覧ください。

【注】実質PBR
 保有不動産の含み益(税効果を考慮した金額)を、自己資本に加えて計算したPBR。法人税率を3割と仮定して、含み益の7割を自己資本に加えて、計算している。

賃貸不動産の含み益上位10社のPBRと実質PBR

  コード 銘柄名 含み益
:億円
連結PBR
:倍
実質PBR
:倍
1 8802 三菱地所 4兆6,339 1.54 0.67
2 8830 住友不動産 3兆7,367 1.33 0.59
3 8801 三井不動産 3兆2,626 1.50 0.88
4 9020 JR東日本 1兆5,867 1.31 0.96
5 9432 NTT(日本電信電話) 1兆3,707 1.66 1.75
6 9042 阪急阪神HD 5,324 1.12 0.89
7 8804 東京建物 5,264 1.06 0.61
8 9005 東急 5,259 1.51 1.07
9 8267 イオン 4,638 2.95 2.39
10 9531 東京ガス 4,492 0.83 0.75
出所:各社有価証券報告書、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

  このリポートでは、実質PBRが0.7倍を割れている銘柄を、「買収価値が高い株」と呼ぶことにします。賃貸不動産の含み益が1,000億円以上で、実質PBRが0.7倍以下の7社をピックアップしたのが、以下です。

賃貸不動産の含み益1,000億円以上、かつ実質PBR0.7倍以下の7社

  コード 銘柄名 含み益
:億円
実質PBR
:倍
1 8841 テーオーシー 1,102 0.37
2 8830 住友不動産 3兆7,367 0.59
3 8804 東京建物 5,264 0.61
4 8905 イオンモール 3,255 0.61
5 5901 東洋製缶GHD 1,158 0.62
6 8802 三菱地所 4兆6,339 0.67
7 9302 三井倉庫HD 1,104 0.70
出所:各社有価証券報告書およびQUICKより楽天証券経済研究所が作成

  この中で、一番投資価値が高いと私が考えるのは、三菱地所(8802)です。ついで、住友不動産(8830)テーオーシー(8841)イオンモール(8905)の投資価値が高いと考えています。

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