「クイズでわかる!資産形成」(毎週土曜日に掲載)の第7回をお届けします。資産形成をきちんと学びたい方に、ぜひお読みいただきたい内容です。
今日は、為替変動によるリスクを抑える為替ヘッジについてクイズを出します。為替リスクについて基礎知識がないとクイズを解けないので、まず、為替リスクの解説から始めます。
外国の国債に投資する代表的リスクは「通貨下落リスク」
海外には金利が高い国がたくさんあります。外国債券の利回りは魅力的に見えます。
<世界各国の10年金利(10年国債利回り):2023年12月5日>
【1】為替リスク(通貨下落リスク)
相場格言で「There is no free lunch(ただのランチはない)」とあるように、高い利回りには、それに応じたリスクがあります。最も代表的なリスクが「為替リスク」です。
円高になると、投資した国の通貨が円に対して下落します。当初投じた投資金額よりも円ベースで外貨資産の価値が目減りしてしまうリスクです。
米ドル建ての米国債で説明しましょう。12月5日時点で、為替レートは1ドル=約147円です。日本の個人投資家が1ドル=147円で1万ドルを買い(投資額147万円)、利回り約4.3%の米10年国債に投資して償還まで持ち続けるとしましょう。
10年後も1ドル=147円のままならば、償還資金を円に戻すと、10年間年率4.3%(税金を勘案しないベース)で運用ができることになります。
ところが、10年後に1ドル=120円まで円高ドル安が進んだとしましょう。すると、米国債の償還資金を円に戻した時に、為替差損(償還元本の目減り)が発生します。当初米国債に投資した147万円の元本は、償還時には120万円に目減りしています。償還差損が27万円(147万円―120万円)発生します。
【2】高金利国ほど通貨下落リスクが大きい
上記の表で「高金利国」として挙げた国は、いずれも対外負債(借金)が大きい国です。海外からたくさん借金をしているので、高い金利にしないと国債が発行できない国です。対外負債の大きい国ほど、長期金利が高く、長期的に通貨が下落するリスクが高いと言えます。
一方、日本は世界最大の対外純資産を保有し、日本の国債の大部分を国内で調達しています。日本銀行による超低金利政策もあり、長期金利を低く維持できています。
ちなみに、高金利国トルコの通貨、トルコリラの対円クロスレートは、以下の通り、年々大きく下落してきました。
<1トルコリラの価値(対日本円):2011年1月~2023年12月(5日)>
いくら利回りが20%を超える高さでも、こんなに通貨が下落すると、投資元本が大きく減り、損失が発生します(トルコリラは派手に暴落した極端な例です)。
この例で分かる通り、外債投資は利回りが高ければ高いほど良いというわけではありません。金利がほどほどに高く、経済がそこそこ安定していて、通貨もそこそこ安定している国を選別して投資していくことが大切です。
米国債やオーストラリア国債などが投資対象として良いと判断しています。一つの国に集中投資するのではなく、多数の先進国に分散投資した方が良いと思います。
「為替ヘッジ型」投資信託には、為替ヘッジコストがかかる
外国債券や外国株式に投資する投資信託で、「為替ヘッジ型」と「為替ヘッジなし」の2種類が設定されているのを、よく見かけます。
外貨に投資する時、円高になると為替差損が発生しますが、こうしたリスクを避けることを「為替ヘッジ」と言います。ヘッジは「避ける」という意味です。通常は、為替予約をして、将来のある時点で円に交換するレートをあらかじめ取り決め、円高になっても損失が発生しないようにします。
例えば、円をドルに替えて、1年間ドルで運用して、1年後に円に戻すとします。その間、円高ドル安が進むと、為替差損が発生してしまいます。こうしたことを避けるために、円をドルに替える際に1年後にドルを同じレートで円に戻す為替予約をしておけば、円高になっても損失が発生しません(円安になっても為替差益は得られません)。
しかし、金利の高い外債に投資しながら、為替ヘッジしておけば、「円高になっても損失が拡大しないので安心」と思い、「為替ヘッジ型」投資信託を選ぶ人がいます。そこに落とし穴があります。
為替ヘッジには実はけっこう大きなコストがかかります。今日のクイズは、米ドルで為替ヘッジすると、どのくらいコストがかかるか考えるものです。
今日のクイズ:米ドルで為替ヘッジするコストは何%でしょうか?
<クイズ>米ドルを1年間、為替ヘッジするコストは約何%ですか? 以下の説明を読んだ上、正解を選択肢【1】~【3】の内から選んでください。
【1】1~2%
【2】5~6%
【3】8~9%
Aさんは、円を米ドルに両替し、米国債に1年間投資します。1年後に、米国債を売却して、売却代金(米ドル)を円に戻します。その間、円高が進むと、投資元本が目減りするので、円高が進んでも良いように、あらかじめ為替予約をして為替ヘッジすることにしました。1年間のヘッジコストは約何%でしょうか?
<参考:米ドルおよび円の金利(年利):2023年12月5日>
正解:為替ヘッジのコストは5~6%
為替ヘッジのコストは、1年間でおおむね5~6%になると考えられます。従って、正解は、【2】5~6%です。
詳しい説明は割愛しますが、米ドル・円の為替ヘッジコストは、おおむね米ドル金利と円金利の差となります。3カ月米ドルを為替ヘッジするなら、そのコストは年率約5.54%(3カ月の金利差を年率換算)です。1年の為替ヘッジなら、約5.09%(1年金利の差)です。
1年の為替予約は実際には取りにくいので、実務上は3カ月の為替ヘッジを4回つないで、1年間ヘッジします。1年間でおおむね5~6%になります。
これは、あくまで2023年12月5日時点の数値です。今後、日米の金融政策などで米国および日本の金利が変われば、ヘッジコストも変わります。
為替ヘッジしながら、外債に投資すべきか?
外国債券の利回りは高いですが、為替ヘッジして投資すると、そのコストで相殺され、高利回りの魅力はほぼ失われます。外貨金利と円金利の差が、ヘッジコストとしてかかるからです。
米国の10年債の利回りは今、4.24%です。ところが、前段で説明した通り、米ドルについて為替ヘッジすると、年率5~6%のコストがかかります。米国債の高金利メリットは完全に失われます。
為替ヘッジしても利回りメリットが残ることもまれにありますが、ほとんどの場合、利回りメリットは失われます。
ご参考までに、ドル/円為替レートのフォワードレート(1ドル当たりの円換算額)を以下にお示しします。詳しい解説は割愛します。為替予約に使う実際のレートです。
<ドル/円為替の、フォワードレート:2023年12月5日14時>
後半は難解になりましたが、初心者の方には、以下の結論だけ覚えてください。
【これだけは覚えよう!】為替ヘッジするとヘッジコストによって海外の高金利メリットはほとんどなくなります。
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