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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
三菱UFJ・三井住友FGの株価どうなる?欧米の銀行不安は「対岸の火事」?

三菱UFJ・三井住友の「買い」継続

 三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下「三菱UFJ」と表記)、三井住友フィナンシャルグループ(以下「三井住友FG」と表記)の2社について、筆者は2019年以降、一貫して「強い買い推奨」を継続してきました。その投資判断は今も変わりません。

 買い推奨の理由は以下2点。

【1】配当利回りの高いディープ・バリュー株(株価指標で見て極めて割安な株)であること。
【2】海外事業拡大・ユニバーサルバンク経営によって安定的に高収益をあげるビジネスモデルができあがっていると考えること。

 2023年に入り、国内の金利上昇を好感して株価が急騰した時、短期的に株価が過熱していることを懸念しました。長期的な投資判断は一貫して「強い買い」で変わりませんでしたが、短期的には過熱した株価に注意が必要でした。ところが、3月に入って欧米の金融不安が波及して2社とも株価が急落しました。これで、投資価値は一段と高まったと考えています。

 ただ、欧米の金融不安は日本の銀行にとって「対岸の火事」とは言えません。致命的なダメージとはなりませんが、日本の銀行にもマイナス影響はあります(後段で解説)。

 欧米の金融不安は根が深く、すぐに解決するとは思えません。短期的には三菱UFJ・三井住友FG株にも下値リスクが残ります。ただし、長期的には良い買い場を迎えていると判断しています。

2社ともディープ・バリュー株

 2社とも、3月28日時点でPER(株価収益率)・PBR(株価純資産倍率)が低く、予想配当利回りが高く、株価指標から見て極めて割安なディープ・バリュー株と言えます。

2社の株価バリュエーション:2023年3月28日時点

コード 銘柄名 株価
:円
配当
利回り
PER
:倍
PBR
:倍
8306 三菱UFJ FG 839.6 3.8% 10.1 0.60
8316 三井住友 FG 5,273.0 4.4% 9.1 0.56
出所:両社決算資料より楽天証券経済研究所が作成。配当利回りは2023年3月期1株当たり年間配当金(会社予想)を3月28日株価で割って算出。1株当たり配当金は、三菱UFJ32円、三井住友FG230円。PERは、3月28日株価を2023年3月期1株当たり利益(会社予想または会社目標)で割って算出

金利が下がる都度、売られてきた銀行株

 三菱UFJ、三井住友FGとも、高水準の利益をあげてきたにもかかわらず、株価は長期にわたり低迷してきたため、株価指標で見て割安となっています。両社の株価が過去どう推移してきたかご覧ください。

日経平均および3メガ銀行株価の値動き比較:2007年1月~2023年3月(28日まで)

出所:2007年1月末の値を100として指数化、QUICKより作成

 両社とも2008年以降、金利低下とともに売られてきました。金利が低下している間は、日経平均株価を大幅に下回るパフォーマンスとなっていました。

 株式市場で「金利低下→銀行(金融業)の収益悪化」というイメージが定着しているので、金利が低下する都度、世界中で銀行株を始めとして金融株が売り込まれました。

日米の長期金利(10年国債利回り)推移:2007年1月~2023年3月(28日)

出所:QUICKより作成

 両社とも、日本の長期金利が低下する過程で売られました。日本の長期金利がゼロ近辺に低下すると、国内商業銀行業務の収益低下が懸念されて売り込まれました。さらに、ドルの長期金利が低下したことも嫌気されました。

 2021年以降、ドルの長期金利が上昇し始めると、世界的に金融株が上昇し、日本のメガ銀行株も上昇しました。日本銀行が2022年12月、日本の長期(10年)金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げると、国内銀行業務の利ザヤ拡大の期待から、日本の銀行株の上昇が加速しました。

 ところが、3月に入り欧米の金融不安が波及して、世界的に長期金利が低下し、日本の長期金利が再び0.2%台まで下げると、日本の銀行株は急落しました。

 世界の株式投資家は、今でも相変わらず、日本のメガ銀行株を、金利連動株として扱っていることがわかります。長期金利が上昇すると、利ザヤ拡大の期待から銀行株が上昇し、長期金利が低下すると利ザヤ縮小の懸念で銀行株が下落する傾向が鮮明です。

金利低下でも高水準の収益を維持

 三菱UFJ、三井住友FGとも、金利低下期でも、安定的に高収益を稼いできました。「金利が下がると銀行の収益が悪化する」というイメージは、この2社には当てはまりません。

三菱UFJ、三井住友FGの連結純利益:2014年3月期実績~2023年3月期(会社予想)

出所:各社決算資料。2022年3月期は会社予想。三菱UFJは会社目標

 上の表をご覧いただくと、「金利が下がるとメガ銀行の利益が出なくなる」という株式市場の思い込みが誤りであることがわかります。両社の連結純利益は、2019年3月期まで、長期金利がどんどん低下していく中でも安定的に高水準を保っています。

 2020年3月期・2021年3月期はコロナ禍で信用コスト(貸倒償却および貸倒引当金繰入額)が増加したことによって、利益水準がやや下がりましたが、それでも高水準の利益を維持していたと評価できます。

 前期(2022年3月期)、三菱UFJと三井住友はコロナ前の水準に利益が戻りました。想定されたほど貸倒れが発生しなかったことから、貸倒引当金の戻入益が大きくなったことが貢献しました。

 ただし、前期の第4四半期にはロシア関連などで引当金や減損が発生して、利益水準が低くなりました。それでも前期、三菱UFJは最高益でした。低金利でも稼ぐメガ銀行の姿がよく表れています。

 前期でロシア関連の引当金は十分に積んでいるので、今期以降、ロシア関連で大きな損失が発生することはないと予想されます。

 このように、三菱UFJと三井住友FGは、海外収益の拡大とユニバーサルバンク経営(証券・信託・リース・投資銀行業務などの多角化)によって、低金利でも高収益を稼ぐビジネスモデルを確立していると考えています。

 今後、国内の長期金利の上昇が続けば、国内商業銀行業務の利益も拡大するので、さらに投資価値が高まります。ただ、国内の長期金利は足元下がっており、今後どうなるか不透明です。

前期に続いて今期も増配

 両社とも株主への利益配分に積極的と評価できます。以下の通り、両社とも、コロナ禍で配当を据え置いた2021年3月期を除けば、安定的に増配を続けています。

三菱UFJ、三井住友FGの1株当たり配当金:2017年3月期実績~2023年3月期(会社予想)

出所:各社決算資料より作成

 両社とも、さらに自社株買いを積極的に行っていることが高く評価できます。ともに株主への利益配分に積極的です。

2社とも保有する外債に巨額の評価損

 欧米の金融不安は、「対岸の火事」でしょうか。日本の銀行に致命的な影響はなく、欧米のように銀行株が下がる理由はないと考えています。ただし、「対岸の火事」とは言えません。日本の銀行にもマイナス影響はあります。

 ドル金利急上昇で、米国の銀行が保有する米国債に巨額の評価損が発生していることが、米国の銀行不安につながっています。シリコンバレー銀行は、債券投資の損失拡大で破綻しました。

 日本の銀行も、ドル金利急上昇で、保有する外国債券に巨額の評価損が発生しています。

三菱UFJ、三井住友FGの「その他有価証券」の評価損益:2022年12月末時点

出所:両社の決算説明資料、▲はマイナス(評価損)を示す。三菱UFJの説明資料によると、同社の外国債券評価損は、ヘッジポジション等勘案後では約1兆円。三井住友FGも外債についてはヘッジ取引も使ってリスク量をコントロール

 日本の銀行にも、ドル金利の急上昇で評価損が発生しています。ただし、三菱UFJ・三井住友FGについては、保有する国内株式に巨額の評価益があるので、財務上の問題は発生していません。両社とも、国内株式や外債を加えた「その他有価証券」トータルでは、なお巨額の評価益を有します。

 なお、保有する外国債券に巨額の含み損が生じたことを、極めてネガティブにコメントするメディアもありますが、私はそうは思いません。金利上昇によって、将来外債投資で得られる利回りが拡大する効果、預貸金利ザヤが拡大する効果を勘案すると、金利上昇のトータル効果は、銀行業にとってプラスの方が大きいと考えています。

 両社とも、不良債権比率は低水準にとどまり、財務良好と評価しています。

短期的な株価は、日本の長期金利次第

 三菱UFJ・三井住友FG株は、グローバルな金融環境の変化を映して動いています。ただし、両社の短期的な株価に一番影響が大きいのは、日本の長期(10年)金利の動きです。

 日本の銀行は、長期金利をゼロ近辺に固定する日銀の政策で、長らくダメージを受けてきました。昨年12月、日銀が長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げた時、やっと国内商業銀行業務の収益性が改善する期待が出たことを好感して、日本の銀行株は急騰しました。

 ところが、3月に入り、欧米の金融危機が伝播(でんぱ)すると、日本の長期金利は一時0.2%台に戻りました。0.5%への長期金利引き上げを喜んだのも束の間、また元の低金利に戻る懸念から、日本の銀行株は暴落しました。

日本の長期金利(10年国債利回り)と、東証・銀行株指数の推移:2016年1月~2023年3月(28日)

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 日本の長期金利の先行きに大きな影響を及ぼすのが、日本のインフレです。先行きのインフレがどうなるか不透明ですが、私は日本にもしぶとくインフレが定着すると予想しています。

 したがって、欧米の金融危機が収束すれば、また日本の長期金利にも上昇圧力が働くと予想しています。そうなると、三菱UFJ・三井住友FGの株価も見直されて反発していくと予想しています。

 仮に長期金利が上昇しなくても、両社は、海外ビジネスの拡大や、ユニバーサルバンク経営(投資銀行業務などへの多角化)で安定的に収益を稼いでいく力があると考えています。欧米の金融不安がおさまるまで、不安定な値動きが続きそうですが、今の株価は割安で、長期投資していく価値が高いと判断しています。

 最後に告知事項です。筆者は過去に三井住友銀行に勤務したことがあり、三井住友FG株を9,000株保有しています。

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