実質賃金が大幅に減少
厚生労働省が7日発表した毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上の事業所)によると、1月の実質賃金【注】は前年同月比で4.1%減少しました。名目賃金は0.8%の増加でしたが、物価上昇率が5.1%と高くなったため、賃金の伸びが物価上昇に追いついていない状況です。
【注】実質賃金
賃金上昇率には、「名目」と「実質」がある。名目賃金上昇率とは、前年の平均賃金に対して、今年の平均賃金が何%増えたか、あるいは減ったかを計算するもの。これに対し、実質賃金上昇率は、インフレを割り引いて計算する。例えば、名目賃金上昇率が2%でも、物価上昇率が2%ならば、実質賃金上昇率はゼロとなる。名目賃金が増えても物価が上がれば、増えた賃金で買える量(購買力)は変わらない。
日本の実質賃金は、以下でわかる通りマイナスになる年が多く、上昇が続く諸外国と比較して、日本人の賃金水準の低下が続いています。
日本の実質賃金と名目賃金の騰落率推移:2015~2022年(確定値)、2023年1月(速報値)
春闘で大幅賃上げ実現するか
日本のインフレ率が急に高くなったのに、賃上げがそれにまったく対応できていないため、1月の実質賃金は4.1%のマイナスになりました。そこで注目されるのが、2023年の春季労使交渉(春闘)です。
日本最大の労働組合の全国組織「連合」は3日、傘下の労働組合が2023年の春闘で要求した賃上げ率が平均4.49%であったと発表しました。要求通りの賃上げが実現すれば、実質賃金をなんとかプラスにできます。
3月半ばに賃上げ要求に対する集中回答日を迎えます。日本経済が、物価上昇→賃上げ→需要拡大の良好なサイクルに入れるか否か、正念場です。今年は久々に、春闘の注目度が高くなっています。
物価上昇で、「インフレ税」の重みずしり
インフレが家計に与える影響は二つあります。
【1】実質賃金が低下
【2】家計が保有する現金・預金の実質価値が低下
物価上昇によって低下するのは、実質賃金だけではありません。家計が保有する現預金の購買力も、物価上昇によって目減りします。その効果をインフレーション・タックス(インフレ税)といいます。
日本銀行の資金循環統計によると、2022年9月末時点で家計は1,100兆円の現金・預金を保有しています。厚労省が実質賃金を計算するベースとなる物価は2023年1月時点で5.1%上昇しています。したがって、国民が保有する現金・預金の購買力は1年前よりも5.1%減ったことになります。1,100兆円の現金・預金の5.1%は約56兆円ですから、約56兆円の資産課税をかけられたのと同じです。
インフレで得をする主体もあります。それは、巨額の借金をかかえる「日本国」です。インフレによって政府負債の実質価値は5.1%目減りしました。このように、インフレ税には、国民の資産を目減りさせ、政府の借金も目減りさせる意味合いがあります。
長年にわたってインフレが無かった日本で、急に5.1%までインフレ率が高まったことにより、家計は二つの影響を受けました。
【1】消費税が5.1%引き上げられたのと同じ効果
【2】保有する現預金に5.1%の資産課税を課せられたのと同じ効果
インフレ対策が必要に
日本のインフレはこれからどうなるでしょう? 日本銀行の見通しだと、これからインフレ率が急低下して、今年の後半には2%を割れることになっています。私は日本銀行が考えるほど簡単に日本のインフレが終わるとは思っていません。日本でも、しぶとく3%台のインフレが続く可能性があると思っています。
家計を守るためには、インフレ対策としての資産運用が必要と考えます。インフレヘッジとして有効なのが株式投資です。成長期待で過剰に買い上げられて割高となっているグロース株に投資しても、あまりインフレヘッジ効果はありませんが、インフレの恩恵を受ける割安な高配当株などに投資していくことは、インフレヘッジとして効果を発揮すると思います。
株への投資比率は高過ぎても、低過ぎても問題です。適切な投資比率を保って長期投資していくことが、インフレヘッジをしつつ、長期的な資産形成をするのに有効と判断しています。
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