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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
タカ派FRB・中国気球問題への不安で米・中株下落。どうなる日経平均?

ナスダック反落、日経平均は5週連続の上昇

 先週(2月6~10日)の日経平均株価は、1週間で161円上昇して2万7,670円となりました。5週連続の上昇です。一方、米国ナスダック総合指数(ナスダック)は反落、1週間で2.4%下がりました。ナスダックは1月第1週から先々週まで5週連続で上昇していましたが、先週は反落しました。

日経平均とナスダック総合指数の動き比較:2021年末~2023年2月10日

出所:2021年末の値を100として指数化、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 米景気が堅調で景気後退の不安がやや低下していることを好感し、米国株は年初来上昇してきました。ところが、FRB(米連邦準備制度理事会)がタカ派(利上げに積極的)姿勢を堅持していることへの不安から、2月に入り反落しました。

 日経平均は、年初来、米国株とともに上昇してきましたが、先週は米国株が小反落する中で小幅続伸しました。日本株は米景気が堅調であることを素直に好感、リオープン(経済再開)で内需回復が期待できることも追い風となって5週連続の上昇となりました。

強すぎる雇用統計で引き締めが続く不安再燃

 2月に入り、米国株が反落したのは、タカ派FRBと強い雇用統計・サービス業景況が影響しています。

【1】タカ派FRB

 2月1日、FRBは0.25%の利上げを実施してFF金利の誘導目標を4.50~4.75%まで引き上げました。米国の長期(10年)金利(約3.7%)と比べて、長短金利の逆ザヤが1%以上に拡大していました。

 にもかかわらず、パウエルFRB議長はさらに利上げをあと2回続ける可能性を示唆しました。利上げはあと1回だけで、今年後半には利下げもあり得ると期待していた株式市場と明確に温度差があります。

 次のFOMC(米連邦公開市場委員会)は3月21~22日です。そこで、さらに0.25%の利上げをする可能性がありますが、それで利上げ打ち止めの示唆がないと、米国株が崩れる要因となりかねません。

【2】強過ぎる雇用統計

 株式市場にはFRBが早期に利上げを停止する期待がなお残っています。その期待に水を差したのが2月3日に発表された1月の米雇用統計です。

 雇用が強すぎて、引き締めが長期化する不安が高まりました。非農業者部門の雇用者増加数は前月比51.7万人と大幅増で、完全失業率は0.1ポイント低下して3.4%と、コロナ前より低い水準となりました。

【3】ISM非製造業景況指数が急反発

 2月1日に発表された1月の米ISM製造業景況指数は、47.4と前月からさらに低下し、景況分かれ目の50より低い水準が3カ月連続で続きました。ところが、3日発表の1月の米非製造業景況指数は、55.2と大幅に上昇し、非製造業(サービス産業)の景況の強さが再確認されました。

 米国では、製造業は早くから空洞化しており、製造業が不振でも非製造業(サービス産業)が好調ならば、米国全体の景気は堅調を維持することが多いことから、米景気がリセッション入りする不安が低下したと判断されました。

米ISM景況指数:2018年1月~2023年1月

出所:米ISM供給公社

賃金上昇率はやや低下、どうなる1月のCPI

 12月の雇用統計データの中で、一つマーケットの安心材料となったのは、平均時給上昇率です。1月は4.4%増で、少しずつ伸びが低下しています。

米雇用統計・平均時給上昇率:2019年1月~2023年1月

出所:米労働省より楽天証券経済研究所が作成

 米国株は当面、米景気指標に神経質に反応する展開と思います。中でももっとも重要なのは、2月14日(火)発表予定の1月のCPI(消費者物価指数)です。インフレがどのくらい低下しているか、FRBの政策スタンスに影響するため、重要です。

米インフレ率(CPI前年比上昇率)推移:2020年1月~2022年12月(速報値)

出所:米労働省より楽天証券経済研究所が作成

ドイツ株・中国株も反落

 年初来、世界の株式は、米景気だけでなく、欧州景気や中国景気にも回復期待が出ていることを受けて、上昇していました。

 ただ先週は、米国株だけでなく、ドイツ株・中国株も反落しました。

独DAX指数・香港ハンセン指数・ナスダック総合指数の動き比較:2021年末~2023年2月10日

出所:2021年末の値を100として指数化、QUICKより楽天証券経済研究所が作成

【1】欧州景気回復を好感して上昇してきたDAXもいったん反落

 欧州では昨年、天然ガス急騰で深刻なインフレが起こり、景気後退リスクが高まったと考えられていました。ところが、足元、天然ガスが急落すると、ドイツを中心に景気が持ち直す兆しが強まっています。

 気回復期待からドイツDAX指数は上昇してきていましたが、先週は、米国株反落につれて、小反落しました。

【2】中国景気回復期待で買われてきた香港株は2週続けて下落、気球問題も影響

 感染を徹底して抑え込む「ゼロコロナ政策」を解除した中国も、急速に景気回復の兆しが強まりつつあります。ゼロコロナ解除直後には、感染の急拡大で景気が悪化する不安も出ましたが、国民の大半が感染すること自然免疫が拡大し、行動制限なく活動できるようになってきています。

 景気回復期待から香港株も昨年11月以降、大きく上昇していました。ところが、1月末より2週連続の下げとなりました。

 先週は、米中関係悪化を懸念した売りもありました。偵察を目的として飛ばされたとの推測がされている「中国気球」が米国上空を通過した後、2月4日に米国軍に撃墜されたことをきっかけに、改善に向かう期待が出ていた米中関係が再び冷え込んだ影響が出ています。

 米国務省は、【1】中国気球が通線傍受のできる装備を有していたこと、【2】中国は過去に同様の気球を40カ国以上に飛ばしていたという分析を発表しました。この問題は、米中対立のさらなる悪化のきっかけとなる可能性があります。

 ゼロコロナ政策の解除で、中国景気が回復する期待が強まっていることが、中国株の強材料となっている一方、米中関係が悪化する不安、中国政府による中国ハイテク企業締め付けへの不安が上値を抑える要因となっています。

日本株の投資判断

 日本株の投資判断は変わりません。日本株は割安で長期的に良い買い場を迎えていると考えています。世界景気が少し温まってきたことを受け、上値への期待が少しずつ高まってきています。

 ただし、米利上げが続くことによる短期的なショック安はまだあるかもしれません。時間分散しながら割安な日本株を少しずつ買い増ししていくことが長期的な資産形成に寄与すると考えています。

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