バフェット氏は、2019年から日本の五大商社に投資

 米国の著名投資家バフェット氏は2020年8月、同氏率いる米投資会社バークシャー・ハサウェイが、1年以上かけて日本の五大商社株(三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・住友商事・丸紅)をそれぞれ発行済み株式数の5%超まで買ったと発表しました。バフェット氏は声明で、「日本の未来と、五つの商社の未来に参画することを楽しみにしている」と述べました。

 あれから2年以上たちました。5大商社の株価はバフェットが投資を発表してから、以下の通りいずれも大幅に上昇しています。

バフェットが投資を公表してからの五大商社の株価上昇率

コード 銘柄名 2023年
2月7日株価
:円
2020年
8月28日からの
株価上昇率
8001 伊藤忠 4,056.0 55.2%
8002 丸 紅 1,738.0 197.5%
8031 三井物産 3,912.0 119.4%
8053 住友商事 2,324.5 84.5%
8058 三菱商事 4,590.0 96.8%
出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

 株価は大幅に上昇しましたが、バフェット氏はその間、五大商社株をさらに買い増していたことが、2022年11月21日に提出された「変更報告書」から判明しました。5社ともそろって発行済み株式数の6%超まで買い進めました。

バフェット氏率いる投資会社バークシャー・ハサウェイによる五大商社株の保有比率

コード 銘柄名 保有比率 前回報告
からの
増加分
8001 伊藤忠 6.21% +1.19%
8002 丸 紅 6.75% +1.69%
8031 三井物産 6.62% +1.59%
8053 住友商事 6.57% +1.53%
8058 三菱商事 6.59% +1.55%
出所:2022年11月21日に提出された「変更報告書」より楽天証券経済研究所が作成

 バフェット氏は近年、米アップルなど成長株に積極投資しましたが、運用手法の根幹にバリュー(割安)重視があります。近年、米国株にバフェット氏の投資基準に合うバリュー株が少なくなったことから、運用対象を日本株にも広げたと考えられます。

 バフェット氏は2019年から2020年にかけて日本の五大商社への投資を始めました。その後、株価が大幅に上昇したものの、利益や配当金も大きく増加しているため、PER(株価収益率)などの株価指標で見た割安度は変わりません。バフェット氏は株価が大きく上昇した五大商社株を引き続き「割安」と判断していると思われます。

 ちなみに、五大商社株は、バフェット氏が投資する以前から、本コラムで私は継続して「買い」推奨してきました。株価が上昇した今も、私は、なお割安でかつ将来的な成長が見込める株として、「買い」判断を継続しています。

 私は、日本には、バフェット氏の御眼鏡にかなうバリュー株が他にもたくさんあると考えています。五大商社(三菱商事・三井物産・伊藤忠商事・住友商事・丸紅)はその一例にすぎないと思います。この5社は、世界中で安定的にキャッシュフローを稼ぐ力をつけている割には、株価はPER・PBR(株価純資産倍率)・配当利回りなどの指標から見て、割安です。

 今日のレポートでは、五大商社以外で、バフェット氏が投資したいと考える可能性がある日本株は何か、考えます。

<参考>アップルが大好きなバフェット氏がアマゾンに投資することができなかった理由

 ウォーレン・バフェット氏は「自分が理解できないものには投資しない」考えでした。ハイテク株やIT株に積極的には投資せず、コカコーラやアメリカン・エキスプレスのような分かりやすい安定成長株を重視して投資してきました。
 米国株の上昇をけん引してきたGAFAM【グーグル・アマゾン・フェイスブック(メタ)・アップル・マイクロソフト】では、携帯電話大手アップル以外には積極的に投資しませんでした。アマゾンは高成長期待からいつでもPERなどの株価バリュエーションで高く評価されていたので、バフェット氏の投資意欲をかきたてませんでした。
「なぜアマゾンを買わなかったのか」という投資家の質問に、彼は「自分は間違っていた」と素直に認めています。
 そのバフェット氏が大好きなのが、アップルです。バフェット氏がアップル株を大量に取得し始めた2017~2018年には、PERで10倍台の低い評価に甘んじていました。安定成長が続いている割に、PERなどの株価バリュエーションで割安に評価されていたことが、バフェット氏が投資を始めた理由と考えられます。
 当時、アップルは、これまでの成長をけん引してきたハード(iPhone)の成長余地が小さくなってきたことから、成長性に陰りが出てきたと考えられていました。バフェット氏は、アップルがハードだけではなく、音楽配信や決済などのサービス事業で成長し始めていることにも注目しました。
 つまり、バフェット氏がアップル好きなのは、「高成長は見込めなくても、安定成長を期待できるPERの低い株だから」であったと、考えられます。つまり、成長を見ながらバリューも見る手法にぴったり合っているわけです。
 それでは、今のアップルはバフェット氏にどう見えるのでしょうか? バリュエーションから見た割安感はなくなりました。私は、今のアップルは、バフェット氏が喜んで買う株価ではなくなっていると思います。

時代とともに変わるバフェットの運用手法、若い頃はバリュー(割安)重視

「バフェットの運用手法」と一口に言っても、若年期と壮年期で異なります。無名だった若年期にはハゲタカ・ファンド張りのディープ・バリュー(激安)株投資で荒稼ぎしていたこともあります。運用手法の根底に、バリュー重視があります。ただし、年とともに、グロースを重視しました。

 ただ、根底には、常にバリューを考えながら投資銘柄を選ぶ慎重さがあります。運用で「勝つ」ことを考えつつ、常に「大負け」しないようにリスクをコントロールしてきたからです。それが、グロースを重視しつつ、バリューも見る運用手法につながっていったと思います。

 日本の個人投資家にとって、参考になる知恵がバフェット氏の言葉にたくさん詰まっていると思います。

 バリュー(割安株)運用で高い運用利回りを上げて有名になったバフェット氏の、若い頃の言葉を紹介する著作を、私は原書で読んだことがあります。「Warren Buffett’s Ground Rules(ウォーレン・バフェットのグラウンド・ルール)」(Jeremy C. Miller著)です。

 バフェット氏が若い頃、投資家向けに書いた手紙が紹介されています。私が、25年のファンドマネージャー時代にやってきたバリュー運用に通じる極意が、若きバフェットによって熱く語られており、感動しました。

 私が強く共感した言葉を、二つ紹介します(日本語訳は窪田)。

(1)「企業の本源的価値がわかっていれば、それを生かして有利にトレードできる。株価が、本源的価値と比較して、ばかばかしい程、安い水準まで売られた時に買うことで、利益が得られる。」
(2)「最近、新時代の投資哲学を語る人が増えた。その哲学によると、木々が空まで伸びるように上昇し続ける株が出るという。そんな哲学に乗って割高株を高値づかみする位なら、過度に保守的といわれてペナルティを課せられた方がましだ。」

 私は、今の日本株に、本源的価値を割り込んでいる株はたくさんあると思います。地味で不人気だが、財務内容が良く、キャッシュフローが潤沢で、安定高収益の会社を探せばいいわけです。価値が高いのに、不人気で株が割安になっているものは、結構あります。

 そこで今日は、「もしバフェ銘柄」、つまり、「もしバフェットが日本株ファンドマネージャーだったら買うと考える銘柄」を探してみました。

「もしバフェ」候補5銘柄(2023年2月7日時点)

コード 銘柄名 株価
:円
配当
利回り
PER
:倍
PBR
:倍
1株当たり
配当金
:円
1605 INPEX 1,398 4.3% 4.8 0.5 60
5020 ENEOS HD 460.0 4.8% 4.3 0.5 22
6758 ソニーグループ 12,055 0.6% 17.1 2.2 75
8306 三菱UFJ FG 938.1 3.4% 11.3 0.7 32
9433 KDDI 3,968 3.4% 12.6 1.7 135
出所:各社決算資料より作成。株価・配当利回りは2月7日時点。配当利回りは、1株当たり年間配当金(今期会社予想)を株価で割って算出。PERは株価を1株当たり利益(今期会社予想)で割って算出。今期とは、INPEXは2022年12月期、その他は2023年3月期のこと

 上記5銘柄は、バフェットの投資基準になるべく合うと考えるものを、筆者が選別したものです。以下、コメントします。

【1】INPEX(1605)

 日本最大の原油・天然ガス生産・開発企業で、原油・ガスの2021年の生産は、同社資料によると日量58万4,000バレル(ガスは熱量で原油換算)、2021年末の保有埋蔵量は63億1,000バレルに達しています。海外20カ国に権益を有します。海外権益は、オーストラリア・インドネシア・中東などの友好国にあります。
 長い年月をかけて開発を進めてきたオーストラリア(イクシス)・インドネシア(アバディ)での先行投資が実り、今後、生産量や確認埋蔵量が拡大する局面に入ると予想されます。日本のエネルギー安全保障にとって極めて重要な企業です。
 にもかかわらず、株価はPER4.8倍、PBR0.5倍と、極めて低い評価に据え置かれています。バフェット氏が重視する「バリュー株投資基準」を満たすと考えています。実際、バフェット氏は近年、INPEXと同様に割安に据え置かれている欧米のエネルギー資源株に積極投資しています。もし日本株のファンドマネージャーならば、INPEXは買う対象になると思います。

【2】ENEOS HD(5020)

 ENEOS(エネオス)というと、ガソリンスタンドを思い浮かべる人が多いと思います。ガソリン販売は、同社のたくさんあるビジネスの一つにすぎません。実際は、海外での石油・天然ガスの開発生産事業、石油精製、銅鉱山経営、水素サプライチェーンの構築、次世代エネルギー開発事業など、幅広く展開する、エネルギー総合企業です。
 日本のエネルギー安全保障にとって重要企業であるにもかかわらず、株価指標で割安です。INPEXと同様に、バフェット氏のバリュー株投資基準を満たすと考えます。

【3】ソニーグループ(6758)

 日本のIT大手はいずれも、SNS・ITサービス分野では米国のGAFAM(グーグル、アマゾン、メタ、アップル、マイクロソフト)との競争に敗れ、世界標準を取ることはできませんでした。かつて日米の検索エンジンでトップだったyahoo(Zホールディングスの検索エンジン)はグーグルとの競争に敗れ、日本だけのマイナー検索エンジンとなりました。
 その中にあってゲーム分野だけは、今でも日本勢が支配しています。任天堂とソニーは、ゲームを中心に世界で勝負できるIT成長企業として高く評価できます。マイクロソフトがゲームに参入しましたが、任天堂・ソニーの有力なライバルとはなっていません。グーグルもゲームに参入しましたが、撤退しました。
 20世紀のソニーは、テレビ・音楽プレーヤーなど音響機器のハードで稼ぐ成長企業でした。ところが、21世紀に入り、ビジネスモデルを完全に転換しています。今は、ゲーム・音楽・映画・金融などのソフトで稼ぐ企業に転換しています。世界で成長する日本版IT企業、日本版GAFAMとして、評価余地は大きいと考えています。
 ところで、バフェット氏はソニーを評価するでしょうか? 日本版GAFAMとは言っても、バフェット氏は、そもそもアップルを除けば、GAFAMを評価して買うことはありませんでした。
 私は、今のソニーは、バフェット氏が投資を始めたころ、2017~2018年のアップルに似ていると思います。バフェット氏が投資を始めたころ、アップルはIT企業として評価はされていませんでした。そのために、PERなどのバリュエーションで低評価でした。製造業と見られていたことが、低評価の理由でした。
 アップルは、かつてソニーのライバル製造業でした。ソニーが一世風靡(ふうび)した「ウォークマン」は、アップルの「iPod(アイポッド)」との競争に敗れて、衰退しました。アップルには、IT企業というよりは、携帯電話を作っている製造業のイメージが強かったと言えます。それが株式市場の低評価につながっていました。
 ところが、実際には、アップルは製造業ではありませんでした。同社のスマホ「iPhone」は、部品は日本、組み立ては中国といわれ、アップルがやっているのは開発やマーケティングだけです。今、株式市場でアップルはIT成長企業として評価されています。
 任天堂は、ゲームソフトで世界を支配している日本企業として、PERなどのバリュエーションで高く評価されています。ところが、ソニーはまだテレビなどを作っている製造業のイメージが強いため、任天堂と比べると株式市場での評価は低くなっています。
 そこが、バフェット氏が評価するポイントと思います。もし、バフェット氏がソニーの収益構造の変化に詳しいならば、投資対象に入るのではないかと考えます。

【4】三菱UFJ FG(8306)

 銀行業は、日本銀行のイールドカーブコントロール(10年をゼロ近辺に固定する金融政策)によって、これまで収益に大きなダメージを受けてきました。最近、日銀が10年金利の0.5%までの上昇を容認したことは、国内商業銀行業務の利ザヤ改善に大いに貢献します。
 それを好感して株価は最近大きく上昇しました。ただし、上昇後でも、株価指標から見て、同社は割安と判断できます。バフェット氏のバリュー投資基準を満たすと考えます。
 バフェット氏は、リーマンショックのときに、過度に売られた米国の金融株を買い、その戻りで大きなリターンを得ています。収益基盤がしっかりしている割に、株価が割安な日本のメガバンク株は、バフェット氏の投資基準にかなうと、私は考えます。

【5】KDDI(9433)

 携帯電話事業の競争激化懸念で株価は上値が重くなっています。ただし、KDDIは、世界景気に影響されずに安定成長を続け、2023年3月期で21期連続の増配を予定しています。ケータイ事業のほか、さまざまなITサービス(ライフデザイン事業)を手がけ、これからも安定高収益を維持していくと予想しています。
 バフェット氏は、インフラを支配して安定的に利益を稼ぐ企業を好みます。KDDIがバフェット氏の基準を完全に満たす「インフラ支配企業」とは言えません。それでも、バフェットが好む条件の一部を満たす企業として、私が考える「もしバフェ」に選定しました。

▼著者おすすめのバックナンバー

2022年12月22日:利回り3.6~5.0%!エネルギー安全保障に貢献する高配当利回り株3選
2022年11月30日:バフェットが日本の5大商社株を買い増し。好配当利回り株として「買い」継続
2022年11月16日:利回り4.4%・5.1%、メガバンク2社の「買い」判断を継続