「資産形成を始めたいけど何をしたら良いかわからない」という質問を読者の方からよく受けます。そういう投資初心者の方のために、資産形成のイロハを解説しています(木曜日掲載)。今日は、第9回小型成長株の選び方をお届けします。

第1回~第8回のまとめ

 まず、これまで解説したことを簡単におさらいします。以下が、これまでのまとめです。

 投資を始める前にまず家計のバランスシートを作りましょう。保有している全ての金融資産(現預金を含む)と金融負債の残高(時価ベース)を書き出しましょう。

 投資成果のほとんどはアセット・アロケーション(資産配分)で決まります。まずアセット・アロケーションを決めましょう。

 世界最大規模の公的年金基金GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の基本ポートフォリオは、以下の通り:国内株式25%、外国株式25%、外国債券25%、国内債券25%。

 アセット・アロケーションで一番大切なのは、リスク資産(国内株式+外国株式+外国債券)と安全資産(国内債券:銀行預金+個人向け国債)の比率決定です。近い将来使う予定のお金は、安全資産に入れましょう。

 日本株に投資したいが、そのためにいろいろ調べる時間の無い方は、投資信託で日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)に連動することを目指すインデックスファンドから投資したら良いでしょう。

 国内REIT(リート:上場不動産投資信託)に一定比率投資することは長期的なリターンを安定させる効果があります。

 円建ての債券投資で高い利回りを求めると、高いリスクを負うことになります。信用リスクの高い債券には投資すべきでありません。

 外国債券へ投資する際、年金基金では、為替ヘッジは原則しません。為替ヘッジのコストで外国債券の高利回りメリットが失われるからです。

 日本株で予想配当利回り4%以上の高配当株に投資する際、なるべく時価総額の大きい銘柄から選びましょう。時価総額1兆円以上ならば、財務や収益に問題をかかえる銘柄は少なくなります。

 詳細は、以下よりお読みいただくことが、できます。

2022年9月29日資産形成のイロハ【1】まず家計のバランスシートを作る
2022年10月6日資産形成のイロハ【2】アセット・アロケーションを決める
2022年10月13日資産形成のイロハ【3】ポートフォリオの組み方
2022年10月20日資産形成のイロハ【4】日本株の選び方:投信と個別株、どっちが良い?
2022年10月27日資産形成のイロハ【5】J-REITに投資した方が良い?
2022年11月17日資産形成のイロハ【6】利回りに強くなる
2022年11月24日資産形成のイロハ【7】外債投資、為替ヘッジすべき?
2022年12月1日資産形成のイロハ【8】高配当利回り株の選び方

小型成長株への投資は、高リスク高リターン

 今日は第9回、小型成長株の選び方です。成長株には、時価総額が大きい大型成長株もありますが、株価上昇期待がより大きいのは小型成長株です。

 私は、これから日本株で、小型成長株投資がおもしろい時代になると思っています。

 ただし、期待リターンとリスクは、表裏一体です。すごく上がりそうな銘柄は、失敗したらすごく下がるかもしれません。

 だから、小型成長株について、銘柄選択はしっかりやりましょう。失敗した時の損切りルールもしっかり決めておいた方が良いと思います。後段で詳しく説明します。

 以下は、小型成長株の15年間の株価変動イメージです。

乱高下する人気の小型成長株 高値づかみすると大変!(イメージ図)

出所:筆者作成

 上の例では、黎明(れいめい)期・急成長期・成熟期がそれぞれ5年続く成長企業をイメージしています。

 黎明期は、利益はほとんど出ないが、将来の大きな夢がある時期です。急成長期は、実際に売上高・利益が大きく伸びる時期です。成熟期には、増益率が小さくなります。

 こうした成長株を、高値でつかむ(グラフ中で赤い星印をつけたところで買う)と、株価があっという間に半値になることもあります。マーケットのウワサだけで投資していると、往々にして赤星印をつけたところで買うハメになります。ご注意を。

 投資銘柄が急騰したり急落したりすることでハラハラしたり、煩わしい思いをしたくない方は、インデックスファンドに投資した方が良いと思います。

 個別株投資でわくわくする銘柄を見つけられる方、成功しても失敗してもそのプロセスで学ぶことをうれしいと思える方は、ぜひ成長株投資にチャレンジしてみてください。

成長株が面白い時代に

 21世紀になり、第4次産業革命といわれる経済の構造変化が急速に進んでいます。これに伴い、小型株から高成長企業がたくさん現れる時代になると思います。

 古いビジネスモデルにとらわれている大企業が衰退する中、創業10~20年で30~40歳代の若い創業社長が率いるユニ-クな企業が、急成長する時代になっています。

 日本には、残念ながら米国のGAFAM(グーグル、アマゾン・ドット・コム、フェイスブック<現メタ・プラットフォームズ>、アップル、マイクロソフト)のような世界のITインフラを支配する巨大成長企業は出てきていません。

 それでも、ユニークなサービスで成長するニッチ企業はたくさん出ています。これから、世界中でAI(人工知能)・IoT(モノのインターネット化)・5G(第5世代移動体通信)・サービスロボットの活用が加速するにつれて、日本でも業歴の若いベンチャー企業からたくさんの成長企業が出ると思います。

製造業が衰退・IT産業が成長

 このような大きな変化をもたらしている根幹にあるのが、産業構造の変化です。製造業が衰退し、IT産業が飛躍する局面となりつつあります。

 20世紀には、製造業で世界トップに立つことが、成長企業となる条件でした。なぜならば、20世紀は、「モノ」の豊かさを求めて人類が努力した時代だったからです。

 生活を豊かにするモノを開発し、いちはやく安価に大量生産する技術を確立した製造業が、成長した時代でした。

 ところが、21世紀に入り、状況は変わりました。製造業で稼ぐのが難しい時代になりました。

 モノは人気が出て一時的に不足しても、すぐ大量供給されて、価格が急落するようになりました。製造業では、韓国・台湾・中国および日本企業が、利益度外視の過当競争を繰り返すようになってしまいました。

 このように、モノが余る時代となる中、恒常的に不足しているのが良質なサービスです。

 医療・介護・保育・防犯・警備・教育・宅配ドライバー・熟練建設工など、良質なサービスが不足している分野はたくさんあります。

 サービスは、モノのように工場で大量生産することができないので、人手不足が続く中、良質なサービスは恒常的に不足するようになりました。

 そこで、良質なサービスを安価に大量供給する仕組みを作った企業が、21世紀の高成長企業になります。

 人間にしかできなかった良質なサービスをITで安価に大量供給する仕組みを作った企業が高成長企業となりました。

 Eコマースは、リアル店舗を作るコストを省き、インターネットを通じて、小売りサービスの量産を可能にしたものです。

 小売りだけでなく、金融、医療サービス、人材あっせん、コンサルティング、教育、測量、旅行手配、予約サービスなどさまざまな分野で、ネットがリアルを代替する時代となりつつあります。

 今後、AI(人工知能)・IoT(モノのインターネット化)・5G(第5世代移動体通信)・ロボットや、その応用分野(自動運転・フィンテックなど)から、21世紀の成長企業が多数出てくるでしょう。

成長株の3条件

 ファンドマネージャー時代、小型成長株を見つけるために、私は成長が期待される分野の企業をなるべくたくさん取材して投資企業を選別していました。

 年間100社以上の企業を取材して投資先を選んでいたこともあります。

 私は、成長株として投資を実行する前に、三つの条件をチェックしていました。三つの「高い」が満たされれば、成長株として「合格」と判断します。

成長株の3条件

【1】市場成長性:高い
【2】市場シェア:高い
【3】参入障壁:高い

 今、ITによって、経済構造ががらりと変わる時代であります。成長株の候補はたくさん見つかります。ただし、そこから、本当に成長する株を見分けるのが大変です。

 2番目までの成長条件を満たす(高成長市場で高シェア)企業は、けっこうたくさん見つかります。ただ、3番目の条件(参入障壁が高い)まで満たす株は、簡単には見つかりません。

 今までなかった新しいネットサービスを始め、需要が急増しているIT企業があると、投資家はそれを成長株としてはやします。そうなると、株価が大きく上昇します。

 ただし、その後が問題です。よくあるのは、新規参入が増えて、あっという間に過当競争になり、利益が稼げなくなることです。そうなると、株価は暴落します。

 参入障壁が低いビジネスで成長できる期間はとても短くなっています。だから私は、成長株の調査を行う時、3番目の条件(高い参入障壁)が満たされているかどうか、念入りにチェックします。

成長株の3条件を満たしていると確信した企業でも、成長できずに終わることがある

 どんなにしっかり調査して成長の3条件を満たしていると確信した企業でも、投資した後、成長ストーリーが崩壊して、株価が暴落することがあります。

 私がファンドマネージャーをやっていた1987~2013年はあまり成長企業が出にくい時代だったこともありますが、私が「これはすばらしい」と確信した企業でも、実際に大きく成長できたのは1割か2割しかありません。

 失敗例に、例えばシャープがあります。1990年代には輝く未来の成長企業に見えていました。

 液晶の主要技術をほとんど押さえていて、「将来テレビが全てブラウン管から液晶に置き換わる時に、大きく成長する」と、成長3条件を満たす高成長企業として私は確信していました。

 実際、ブラウン管はほぼ全て液晶に置き替えられ、液晶市場は急成長しました。ところが、シャープは液晶でもうけることはできませんでした。

 知的財産権の防御ができていなかったシャープの液晶技術はほとんど無償でアジア企業に流出し、低コストで大量生産するアジア企業に利益を奪われてしまいました。

 成長を確信していた企業が成長できなくなってしまう例は、他にもたくさんあります。

損切りルールは必要

 値動きの激しい小型成長株投資では、失敗した銘柄は売る「損切りルール」が必要だと思います。成功した銘柄は持ち続け、失敗した銘柄をきっちり売っていくことが、成長株で成功する鍵です。

 損切りルールとは、「買い値より10%下がったら売る」とか、「買い値より20%下がったら売る」というように、損切りラインを決めておくことです。

 何%下がったら売るかどうかは、投資家が自分で決める必要があります。決めたら、そのルールをきっちり守って損切りすることが必要です。

 私は、「20%下がったら、どんな理由があっても絶対売る」と決めておくのが良いと思います。小型成長株を買ってから20%も下がるということは、何か大きな間違いをしているということです。どんな理由があっても売る、と決めておいた方が良いと思います。

 もちろん「10%下がったら売る」というルールでも構いません。皆さまが管理しやすい下落率で結構です。以下は、損切りがなぜ必要なのかわかっていただくために、作成したイメージ図です。

急落する失敗銘柄を早めに損切り(イメージ図)

出所:筆者作成

 成長株投資で大成功して一財を成した人は、大もうけした銘柄の話をよくしますが、その陰には失敗銘柄を早めに損切りした話がたくさんあるはずです。

 それができたからこそ、本物の成長株で大もうけすることができたに違いありません。

 失敗銘柄を、早めに損切りできることが、高成長銘柄で稼ぐための条件となります。

 ところが、成長期待企業の、成長ストーリーが崩壊していることに気付くには時間がかかります。失敗銘柄が失敗銘柄だと、はっきりわかった時には、株価は暴落して大けがした後です。

 そうなる前、「なんか変」と思う段階で、すばやく損切りすることが必要です。どんなに遅くとも、20%下がった時には、損切りすべきだと思います。

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