ウォーレン・バフェットが日本の大手総合商社5社を買い増し

 米国の著名投資家ウォーレン・バフェット氏が、同氏率いる米投資会社バークシャー・ハサウェイを通じて日本の5大商社株(伊藤忠商事、丸紅、三井物産、住友商事、三菱商事)を買い増ししていたことが、11月21日に提出された「変更報告書」から判明しました。

 5社ともそろって発行済み株式数の6%超まで買い進めました。

バークシャー・ハサウェイによる日本の5大商社株の保有比率

コード 銘柄名 保有比率 前回
報告からの
増加分
8001 伊藤忠 6.21% +1.19%
8002 丸 紅 6.75% +1.69%
8031 三井物産 6.62% +1.59%
8053 住友商事 6.57% +1.53%
8058 三菱商事 6.59% +1.55%
出所:2022年11月21日に提出された「変更報告書」より楽天証券経済研究所が作成

 バフェット氏による5大商社への投資が最初に明らかになったのは2020年8月30日でした。5社ともそろって5%を少し超えるところまで買い付けていました。

 その時、バフェット氏は声明で、「日本の未来と、五つの商社の未来に参画することを楽しみにしている」と述べました。株価次第では、発行済み株式数の9.9%まで買い増す可能性があるとも言っていました。

 今回の買い増しでは、特にバフェット氏のコメントは発表されていません。

株価は過去2年で大きく上昇も、なお株価指標で割安

 5大商社の2023年3月期業績は、資源高の恩恵を受けて、2022年3月期に続き極めて好調です。好業績を受けて、バフェットが初めて投資を発表した2020年8月以降、株価は大きく上昇しています。

5大商社2021年・2022年の株価騰落率、日経平均と比較

コード 銘柄名 2021年 2022年
11月29日
まで
8001 伊藤忠 18.7% 22.6%
8002 丸 紅 63.2% 38.7%
8031 三井物産 44.1% 46.2%
8053 住友商事 24.5% 32.9%
8058 三菱商事 43.7% 25.4%
日経平均 4.9% ▲2.7%
出所:QUICKより作成

 株価は大きく上昇しましたが、利益や配当金も大きく上昇しているので、以下の通り、株価指標を見ると、PER(株価収益率)・PBR(株価純資産倍率)が低く、予想配当利回りが高いバリュー株として、今でも評価できます。引き続き、5社とも「買い」の投資判断を継続します。

大手総合商社5社の株価バリュエーション:2022年11月29日時点

コード 銘柄名 株価
:円
配当
利回り
PER PBR 1株
配当金
会社予想
:円
8001 伊藤忠 4,313.0 3.2% 7.9倍 1.29倍 増配 140
8002 丸 紅 1,552.5 4.8% 5.2倍 0.92倍 増配   75
8031 三井物産 3,983.0 3.3% 6.3倍 1.02倍 増配 130
8053 住友商事 2,260.0 5.1% 5.1倍 0.73倍 増配 115
8058 三菱商事 4,578.0 3.4% 6.4倍 0.84倍 155
出所:各社決算短信より楽天証券経済研究所が作成
配当利回りは、2022年3月期1株当たり配当金(会社予想)を11月29日株価で割って算出。
PERは、11月29日株価を2022年3月期1株当たり利益(会社予想)で割って算出

5大商社、四つの投資魅力

 私は、「株価指標で見て割安」というだけで、この5社を評価しているわけではありません。5社共通の投資魅力として、四つあります。

【1】「日の丸資源会社」として世界中に資源権益を有する

 総合商社は、資源のない日本に欠かせない「日の丸資源会社」です。5社とも世界中で資源開発(または権益の買収)を行い、原油・天然ガス・鉄鉱石・石炭・銅・ニッケルなどの資源権益をたくさん獲得してきました。

 資源価格が急騰した2023年3月期は、資源事業で巨額の利益をあげています。また、すぐには利益貢献が見込めませんが、地球規模の脱炭素の流れを見て、再生可能エネルギー事業(洋上風力・地熱・太陽光発電など)にも積極投資しています。

 ただし、それだけならば、5大商社株を高く評価はできません。資源価格はこれからも乱高下すると考えられ、巨額の利益は必ずしも「持続可能」と考えられないからです。

【2】非資源事業を幅広く展開

 5社とも、資源事業の利益の割合が高くなり過ぎないように注意しています。非資源事業を幅広く展開し、収益の安定化をはかっています。

 個社別に力を入れる分野は異なりますが、世界景気の影響を受けにくい食料品・農業・消費関連(コンビニ経営など)・海外電力事業の他、新興国での社会インフラ整備事業(発電所・鉄道・上下水道などの建設・運営)、自動車・機械・化学品など幅広い事業を展開しています。

【3】大胆な攻めと堅実な守り

 総合商社の戦略は、資源もなく少子化が進む日本がどう生きていくべきか、まさにその道筋を示していると考えています。政府が成長戦略としてやっていくべきことは、商社がほとんど手をつけています。

 資源のない日本が生きていくのに不可欠な「日の丸資源会社」となっているほか、人口が増加していく新興国でのビジネスにも注力しています。

 さらに、IT(情報技術)・バイオ・新エネルギー・ロケットなど、今すぐ花開かなくても、将来いつか大きな成長のタネになりそうなものには、片っ端から手を出しています。その貪欲さこそが、今の日本に欠けている成長力の獲得につながると思います。

 それでいて、収益が悪化し損失が拡大するリスクが高まってきた事業に対しては、厳格な撤退基準を持っています。

 見込み違いだった事業から、大きな傷を受ける前にすばやく撤退するところが、総合商社の強さの根底にあると考えています。

 バフェット氏が5大商社に投資している理由は、そこにあると考えています。

【4】株主への利益配分に積極的

 5社とも、コロナ・ショックのあった2021年3月期などを除けば、安定的に増配を行ってきていることに加え、自社株買いも継続的に実施しています。

5大商社の1株当たり配当金推移:2019年3月期~2023年3月期(会社予想)

単位:億円
コード 銘柄名 2019/3 2020/3 2021/3 2022/3 2023/3
会社予想
8001 伊藤忠 83 85 88 110 140
8002 丸 紅 34 35 減配 33 62 75
8031 三井物産 80 80 85 105 130
8053 住友商事 75 80 減配 70 110 115
8058 三菱商事 125 132 134 150 155
      コロナショック    
出所:各社決算短信より楽天証券経済研究所が作成

資源事業への依存度引き下げは道半ば

 5大商社は、資源事業への依存度が高いことに危機感を感じ、10年以上前から、非資源事業の育成を積極的に行っています。

 コロナ・ショック前、まだ資源価格の水準が低かった2019年3月期に5社のうち4社が純利益で最高益を更新できたのは、非資源事業の利益を伸ばすことに成功した効果です。

5大商社の連結純利益:2019年3月期(実績)~2023年3月期(会社予想)

単位:億円
コード 銘柄名 2019/3 2020/3 2021/3 2022/3 2023/3
会社予想
8001 伊藤忠 最高益
5,005
最高益
5,013
4,014 最高益
8,202
8,000
8002 丸 紅 最高益
2,308
▲1,974 2,253 最高益
4,243
最高益
5,100
8031 三井物産 4,142 3,915 3,354 最高益
9,147
最高益
9,800
8053 住友商事 最高益
3,205
1,713 ▲1,530 最高益
4,636
最高益
5,500
8058 三菱商事 最高益
5,907
5,353 1,725 最高益
9,375
最高益
10,300
  コロナショック  
出所:各社決算短信より楽天証券経済研究所が作成

 5社とも、2023年3月期は、資源事業の利益が大きく拡大したため、また資源事業の比率が高くなっています。資源への依存を引き下げる取り組みは、いまだ道半ばです。

 資源事業の中で、将来問題になる可能性があるのは、石炭(原料炭)事業です。世界各国が「脱炭素」を進める中で、石炭はまっさきにそのターゲットとなるからです。

 ただし、同じ資源事業でも、LNG(液化天然ガス)や銅は、位置づけが異なります。5大商社が手掛けるLNG・銅事業は、脱炭素に必要な事業として高く評価されるべきと考えています。

 三菱商事と三井物産は、ロシアのサハリン2プロジェクトでLNGの開発・生産を行っています。ロシアのウクライナ侵攻以降、両社ともサハリン事業からの撤退を余儀なくされるリスクがありました。

 その後、とりあえず事業を継続できる見込みとなっていることは、両社の収益にとってポジティブです。

脱炭素に貢献する5大商社のLNG事業

 5社共通の問題として、化石燃料ビジネスを手掛けていることが挙げられます。

 ESG(環境・社会・企業統治)を重視する年金基金などは、化石燃料ビジネスで高い利益をあげている5大商社を投資対象から外す可能性があります。私は極めておかしなことと思います。

 化石燃料ビジネスを手掛けることを「全て悪」と決めつける、現在の欧州主導のESG基準には大いに問題があると考えています。

 日本企業は、化石燃料を世界一効率的に使う技術を幅広く保有していますが、それが現在のESG基準では「悪」とレッテルが貼られます。

 例えば、トヨタ自動車のハイブリッド車は、ガソリン車の中でもっとも高い燃費を実現していますが、それでも現在のESG基準では「ガソリンを使う問題ビジネス」とされてしまいます。

 同様に、5大商社を始めとして、日本企業が高い技術を持ち、幅広く手掛けているLNGビジネスも既存のESG基準では高く評価されません。

 私は、人類が真剣に脱炭素を進めようとするならば、そのプロセスにおいて天然ガス・LNGを積極的に活用することが不可欠だと考えています。

 脱石炭を急速に進めるための切り札となる、天然ガス・LNG事業をESG基準でもっと高く評価すべきと考えています。

 脱炭素を進め、最終的に自然エネルギーだけで人類が使用するエネルギーの全てをまかなえるようにすることが理想です。それには相当長い年月がかかります。その移行過程で人類はガス火力発電にどうしても頼らなければならない事情があります。

【1】自然エネルギーは気まぐれ、調整電源としてガス火力が必須

 自然エネルギー発電の多くは、気まぐれです。太陽光や風力はその典型です。突然大量に発電されたり、全く発電がなくなったりします。

 電気は保存ができないため、需給調整が難しく、自然エネルギーが電源に占める比率が高くなると、無駄に電気を捨てる問題や停電が頻発する問題が起きます。

 常時、同時同量(発電量と電力使用量を一致させる)を実現するには、自然エネルギーの発電量の変化に合わせて、発電量を増やしたり減らしたりする調整電源が必要です。

 調整電源として大規模に活用可能なのは、現時点でガス火力発電しかありません。

【2】石炭火力を代替できるのは、当面、ガス火力しかない

 地球規模で脱炭素を進めるならば、経済規模が極めて大きくなった中国やインドが電源の6~7割を石炭火力に頼っている問題を、看過できません。

 石炭火力に頼り切っている国で、いきなり自然エネルギー発電を拡大することはできません。まずはガス火力発電を拡大するしかありません。

 自然エネルギー発電を拡大する努力が必要なことに違いありませんが、当面は代替電源としてガス火力を使っていくしかありません。

LNGの利用拡大が地球環境にとって重要と考える理由

 今の地球上には、まだ活用されずに捨てられている天然ガスが大量にあります。

 中東の油田では、原油を採掘する際に、出てくる天然ガスを今でも大量に燃やして捨てています。それを、全てLNGに変えてもれなく活用することが、地球環境にとって重要です。

 油田で出てくる天然ガスをパイプラインで運べる範囲だけで使うのでは、もれなく活用することはできません。LNGに変換して、世界中に運ぶ必要があります。ところが、世界中のほとんどの国でそれがまだできていません。

 世界では、天然ガスはパイプラインで運べる範囲だけで使うのが普通です。天然ガスをLNGに変換して運び、貯蔵し、使用するのには、かなりの設備投資とコストがかかるからです。

 ただし、それをやっていかなければ、地球上のガスが無駄に捨て続けられる問題は解決しません。

 LNGの活用が進んでいるのは日本や韓国です。特に日本企業は、LNGの技術が進んでいます。今後はLNGおよびガス火力発電で高い技術を持つ日本企業に、大いに活躍の場があると予想しています。

 日本の大手総合商社(三菱商事・三井物産など)は、LNG事業で高い実績を持っています。また、日本の大手プラント建設会社(日揮・千代田化工など)は、LNGプラント建設で高い技術と実績を有します。こうした企業に期待が高まります。

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