「資産形成を始めたいけど何をしたら良いかわからない」という質問を読者の方からよく受けます。そういった投資初心者の方のために、資産形成のイロハを解説しています(木曜日掲載)。今日は、第6回「利回りに強くなる」です。債券投資の基礎を解説します。
資産形成で長期的に高いリターンが期待できるのは、株式投資です。ただし、株価は短期的に乱高下するので、短期的には大きくマイナスになることがあります。
株式だけでなく債券にも投資した方が、リターンが安定します。ただし、債券投資にも特有のリスクがあります。それを理解して、適切にリスクを管理する必要があります。
第1回~第5回の概要
まず、これまで解説したことを簡単におさらいします。
【1】まず家計のバランスシートを作る
投資を始める前にまず家計のバランスシートを作りましょう。保有している全ての金融資産(現預金を含む)と金融負債の残高(時価ベース)を書き出しましょう。
投資を始めたら、毎年少なくとも1回は、バランスシートを作って、金融資産・負債の変化を見ましょう。
ダイエットするなら、体重を測り、定期的にその変化を見ていくでしょう。それと同じことです。資産形成をするなら、自分の金融資産・負債の残高と変化は定期的にきちんと計測する習慣をつけましょう。
【2】アセット・アロケーションを決める
投資成果のほとんどはアセット・アロケーション(資産配分)で決まります。投資を始める前に、まずアセット・アロケーションを決めましょう。
参考になる、日本最大の年金基金GPIFの基本ポートフォリオは、以下の通り。
国内株式25%、外国株式25%、外国債券25%、国内債券25%
【3】リスク資産と安全資産の比率を決める
アセット・アロケーションで一番大切なのは、リスク資産(国内株式+外国株式+外国債券)と安全資産(国内債券:銀行預金+個人向け国債)の比率決定です。
近い将来使う予定のお金、急な出費に備える予備のお金は、安全資産に入れましょう。リスク資産への投資は、景気1サイクル(4~5年)以上投資しておける余裕資金で行いましょう。
【4】日本株の選び方、初心者は投資信託から
日本株に投資したくても投資するためにいろいろ調べたり勉強したりする時間の無い人は、投資信託で、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)に連動することを目指すインデックスファンドから投資したら良いでしょう。
個別株投資にトライするならば、自分の目で選別しましょう。投資候補企業のHPでIR資料を読むことと株価チャートを見ることは必須。
【5】国内REITに少し投資
国内REIT(リート:不動産投資信託)に一定比率投資することは長期的なリターンを安定させる効果があります。ただし、REITは、株が暴落する時に株と同じように下落することがあるので、安全資産の代替にはなりません。
詳細は、以下よりお読みいただくことが、できます。
2022年9月29日資産形成のイロハ 【1】まず家計のバランスシートを作る
2022年10月6日資産形成のイロハ 【2】アセット・アロケーションを決める
2022年10月13日資産形成のイロハ 【3】ポートフォリオの組み方
2022年10月20日資産形成のイロハ【4】日本株の選び方:投信・個別株、どっちが良い?
2022年10月27日資産形成のイロハ 【5】J-REIT(リート)に投資した方が良い?
債券投資で大切なこと:利回りに強くなる
それでは、ここから債券投資の基礎を解説します。最初に、債券投資で知っておかなければならないことを二つ、お伝えします。
【1】利回りが高ければ高いほど、良いわけでない。
【2】適切な利回りの債券、つまり、どういうリスクがあるか理解できる債券に投資することが大切。
日本の個人投資家に「利回り」という言葉に弱い方がたくさんいます。「利回り」というと、無条件で「確定利回り」と誤認してしまうようです。
そういう方が債券に投資する際、「利回りは高ければ高いほど魅力的」と感じてしまう傾向があります。
高い利回りの債券には、それに対応するリスク【注】があります。詳しい説明は割愛しますが、利回りの高い債券には、それ相応に元本割れになるリスクがあるということです。
【注】債券投資のリスク
信用リスク(信用が低下すると価格が下がるリスク)、金利上昇リスク(市場金利が上昇すると価額が下がるリスク)、流動性リスク(売却したい時に売却できないリスク)、繰り上げ償還リスク(繰り上げ償還に当たった時に損失が発生するリスク)などがあります。外国債券では、為替リスク(円高になると償還元本が目減りするリスク)もあります。
日本の10年国債利回りは日本銀行のイールドカーブコントロール政策によって、ほぼゼロ近辺に固定されています(11月16日現在0.24%)。
債券投資で安全性だけ重視して投資すると、利回りはほぼゼロということです。利回りゼロでは投資する意味がないので、何らかのリスクを負って利回りが得られる債券に投資すべきです。
どういったリスクがあるか理解できる商品に投資していくことが大切です。
危うい債券信仰、債券なら安全とは限らない
2008年9月、米国の大手投資銀行リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻しました。それをきっかけに世界中で株が暴落しました。リーマンショックといわれる危機の勃発です。
この時、同社が発行していたサムライ債(円建て外債)がデフォルト(債務不履行)となり、日本の個人投資家にも大きな損失が生じました。
出たばかりの退職金のほとんど全てをリーマン債に投資していた人もいました。なぜ、大切な老後資金をそのような危ない投資につぎ込んでしまったのでしょうか。
「老舗の大手金融機関の発行だったから投資してしまった」ということでしたが、それだけが理由ではありません。債券だったから、しかも円建てだったから、確定利回りと誤認して安心して大金を投じてしまったということだと思います。
「リスク・フリー・レート」といわれる10年国債利回りは、ほぼゼロ%
欧米の投資理論において、「リスク・フリー・レート(リスク無し利回り)」という概念があります。「10年国債利回り」をリスク・フリー・レートとするのが一般的です。
欧米先進国において、「国は破綻しない」【注】という前提に基づいて、10年もの新発国債利回りを「リスク・フリー・レート」と呼んでいます。
【注】「国は破綻しない」前提
実際には国は破綻することがあります。対外負債の大きい新興国では、国債のデフォルト(債務不履行)が起こることもあります。アルゼンチン国債は2001年にデフォルトを起こしました。
日米欧の先進国では国債がデフォルトするリスクは低いと考えられます。ただし、日本についていうと、第二次世界大戦後に国債のデフォルトを起こしています。核戦争や世界大戦のような極限のリスクまで考えると、先進国の国債でもデフォルトする可能性があります。
理解できるリスクを負って利回りを確保する
リスク・フリー・レートを上回る利回りの債券には、なんらかのリスクがあります。
円建て債券についていうと、リスク・フリー・レートがほぼゼロなので、プラスの利回りには全て何らかのリスクがあることになります。何もリスクを負わなければ、利回りはほぼゼロになります。
理解できるリスクを負って、利回りを確保していくことが必要です。理由もわからずに、利回りの高い債券には投資すべきでありません。
【1】リスクを管理しつつ外国債券の投資
負うべきリスクには、いろいろあります。為替リスクや金利上昇リスクを適切にコントロールしながら、利回りの高い外国の長期国債に分散投資していく価値はあると思います。
ただし、信用リスク(信用低下で価格が下がるリスク、最悪デフォルトになるリスク)は、あまり負うべきでないと思います。信用の低い国の企業が発行している債券は、避けた方が良いと思います。
【2】REITへの投資
厳密にいうと債券ではないのですが、REITへの投資は、利回りを重視しながら投資するという意味で、債券投資と似た部分もあります(決して債券投資と同じではありません。誤解のないように)。
株と債券の中間的性格を持つREITへも一定比率、分散投資して良いと思います。ちなみに国内REITの平均分配金利回りは、11月16日現在3.8%です。
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