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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
【日本株】ナスダック・日経平均 反発 しぶとい米景気に期待と不安​

原油先物下落を好感して、ナスダックが反発

 先週(9月5~9日)の日経平均株価は、1週間で563円(2.0%)上昇し、2万8,214円となりました。

 先週は、原油先物や海運(定期船)市況の下落を受けてインフレ沈静化の期待が高まり、米国ナスダック総合指数が反発、4.1%上昇したことを受けて、世界的に株が反発しました。*WTI原油先物(期近)は、1バレル80ドル台まで下がり、ロシアによるウクライナ侵攻直前の92.09ドルを下回っています。

*WTI原油先物…ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で取引されているWTI(West Texas Intermediate)という原油の先物取引

ナスダック・日経平均比較:2019年末~2022年9月9日

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成。2019年末を100として指数化

WTI原油先物(期近):2021年1月4日~2022年9月9日

出所:QUICKより作成

 このコラムで毎週お伝えしている通り、世界の株式市場の最大の注目点は、減速してきた米景気がソフトランディングするかハードランディングとなるか【注】にあります。

【注】米景気ソフトランディング・ハードランディング
◆ソフトランディング・シナリオ:米景気減速によってインフレが沈静化に向かい、米利上げの早期停止が視野に入る。米景気はリセッション(景気後退)入りすることなく持ち直し、緩やかな景気拡張が続く。
◆ハードランディング・シナリオ:米景気が減速しても高水準のインフレが続く。FRB(米連邦準備制度理事会)は景気を犠牲にしてでもインフレ抑制を目指して急ピッチの引き締めを続ける。インフレと金利上昇を受けて、米景気がリセッション入りする。

 7月以降の動きを簡単に振り返ります。7~8月は、米景気ソフトランディング期待が高まってナスダックが急反発しました。

 ところが、8月26日のジャクソンホール会議でジェローム・パウエルFRB議長が「インフレ抑制のためには家計や企業に痛みを与えても金融引き締めをやり続けないとならない」と発言すると、ハードランディングの不安が再燃し、8月26日~9月6日までナスダックは急落しました。

 ところが、9月7~9日までの3営業日、ナスダックは反発しました。原油先物の下落や海運(定期船)市況の下落を受けて、インフレ沈静化の期待が復活し、ソフトランディングへの期待が一時的に復活した形です。

 ハードランディングかソフトランディングか、当分結論の出ないまま、思惑で乱高下する展開が続きそうです。

しぶとい米景気、減速したといっても雇用も景況指数も強い

 9月に発表された8月の雇用統計およびISM(米サプライマネジメント協会)景況指数は、米景気の減速を示しているものの、まだ米雇用は強く、米景気が堅調であることを示すものでした。

 8月の完全失業率は3.7%と、7月より0.2ポイント上昇したとはいえ、ほぼ完全雇用が続いていることがわかります。

完全失業率:2014年1月~2022年8月

出所:米労働省

 非農業部門の雇用者数は、前月比で31.5万人増加しました。増加幅が減ったとはいえ、人手不足の中で、雇用増加が続いていることがわかります。

非農業部門の雇用者増加数(前月比):2019年1月~2022年8月

出所:米労働省

 8月のISM景況指数は、米景気堅調を示すものでした。

ISM景況指数の推移:2018年1月~2022年8月

出所:米国ISM供給公社

 非製造業・製造業ともに、昨年11月以降低下が続いていますが、それでも、景況感の分かれ目である50は上回っています。8月は非製造業の景況が改善、製造業は52.8で横ばいでした。米景気がまだ好調であることを示しています。

 米景気が堅調であることは、日本の景気・企業業績にとってプラス材料です。ただし、FRBが急激な引き締めを続けることによるマイナス影響が懸念されます。

9月20~21日のFOMCで0.75%の利上げが想定される

 20~21日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、FRBが0.75%の利上げを実施するのはほぼ確実と見られています。パウエルFRB議長が「景気を犠牲にしてでもインフレ抑制のための引き締めをやり抜く」と繰り返し表明していること、米景気が減速したといっても、まだ好調であることが理由です。

 したがって、FRBが景気をオーバーキルする(やり過ぎて台なしにする)ことへの懸念はまだ続くと考えられます。

 米国株および日本株とも、長期的には良い買い場と考えていますが、短期的な下値波乱はまだ終わったとは判断できません。

日本株が堅調な三つの理由

 3月以降、米国株が弱い中で日本株は相対的に堅調です。日本株が堅調な理由は、以下三つです。

【1】円安

 先週、一時1ドル=144.98円まで円安が進みました。円安は日本の企業業績には大きなプラス要因です。円安による輸入物価の上昇が国民生活にマイナスなので「悪い円安」とメディアで盛んに言いたてていますが、企業業績にはプラス効果が大きいです。

【2】リオープン(経済再開)への期待

 日本は、ウィズコロナでリオープン(経済再開)への期待が高まっています。コロナで抑え込まれていた消費が一時的に大きく伸びる可能性があります。外国人旅行者の受け入れを増やす方向にあることにも、期待があります。

【3】日本の企業業績が良好

 好調だった2022年3月期に続き、今年度(2023年3月期)も小幅ながら増益が見込める可能性があります。以下が、東証上場主要841社の業績推移です。今期、楽天証券では、連結純利益が4.2%の増益になると予想しています。

東京証券取引所上場、3月期決算主要841社の連結純利益(前期比)

出所:楽天証券経済研究所が作成
注:2017年3月期より2021年3月期までは東証一部上場の主要841社から計算、2022年3月期・2023年3月期は東証プライム上場の主要841社から計算。東証一部主要841社のうち、東証再編でプライム市場に入らなかった54社は除外し、プライムに入った銘柄と入れ替え

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