※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「利回り4.4%・5.3% 三菱UFJ・三井住友FG「買い」判断継続」
不安材料山積の時に考える「ディープ・バリュー株投資」
世界的インフレ、FRB(米連邦準備制度理事会)による急な金融引き締め、世界景気減速、地政学リスクの高まり…。世界の株式市場には今、警戒が必要な材料がたくさんあります。日本株は割安で長期的には良い買い場と私は考えていますが、短期的なショック安はまだ終わっていない可能性があるとも思います。
こんな時、日本株への投資はどうしたら良いでしょうか? 二つの方法をご紹介します。
【1】インデックスファンドに積み立て投資
一つは、資産形成の王道「積み立て投資」を実践することです。毎月1万円など一定額を、投資信託やETF(上場投資信託)に投資していくのが良いと思います。日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)などに連動することを目指すインデックスファンドから始めたら良いと思います。
積み立て投資の良いところは、投資を始めてから日経平均が急騰しても急落しても、あまりストレスを感じずに続けられることです(人によってストレスの感じ方は異なります)。
積み立てを始めてから想定外に日経平均が急騰した時は、既に投資した分が値上がりしたのはうれしい一方、追加で購入する分は高くなった所で買わなければなりません。想定外に日経平均が急落した時は、既に投資した分が値下りするのが辛いですが追加で購入する分は安いところで買えます。
このように相場が上がっても下がっても一長一短なのであまりストレスを感じずに続けられることが多いのが、積み立て投資です。
【2】配当利回りの高いディープ・バリュー株から投資
もう一つは、「ディープ・バリュー株」への投資です。日本語でいうと、「極めて(ディープ)割安な(バリュー)株」です。PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの株価指標でみて「極めて割安」な銘柄で、予想配当利回りの高い株が理想的です。
株価指標だけで機械的に選ぶと「割安のワナ」にかかることもあるので、当然ですが、財務内容が良好で、収益基盤が堅固な銘柄を選別する必要があります。
三菱UFJ・三井住友の買い判断を強調
長期投資に適した予想配当利回りの高いディープ・バリュー株として私が推奨しているのが、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)(8306)と三井住友フィナンシャルグループ(FG)(8316)です。既に2022年4-6月期(2023年3月期の第1四半期)の決算が発表済みなので、その内容を踏まえた上で、両銘柄の買い判断を継続することをお伝えします。
三菱UFJFGと三井住友FGの2022年4-6月期連結純利益と業務純益
両社とも、好調な決算と判断しています。ただ、三菱UFJは外見が良くないので、少し説明が必要です。三井住友は見ての通り、純利益も業務純益とも増益で好調であったとわかります。
三菱UFJの純利益は大幅減益だが、実質的には好調
決算発表で最初に見られるのは、純利益です。上の表で、水色をまずご覧ください。三菱UFJの純利益は、前年同期比▲70%の大幅減益で、通期目標1兆円に対する進捗(しんちょく)率はたったの11%です。
第1四半期(3カ月)で会計年度(1年)の約4分の1が過ぎているので、進捗率は季節要因がなければ25%程度あって良いはずです。進捗率11%はかなり低く、通期目標が達成できるか疑問に思われるところです。
三菱UFJの2022年4-6月期は、実質的には好調と判断できます。純利益の水準が低いのは、一時的な会計上の損失が発生しているためです。その一時的損失のうち、かなりの部分が今年度の後半で特別利益として戻ってくると予想されます。
同社説明によると、「MUB【注】株式譲渡決定に伴う会計処理に関連した損失▲2,544億円を計上」したために2022年4-6月期の純利益は大幅減益となったものの、「当該損失のうちMUB株式譲渡時に特別利益として戻入になる1,579億円」を勘案すると、実質的な利益の進捗率は27%程度で、通期目標達成に向けて計画通りと推定されます。
なお、上記説明には詳しい前提条件がつけられていますが、ここで詳細は割愛します。詳細は、同社HPに掲載してある決算資料で確認してください。
【注】MUB
MUFGユニオンバンク。三菱UFJの前身である三菱銀行、東京銀行などが買収した米国の商業銀行。カリフォルニア州を中心に展開。三菱UFJグループの完全子会社となっていたが、2021年9月21日、USバンコープへの売却を決定したと公表。
当初2022年1-6月の実行を予定していたが、関連当局の許認可の遅れから2022年7-12月の実行となる見込みに変わった。実行の遅れから、2022年4-6月に一時的な会計上の損失が発生して株式譲渡実行時にその一部が特別利益で戻る会計処理が必要となった。
三菱UFJの業務純益は大幅増益
一時的な会計上の損益の影響を除外した、銀行業の「本業の利益」を表すのが「業務純益」です【注】。
【注】厳密にいうと、業務純益にも一部、一時的な損益が含まれることがあります。ただし、純利益に比べると、より本業の利益に近いと言えます。
先に掲載した業績表をもう一度見てください。右側に記載しているのが、業務純益です。ご覧いただくとわかる通り、第1四半期の三菱UFJの業務純益は前年同期比50%増で、通期目標に対する進捗率は33%です。金利上昇による利ザヤ(貸付金と預金の金利差)改善などの効果で、業務純益は好調であったことがわかります。
2社ともディープ・バリュー株と言える
2社とも、8月23日時点でPERとPBRが低く、予想配当利回りが高く、株価指標から見て極めて割安なディープ・バリュー株と言えます。
2社の株価バリュエーション:2022年8月23日時点
銘柄名 | 株価:円 | 配当利回り | PER:倍 | PBR:倍 |
---|---|---|---|---|
三菱UFJ FG | 723.1 | 4.4% | 9.0 | 0.52 |
三井住友 FG | 4,151.0 | 5.3% | 7.7 | 0.47 |
出所:両社決算資料より楽天証券経済研究所が作成。配当利回りは2023年3月期1株当たり年間配当金(会社予想)を8月23日株価で割って算出。1株当たり配当金は、三菱UFJ32円、三井住友FG220円。PERは、8月23日株価を2023年3月期1株当たり利益(会社予想または会社目標)で割って算出 |
金利が下がる都度、売られてきた銀行株
三菱UFJ、三井住友とも、高水準の利益をあげてきたにもかかわらず、株価は長期にわたり低迷してきたため、株価指標で見て割安です。両社の株価が過去どのように推移してきたかご覧ください。
日経平均および2メガ銀行株価の値動き比較:2007年1月~2022年8月(23日まで)
両社とも2008年以降、金利低下とともに売られてきました。金利が低下している間は、日経平均を大幅に下回るパフォーマンスとなっていました。
株式市場で「金利低下→銀行(金融業)の収益悪化」というイメージが定着しているので、金利が低下する都度、世界中で銀行株をはじめとして金融株が売り込まれました。
日米の長期金利(10年国債利回り)推移:2007年1月~2022年8月(23日)
両社とも、まず日本の長期金利が低下する過程で、売られました。さらに、ドルの長期金利低下を嫌気して売られました。
ところが、2021年以降、ドルの長期金利が上昇し始めると、世界的に金融株が上昇し、日本のメガ銀行株も上昇しました。世界の株式投資家は、今でも相変わらず、日本のメガ銀行株を、金利連動株として扱っています。
金利低下でも高水準の収益を維持
三菱UFJ、三井住友とも、金利低下期でも、安定的に高収益を稼いできました。「金利が下がると銀行の収益が悪化する」というイメージとは、異なります。
三菱UFJ、三井住友の連結純利益:2014年3月期実績~2023年3月期(会社予想)
上の表をご覧いただくと、「金利が下がるとメガ銀行の利益が出なくなる」という株式市場の思い込みが誤りであることがわかります。両社の連結純利益は、2019年3月期まで、長期金利がどんどん低下していく中でも安定的に高水準を保っています。
2020年3月期~2021年3月期はコロナ禍で信用コスト(貸倒償却および貸倒引当金繰入額)が増加したことによって、利益水準がやや下がりましたが、それでも高水準の利益を維持していたと評価できます。
2022年3月期(前期)、三菱UFJと三井住友はコロナ前の水準に利益が戻りました。想定されたほど貸倒れが発生しなかったことから、貸倒引当金の戻入益が大きくなったことが貢献しました。
ただし、2022年1-3月期(前期の第4四半期)にはロシア関連などで引当金や減損が発生して、利益水準が低くなりました。それでも前期、三菱UFJは最高益でした。低金利でも稼ぐメガ銀行の姿がよく表れています。
前期でロシア関連の引当金は充分に積んでいるので、今期以降、ロシア関連で大きな損失が発生することはないと予想されます。
2メガ銀行の与信コスト:2020年3月期~2022年3月期
三菱UFJと三井住友は、海外収益の拡大と、ユニバーサルバンク経営(証券・信託・リース・投資銀行業務などの多角化)によって、低金利でも高収益を稼ぐビジネスモデルができあがっていると考えられます。
三菱UFJと三井住友は、前期に続き今期も増配
両社とも株主への利益配分に積極的と評価できます。以下の通り、両社とも、コロナ禍で配当を据え置いた2021年3月期を除けば、安定的に増配を続けています。
2メガ銀行の1株当たり配当金:2017年3月期実績~2023年3月期(会社予想)
三菱UFJは自社株買いも発表
三菱UFJは、増配に加え、今期上限3,000億円(発行済総株式数の4.7%)の自社株買いを発表済みです。これで、特別配当4.7%を出すのと同等のメリットが投資家に及びます。
上限まで自社株買いを実行すると、発行済み株式数が4.7%減ります。すると、純利益の総額は変わらなくても、1株当たり利益が約4.7%増えます。PER評価が変わらなければ、株価は4.7%上昇することになります。
1株当たり利益が増えれば、それだけ将来の増配余地が高まるとも言えます。予想配当利回り4.4%に加え、4.7%の自社株買いが全て実行されれば、とても魅力的な株主への利益還元となります。
三井住友は、昨年11月に発表した自社株買いをまだやっていないので、今期、新たに設定する自社株買いは今のところありません。
財務良好、収益基盤・キャッシュフローも安定的な三菱UFJと三井住友は、ともに、株主への利益配分に積極的と言って良いですが、2社を比較すると、三菱UFJの方がより大きな還元をしていることがわかります。
予想配当利回りだけで比較すると、8月23日時点で三菱UFJ4.4%・三井住友5.3%と、三井住友の方が高いが、自社株買いまで含めたトータルの還元では三菱の方がより魅力的です。
2社とも「買い」推奨ですが、株主還元、海外展開力、収益基盤を比較すると三菱UFJの方がより投資価値が高いと判断しています。
2社とも保有する国内株式に巨額の含み益を有するが外債には巨額の含み損
2メガ銀行はこのように安定的に高収益を稼ぎ、不良債権比率は低水準にとどまり、財務良好です。それにもかかわらず、株価は長期にわたり低迷してきた結果、株価指標で見て極めて低い水準にあります。
どちらもPBRが約0.5倍と、解散価値の1倍を大きく割れているのは特筆できます。2022年6月末で三菱UFJは保有する有価証券に約1兆4,000億円、三井住友は約1兆7,000億円の含み益(純額)があることを考えると、ここまで株式市場で低評価なのは「売られ過ぎ」と判断しています。
両社とも保有する国内株式に巨額の含み益がありますが、保有する外国債券には巨額の含み損があります。ドル金利の上昇によって保有する外国債券の含み損が拡大しています。
2022年6月末時点で、外国債券の含み損は、三菱UFJで1兆2,181億円、三井住友FGで7,296億円に達しているもようです(ヘッジなど勘案しない金額)。ただし、株の含み益を合わせた純額で、巨額の含み益を有することに変わりなく、強固な財務基盤を有していることには変わりません。
なお、保有する外国債券に巨額の含み損が生じたことを、極めてネガティブにコメントするメディアもありますが、私はそうは思いません。金利上昇によって、将来外債投資で得られる利回りが拡大する効果、預貸金利ザヤが拡大する効果を勘案すると、金利上昇のトータル効果は、銀行業にとってプラスの方が大きいと考えています。
最後に告知事項です。筆者は過去に三井住友銀行に勤務したことがあり、三井住友FG株を9,000株保有しています。
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