※このレポートは、YouTube動画で視聴いただくこともできます。
著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
ソフトバンクグループどうなる?4-6月赤字3.1兆円 7-9月は再評価益など4.6兆円」 

ソフトバンクグループの4-6月は▲3兆1,627億円の純損失、通期は黒字維持の見通し

 ソフトバンクグループ(9984)(以下ソフトバンクGと表記)が8日発表した4-6月決算は▲3兆1,627億円の純損失でした。市場予想を超えた巨額赤字で驚かれました。ただし、同社は10日、7-9月に保有するアリババ株の再評価益などで約4.6兆円(税前)を計上する見通しと発表しました。

 4-6月で▲3.1兆円の純損失を計上しても、7-9月は巨額の利益を計上するので、通期(2023年3月期)ではなんとか黒字を達成できる見通しです。

ソフトバンクG業績推移:2016年3月期~2022年3月期実績、2023年3月期予想

出所:同社決算資料、2023年3月期はQUICKコンセンサス予想

 上記の業績推移をご覧いただくとわかりますが、ソフトバンクGは、2021年3月期に約5兆円の純利益をあげました。ところが、2022年3月期と2022年4-6月期で合わせて約5兆円の純損失を計上しました。2021年3月期にあげた5兆円を、その後の1年3カ月でほぼ全て失った形です。

 ただし、冒頭で説明した通り、ソフトバンクGは7-9月に、保有するアリババ株の再評価益などで約4.6兆円を計上する見通しです。同社は今期(2023年3月期)通期の業績予想を開示していませんが、4-6月の巨額損失を7-9月の再評価益などで埋め合わせして、通期(市場予想)では2,207億円の純利益を計上する見通しです。

4-6月の包括損失は▲1兆947億円、純損失ほど大きくない

 ソフトバンクGは4-6月で3.1兆円もの損失を計上したとはいえ、その大部分は会計上の損失です。会計基準の影響で、損失がやや大きく出過ぎている面があります。詳しく説明すると複雑になり過ぎるので、詳細は割愛しますが、一部だけ説明します。

 同社は4-6月、為替が円安にふれたことで、外貨建て借入に8,199億円の為替差損が発生していますが、円安によりバランスシートが改善した効果は利益として計上されていません。

 バランスシートへの影響なども含めた4-6月の企業価値変化全てをより的確に表す包括損益では、1兆947億円の損失にとどまります。

なぜ7-9月に4.6兆円もの再評価益をあげられるのか

 ソフトバンクGが保有するアリババ株に巨額の含み益があることは、かねてからわかっていたことです。これまでもアリババ株を少しずつ売却することで巨額の利益を計上してきました。ただ、巨額の含み益のほとんどは、含み益のまま温存してきました。

 今回4-6月で3.1兆円もの巨額損失を計上したため、財務面の守りを固めるために、保有するアリババ株の含み益を全て実現益とする決断をしたと考えられます。

 利益計上の仕組みについて、詳細は割愛しますが、ざっくり説明すると以下の通りです。

  1. ソフトバンクGは保有するアリババ株の一部を株式先渡売買契約の現物決済に充当(売却益計上)。
  2. ソフトバンクGによるアリババ株の保有比率は23.7%から14.6%に低下。
  3. 保有比率低下によりソフトバンクGの関連会社だったアリババは関連会社から外れる。
  4. 保有を続ける14.6%について関連会社から外れることにより時価会計が適用される(再評価益を計上)
  5. 【1】の売却益と【4】の再評価益を合わせて7-9月に税前利益に約4.6兆円の貢献。

ソフトバンクGの保有株の評価方法に2通りある:時価と簿価

 ソフトバンクGの純損益は、数兆円の黒字になったり数兆円の赤字になったり、激しく変動します。それはソフトバンクGが業態を投資ファンドに変更しつつあることによります。同社がソフトバンク・ビジョン・ファンド1(SVF1)やソフトバンク・ビジョン・ファンド2(SVF2)を通じて保有する上場・非上場の株式を全て時価評価する必要があるからです。

 ただし、ソフトバンクGには、時価評価しなくても良い保有株もあります。子会社や関連会社の株式は時価評価の対象ではありません。同社が保有してきた中国のインターネット販売大手アリババ株は、関連会社だったので時価評価されていません。

 ソフトバンクGは2000年1月、当時駆け出しのベンチャー企業だったアリババに約27億円を出資しました。アリババは急成長して2014年9月には米国で上場、同社が出資した27億円のアリババ株の価値は約5兆円に膨らみました。アリババ株は上場後も上昇し続け、ソフトバンクGが保有する含み益は一時推定20兆円に達しました。

 その後、アリババ株は中国政府のハイテク規制によって大きく下がり、含み益も大きく減りましたが、それでもなお、アリババ株に巨額の含み益があることはわかっていました。

 これまでもアリババ株を少しずつ売却することで巨額の利益を計上してきましたが、4-6月で3.1兆円もの巨額損失を計上したため、財務面の守りを固めるために、保有するアリババ株の含み益を全て実現益とする決断をしたと考えられます。

ソフトバンクGの変化、事業会社から投資ファンドに

 ソフトバンクGの事業の主体は、今は投資ファンド事業となっています。SVF1およびSVF2を通じて、「ユニコーン」(投資時の企業価値が10億ドルを超えると推定される未公開株)などに投資しています。テクノロジー活用によりさまざまな業種をリードする成長企業へ投資することで、AI革命を推進することを目指しています。

 ただし、前身のソフトバンクを含め、事業の主体が最初から投資ファンド事業だったわけではありません。最初は、読者のみなさんもご存じの通り、日米の携帯電話事業やインターネット事業を行う事業会社でした。事業をやりながら、アリババをはじめとした世界の先進テクノロジー企業への投資を始めました。

 通信事業の成長性が低下していく中で、同社は徐々に投資事業への傾注を強めていきました。SVF1で大成功したことを契機に、事業の主体をファンド事業に移しました。自己資金主体でSVF2を出すことで、ファンドとしての性格が一段と強まりました。

投資に対する考え方

 ソフトバンクGへの投資について現時点で「買い」とも「売り」とも判断できません。私は過去25年日本株のファンドマネージャーとして公的年金や投信の運用を行ってきましたが、もし私が今もファンドマネージャーならばニュートラル(中立:東証株価指数の構成比と同じ組入比率とすること)の投資判断とします。

 今後の投資価値を決めるのは、主にSVF2で保有する未上場株ユニコーンの先行きです。同社説明によると、AI事業などで将来性を期待するユニコーンに幅広く投資しています。投資時点での評価が高すぎたので、足元の決算で巨額の評価損を計上したものの、売上が順調に拡大している投資先が多いということです。

 今後、未上場ユニコーンの中からIPO(新規上場)によって時価評価額が大きく上昇する株が出てくるか、あるいは、未上場株の価値低下がさらに続くかによって、ソフトバンクGの株価も変化します。

 私はAI関連株から将来、多数の成長株が出てくると考えています。その意味でソフトバンクGにはいつか積極投資したいと考えています。ただし、それは時期尚早かもしれません。過大評価されていた未上場ユニコーンの評価額が十分に引き下げられたのか、わからないからです。私がファンドマネージャーならば、同社株をニュートラルで保有して、当面様子見するところです。

▼著者おすすめのバックナンバー

2022年7月27日:暴落した「東証マザーズ」株、投資タイミングは近い?ETFから投資開始も
2022年7月11日:8月優待人気トップ「イオン」の「買い」判断を強調、3-5月は最高
2022年7月7日:セブン&アイHD、武田薬品の投資価値を見直し。キャッシュフロー表に表れる構造変化