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著者の窪田真之が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
【日本株】バリュー上昇・グロース下落 グロース復活いつ?

バリュー株上昇・グロース株下落の極端な二極化が続いている

 28日の日経平均株価は、前日比178円高の2万7,049円と節目の2万7,000円を回復しました。配当利回りの高い大型バリュー株(割安株)中心の上昇が続いています。中でも、資源関連株(鉱業・石油・商社)や金融株(メガ銀行・大手損保など)の上昇が目立ちます。インフレ・金利上昇が追い風となっています。

 インフレ・金利上昇は、株式市場全体にとっては、マイナス材料と見られています。米インフレ(CPI総合指数の前年同月比上昇率)が5月に8.6%と過去40年でもっとも高い水準となったためFRB(米連邦準備制度理事会)が金融引き締めを急ぎ、それを受けて米国でも日本でも大型グロース株(成長株)の下落が大きくなっています。

 その環境下で、インフレ・金利上昇が追い風となる資源関連・金融の大型バリュー株は上昇が続いています。その結果、以下の通り、今年はバリュー上昇、グロース下落の極端な二極化が進んでいます。私が3大バリュー株とネーミングしている金融株・資源関連株・製造業の割安株がいずれも去年に続き、今年も好調です。

TOPIXバリュー指数・グロース指数・TOPIX・日経平均の年初からの騰落率:6月28日まで

出所:QUICKより楽天証券経済研究所が作成

インフレ・金利上昇が続く間はバリュー株優位が続くと予想

 2021年以降、バリュー株優位が続いています。それが、以下TOPIXバリュー指数、TOPIXグロース指数の動きを見るとわかります。

TOPIXバリュー指数とTOPIXグロース指数の日次推移:2020年12月30日~2022年6月28日

出所:QUICKより作成。2020年12月30日の値を100として指数化

 バリュー株とは、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)が低い、配当利回りが高いなど株価指標で見て割安な株のことです。金融株・資源関連株・製造業に、バリュー株が多数あります。そのバリュー株が2021年以降、好調です。世界景気回復にともなう米金利上昇で金融株が買われ、原油価格上昇で資源関連株が買われ、製造業の景況改善が自動車・鉄鋼・化学株などに追い風となっています。

 一方、グロース株には、コロナ禍でも業績好調だったIT・ネット関連株やバイオ関連株が含まれます。2016年から2020年まで5年間、グロース株好調・バリュー株不振が続き、グロース株はやや割高、バリュー株がかなり割安となったため、2021年以降はグロース株を売ってバリュー株を買う流れが出ていました。その流れが2022年に加速していることが、以下のグラフからわかります。

TOPIXバリュー指数とTOPIXグロース指数の次推移:2009年末-2022年6月(28日)

出所:QUICKデータより作成。2009年末の値を100として指数化

インフレ・金利上昇が懸念される間、バリュー優位が続くと考える理由

 今年いっぱい、バリュー優位が続く可能性があります。その理由は、以下2点です。

【1】バリュー・グロースのバリュエーション格差がいまだに大きい

 2021~2022年にバリュー優位が続いているとは言え、まだ短期的なことです。2016年から2020年まで5年、グロース株ばかりが上がりバリュー株が低迷する時期が続いた結果、グロース株はやや割高、バリュー株はかなり割安になっていました。グロース偏重の反動として、割安な株を見直す流れが始まっていますが、いまだにバリュエーション格差はかなり開いたままです。今しばらく、以下のイメージで示した、割安株相場が続くと予想しています。

成長株相場から割安株相場への転換(イメージ図)

出所:筆者作成

【2】「20世紀に逆戻り」の経済環境がしばらく続くと予想

 経済環境が一時的に20世紀に逆戻りしていることが、バリュー株復活の重要な要因となっています。今年話題になっているのは、米国のインフレ率が5月に8.6%と、過去40年で最高になり、米長期金利が3%台まで上がったことです。原油や天然ガスなど資源価格の上昇も話題となりました。これはリーマンショック前、あるいは古く20世紀の経済環境に一時的に逆戻りしていることを示します。モノや資源価格が上がり、金利が上がるのは、20世紀の経済環境です。

 21世紀、特にリーマンショック後は、モノの値段も資源価格も金利も下がるのが当たり前となっていました。製造業では稼げなくなる中、ネット関連やIT関連だけが成長する時代です。そうした環境の中で、IT・ネット関連の成長株だけが買い上げられ、オールドバリュー株(金融株・資源関連株・製造業)は低迷し続けました。

 今、一時的に20世紀の投資環境に戻ったことで、バリュー株の業績が拡大し、株価が見直される局面に入っています。20世紀は人類がモノの豊かさを求めて努力した時代でした。モノが不足し、資源価格が上がると、インフレになり金利が上がり、それを見て中央銀行が金融を引き締めました。それと同じことが今、米国で起こりつつあります。

  過去に、日本株でバリュー株優位が長く続いた時は、いずれもインフレや金利が上昇した時でした。代表的なものに以下があります。

◆1980年代後半のバリュー相場
円高と貿易戦争でグロース株(ハイテク株)がさえない中、内需中心にバブル景気が盛り上がり、バリュー株が活躍。

◆2000年代前半のバリュー相場
金融株や重厚長大産業が、構造改革で復活。BRICs(中国・インド・ブラジル・ロシア)と言われる新興国の成長加速で、資源価格が急騰、世界的にインフレ懸念が強まり、金利が上昇。

 以上の理由から、景気・企業業績が好調な中、インフレ・金利上昇が警戒される環境下では、日本株市場で景気敏感バリュー株のパフォーマンスが強い状態が続くと予想しています。

来年以降、グロース優位に戻ると予想する理由

 いつ頃、グロース優位に戻るか、予測するのは難しいところですが、1つだけ言えるのは、グロース優位とバリュー優位は循環するということです。いつまでもグロースばかりが買われるということはなく、いつかバリュー株の揺り戻しがあります。それが今起こっています。ただし、いつまでもバリュー優位ということもありません。いずれグロース優位に戻ります。

 バリュー復活の要因となっている「20世紀に逆戻り」の経済環境も、このままいつまでも続くとは考えられません。今年いっぱいインフレ復活が話題になりますが、来年には、再び資源価格が下がり、世界的にインフレが鎮静化し、長期金利が低下する局面が来ると考えられます。そうなると、再び、グロース優位の相場になると考えられます。

 来年は、21世紀の経済環境に戻り、AI(人口知能)・5G(第5世代移動体通信)を活用した第4次産業革命が世界中で加速すると考えています。そうした環境下で、再びIT・ネット関連の成長株が上昇する環境になると予想しています。来年にはグロース優位に戻ることも考えて、少しずつグロース株の押し目を拾っていくことも考えて良いと思います。

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