1.株安でS&P500の予想PERは16倍台に低下した

 米国市場では18日以降、S&P500種指数が節目とされる4,000ポイントを割り込んで推移する不安定な動きとなっています(25日)。米大手銀行(BofA)が実施している最新のファンドマネジャー調査(5月17日公表)によると、FMが保有する5月の平均現金(キャッシュ)比率は6.1%と2001年9月以来の高水準に達しました。

 機関投資家の多くが、世界経済の成長見通し鈍化やスタグフレーション(物価上昇と景気停滞の同時進行)への警戒感を強め、一段の株安リスクを見込む慎重姿勢が示されました。ただ、この現金比率は2020年4月にも同程度まで上昇した経緯があり、投資家がすでに株式を売った可能性を示しており、売られ過ぎを示唆する逆張り指標としても知られています。

 実際、S&P500は先週19日に年初来安値を更新。過去最高値(1月3日の終値:4,796.56)からの下落率が18.7%に及んだ時点(終値:3,900.79)で予想PER(株価収益率)は16倍台まで低下し、値ごろ感が浮上しています。

 図表1は、2011年以降(過去約10年)におけるS&P500の予想PERを示したものです。

 長期の週次データで振り返ると、同期間の予想PERの算術平均は16.9倍で、「±1σ(標準偏差)」(約7割の生起確率があるとされる範囲)が19.9倍から13.8倍であったことがわかります。20日時点の予想PERは16.6倍に低下し、24倍以上で推移していた2020年や22倍前後で推移していた2021年と比較した場合の割安感がみてとれます。

<図表1:PER低下で米国株の割高感は解消されつつある>

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2011年初~2022年5月20日/週次)

2.配当貴族指数の相対パフォーマンスに注目

 株式市場が調整している中、長期的な視野に立った米国の「配当貴族指数」(S&P Dividend Aristocrats Index)のパフォーマンス優勢に注目したいと思います。

 配当貴族指数とは、S&P500構成銘柄(大手企業)のうち「25年以上連続して配当を増やし続けてきた優良銘柄」(現在は64銘柄:S&Pグローバルが選定)で構成されています。

 図表2は、2000年初を100とした配当貴族指数、S&P500種指数(米国市場平均)、TOPIX(東証株価指数)(日本市場平均)の総収益指数(配当込みトータルリターンインデックス)の推移を比較したものです。

 配当貴族指数の総収益指数は、S&P500指数やTOPIXの総収益指数に対して優勢を鮮明にしてきました。2000年以降には、米国経済が停滞に陥ったことが幾度かありました。2000年のITバブル崩壊後、2008年の金融危機時、2020年のパンデミック危機で景気後退入りを余儀なくされた経緯があります。

 こうして、経営環境が一時的に悪化しても毎年(毎期)着実に配当を増やし続けてきた企業群(配当貴族指数)が市場で相対的に評価されてきたことが示されています。「配当を切れ目なく増やし続けてきた企業」は「株主還元を重視した経営を実践している企業」として今後も市場で評価されていくと考えられます。

<図表2:配当貴族指数の長期相対パフォーマンスは優勢>

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2000年初~2022年5月20日)

3.「配当貴族」を目指す具体的な投資戦略は?

 配当貴族指数の主要構成銘柄(時価総額で上位10銘柄)を図表3に一覧にしました。「長期連続増配銘柄」には、世界でブランド名が知られている安定成長セクター(業種)に属する企業が多いことがわかります。

 特に、ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)、プロクター&ギャンブル(PG)、コカ・コーラ(KO)、ペプシコ(PEP)、マクドナルド(MCD)など40年以上連続して配当を増やし続けてきた銘柄群にはブランド力が高い安定成長企業が目立ちます。

 日本の東証上場銘柄で「配当貴族」(25年以上の連続増配企業)の名に値する銘柄は、32期連続で増配してきた花王(東証コード:4452)のみとなっています。

 株式市場全体が下落して波乱含みとなっている時こそ、「いかなる経営環境に陥っても配当を毎年(毎期)着実に増やし続けてきた実績」を持つ企業群に注目したいと思います。

<図表3:配当貴族指数の主力銘柄をチェックする>

*予想PERや予想配当利回りは市場予想平均 出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2022年5月25日)

 上記した連続増配で実績のある個別銘柄に投資する方法以外にも、「連続増配銘柄に広く分散投資するETF(上場投資信託)」に投資する方法もあります。

 例えば、米国籍ETFの「バンガード米国増配株ETF」(ティッカーシンボル:VIG)は、米国市場で「10年以上連続増配実績のある大型・中型株で構成されている株価指数」(S&P US Dividend Growers Index)に連動する投資成果を目指して運用されているETFです(図表4)。

 同ETFは四半期ごとに(各銘柄の配当金を集約した)分配金を受益者に支払う「実績分配型ファンド」となっています。

 同ファンドの組入れ銘柄数は292銘柄で、保有上位10銘柄はマイクロソフト(MSFT)、ユナイテッドヘルス・グループ(UNH)、ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)、プロクター・アンド・ギャンブル(PG)、JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(JPM)、ビザ(V)、ホーム・デポ(HD)、マスター・カード(MA)、コカ・コーラ(KO)、ペプシコ(PEP)となっています(出所:Bloomberg)。

 こうしたETFを買い付けて銘柄分散投資を実践していくことで「連続増配の期待が高い銘柄を幅広く保有するポートフォリオ」を資産形成に取り込むことが可能となります。

<図表4:連続増配銘柄に分散投資する米国籍ETFもある>

出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2022年4月末(月次))

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